40 案内しましょ
俺はまず部屋の案内をすることにした。 荷物の整理とかはまとまった時間があった方がいいだろうしね。
「それじゃあ、まずは今使用用途が決まってる部屋の案内しちゃおうか」
「よろしくお願いしますです。 お師匠様」
「よろしくお願いします」
まずは今いる玄関からだ。
「ここは見て分かる通り玄関なんだけど、そこの扉の向こう側は着替え室になってる。 本来は武器とか防具をそこに置いといて装備して出かけたりするんだけど、ソフトレザーの鎧くらいだからあんまり使わないね。 汚れた時はそこで着替えて入るようにしようと思ってる」
「お師匠様は冒険者なのですよね? だったら、いつも汚れて帰ってくる気がするのですがどうなのです?」
「魔法で遠距離からズドンだから返り血は浴びないし、解体も理由があって汚れない。 狩りの途中で雨でも降れば別だけど、それ以外だと汚れなんて土埃くらいだからなぁ」
「お師匠様は強いのですね!」
「いや、強いわけじゃないよ。 ただ、隠れるのがうまくて不意打ちでオークを戦闘不能に出来るだけだよ。 逆にまともに戦った経験なんてほとんどないから、強敵なんかにあったら逃げるしかないね」
「えっと……えっと……」
どう答えを返していいのかわからずにソフィーがオロオロし出した。 別に気にするような事でもないのにね。
「オークを倒せるくらいの冒険者って覚えておけば問題ないよ」
「あ、はいなのです」
「それじゃあ、次に行こうか」
そう言って俺は案内をする。 リビング、ダイニング、キッチン、トイレそしてお風呂。 お風呂場があってもソフィーは大して驚いておらず、ここにあるのですね。 くらいの反応だった。 まぁさんざんシーラがお嬢様って言ってたわけだし、わかってはいたけどやっぱりいいとこのお嬢様なんだろうね。 一般家庭にお風呂なんてないし。
それでシーラはさっきからほとんど話していない。 なんとなくメイドは引いた所でお仕えするって感じなのかなって思う。
そして、ソフィーが1番興味を引きそうで、しかしがっかりしそうな部屋の前に来た。
「ここが1階最後の部屋だね。 本来はパーティーとか開く場所らしいんだけど、そんな予定もする気もないから錬金術用の部屋にしてある」
「ここが錬金術用のお部屋ですか!」
「興奮してる所悪いけど、中を見てもがっかりしかしないよ」
俺は多分困ったような顔をしてると思う。 実際見てもらった方が早いと扉を開けると、ソフィーは飛び込んでいった。
「ここが……錬金術用の部屋なのです?」
広い部屋に大きめの1人用の机が2つ置いてあり机の上には魔玉2個づつと桶が置いてある。 後は棚が置いてあり、そこには魔玉の素材となる水晶が置いてある。 ただそれだけの部屋だ。 ソフィーは完全に思い描いていた物と違って殺風景な部屋の様子に戸惑っているようだ。
「ここが錬金術用の部屋であるのなら、どうしてこのような状態なのでしょうか?」
シーラさんの言葉にちょっと怒ってるような感じが含まれてるような気がする。 いやだってしょうがないじゃないですか……。
「2人がどんな風に思っているかはわかりませんけど、実際はこんなもんだよ。 俺自身もここに住み始めてまだ日が浅いし、その前は実家で物を多く置いておくこともできなかった。 この部屋はこれから錬金術の素材倉庫にもなるんだよ。 素材集めても使えるかどうかはわからないけれどもね」
「アレック様からお師匠様は多くの人を助ける錬金術師だとお聞きしましたです。 こんな状態でそれができるですか?」
そう言われた俺は空間収納からポーションを取り出した。
「多くの人を助けてるのはこのポーションだ。 ポーションの事は知ってる?」
「はいです。 冒険者の必需品だけど、保存が効かない物だって聞いたです」
「俺の作るポーションは他のポーションよりも、効果が高く、容器も小さい、そして長期保存が可能だ。 今の所効果が弱くなったって報告もないよ。 長期保存ができるからこの町の警備隊が貯蔵してて、そのおかげでゴブリンの上位種が出た時に多くの人が死なずにすんだ。 逆に言えば、このポーションが作れるだけで多くの人を助ける錬金術師になれる訳だね」
その話を聞いて、ソフィーは目をパチパチさせている。 アレックさんも詳しく話したわけじゃないのかもしれない。 だから想像が大きくなりすぎて、きっと色々なものを作れるすごい錬金術師みたいなイメージが出来上がっていたのかもしれない。
「しかし、この状態でポーションが作れるのですか?」
「ポーションの材料は、薬草と魔力水だよ。 薬草は萎れてる物を使う訳にはいかないから、使う分くらいをもらってくる。 それは俺の空間収納に入ってる。 魔力水は、その桶にウォーターで水を張って魔力を流して作る。 この部屋に置いておく必要があるのは魔力水をいれる桶くらいなものだよ」
「ですが、それ以外の道具が必要なはずです。 それすらないのはどう考えてもおかしいと思うのですが」
シーラさんは静かにだけどイライラしてるみたいだし、ソフィーは部屋の様子に戸惑っていたのが今はシーラの様子にオロオロしている。 でも、不思議に思っているのは確かなのかシーラの言葉を止めることはない。 ただオロオロして本当にどうすればいいのかわからないだけかも知れないけどね。
「ギフト錬金術は素材だけがあればいい。 実際作ってみた方が早いかな」
口でいくら説明したところで納得できない事もあるだろうと思う。 シーラはソフィーが微妙な立場で外に出されたはずなのにそれでもついてくる人だ。 それだけソフィーの事を大事に思っているんだと思う。 なら論より証拠? 百聞は一見に如かず? そんな感じでやってみようかね。
俺は、桶に水を張って魔力を流し魔力水を作って薬草を並べる。 今回は魔玉はなしだ。 どうなるかわからないけど、最初からこれが必要な物だって思わせるのは良くないんじゃないかと思ったからだ。
「それじゃ、机の反対側で見てて……。 それじゃ行くよ。 錬金開始」
2人が机の反対側についたのを確認してから、錬金術を使う。 いつも通りの工程を経て机の上には10本のポーションが置かれていた。
「ギフト錬金術ってのはこんな感じだよ」
「これがギフト錬金術……」
シーラは唖然とした様子で絞り出すように一言そう言った。 そして目の前で初めてギフト錬金術が使われるのを見たソフィーは何かをため込んでた。
「お師匠様! これが! これがギフト錬金術なのですね! すごいです! すごくきれいだったのです!」
ため込んだものが爆発して、ものすごい興奮してた。 その後に目を閉じてうっとりしてた。 さっきの光景を思い出してるのかもしれない。 これから先は見慣れたものになっていくだろうけど今は初めてだしなぁ。
「お師匠様! 私もやってみたいです!」
「これからの部屋決めて、これからの生活の事話し合って、荷物の整理が終わったらな」
「お、お師匠様……。 ここで焦らすのは反則です……」
反則と言われてもね……。 ちゃんと説明しないとダメだろうね。
「ギフト錬金術は魔力を大量に使う。 魔力が減り過ぎるとボーとしたり、最悪気絶する。 そうなる可能性があるんだから、必要な事を先に決めるのは当然だろ。 それに錬金術の話は本当は話し合いとか全部終わってからだって言ったけど、今少し話したんだから我慢しなさい」
「ぐぬぬぬぬ……」
お嬢様がぐぬぬぬぬって……。 俺1人じゃ説得しきれないなら、手伝ってもらえばいいだけの話だしな。 ……手伝ってくれるだろうか?
「シーラ、先に決めるべきことは決めてしまうべきだとは思わない?」
シーラは少し考えてから、
「そうですね。 錬金術に関してはこれから時間をかけてやっていくべきことです。 ですが、家のルールや部屋割り、整理などは一刻も早く終わらせてしまうべきだと考えます」
「あうあう……。 わかったのです……」
テンションの上がり下がりが激しい子だなと思いながら、俺は部屋の案内を再開する。 とはいえっても、後は2階で俺が使ってる部屋がどこか教えて、後は好きに使ってもらうだけなんだけどもね。
その結果、俺の部屋の隣がなぜかソフィーになり、もっとも離れた部屋にシーラが住むことになった。 なんで?
「お師匠様の近くにいれば、すぐにお話しできるです!」
「私は、お二人よりも早く起き遅く寝るため、お邪魔になりにくい部屋にさせていただきました」
お嬢様が男の隣なんて! とかシーラさんが言いながら割って入るかと思ってたのにまさかの遠い部屋。 理由は確かにわかるけど、俺もかなり早起きですよ? まぁいっか。 ソフィーはわかりやすい理由だけど夜遅くに突然入ってきたりしないよね? お願いですからしないでほしいなと祈るばかりです。
この後は、家のルールを決めた。 お風呂に入る順番だとか、部屋に入る時は必ずノックするとか、出かける時には必ず一声かけるとか、家の事は基本シーラがやるから手を出さないとかそんな感じだ。 緑茶ぐらい俺にいれさせてくれ。
錬金術の授業に関しては、まずはやってみてから決めることにした。 今現在のソフィーが何をするべきなのかさっぱりわからないのだ。 1番魔力量が少なく作れる紙が作れるだけの魔力があるのか? それとももっと多いのか少ないのか? スキルも確認した方がいいと思ってる。 どこから出発なのかわからなければどうしようもないのだ。
なんだかんだと話してるうちに夕食の時間が近づいてきていた。 昼食べ損ねた。 それは置いといて夕食を食べ終わって、お風呂に入ったらソフィーの初めての錬金術講座が始まる。




