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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
39/86

39 お弟子さん到着

 第8勇者187年、無の月、水の週、火の日


 新年の1日目はみんな教会にお祈りに行く。 だから、その仕事を終えてから予定通りアレックさんは王都に迎えに行った。 

 俺としては向こうが男と一緒に暮らしたくなんてない! と言ってくれる事を期待していた。


 家に関しては色々見せてもらったけれど、完全に俺の趣味で選ばせてもらった。 

 その家は異世界の勇者様の家を模したという和風の家だ。 2階建てで玄関で靴を脱ぐ。 玄関はかなり広くとってあり、汚れて帰ってきた時の為に着替え室も併設させていた。 そしてお風呂がある。 家自体も無駄に広い。 10人くらいは普通に住めそうだ。 

 玄関で靴を脱ぎ、お風呂がある家を和風の家というけど、王都には純和風という家もあるらしい。 木造平屋の広い家で立派な庭があり、草を編んだタタミとよばれるものが床に敷いてあるらしい。初めてこういう和風の家に入ったけれど、なんだかすごく落ち着いたのでここにさせてもらった。 純和風にも興味はあるけど遠いから無理だね。

 この家に決めた時アレックさんが、早めにこの家を購入してくれると助かるなと頬をピクピクさせていたのでお高い家なのだろう。 ちょっといい気味だ。


 そして昨日、アレックさんが帰ってくるので家にいてほしいとの連絡があったために自宅待機だ。 

 和風の家ということで所々で異世界風の物が置いてある。 ただ、異世界風にも色々あるので統一感が大事だと思い、似た傾向のもので揃えてある。

 今は緑茶を飲んでいる最中だ。 この緑茶どちらかと言えば手に入るけどそこそこのお値段がするものだ。 理由は単純に需要があまりないのだ。 実際、実家にいた時は1度も飲んだことがない。 

 俺はランチ亭で注文して飲んでからは大ファンである。 でも、周りの受けは悪い。 勇者様大好きな人達も、あの勇者様はこれがお好き、あの勇者様はこれがお好き。 とブツブツつぶやきながら微妙な顔で飲んだりしてた。 そこまでして飲まなくてもと思う。


 そんな風に緑茶おいしいのになー、苦手なら飲まなくてもいいのになーなんて考えてたら家に近づいてくるよく知った気配を感じた。 

 知らない気配も4つほどある。 え? もしかして4人も来たの? もしかしたら執事さんかもしれない! メイドさんがいるなら執事さんがいてもいいはずだ! そんな淡い期待を抱いて俺は玄関の外へと出迎えに行った。

 俺が外に出ると馬車からアレックさんがすでに降りていた。 そうだよね。 俺も冷静ではなかったみたいだ。 知らない気配のうち1つは馬だった。 もう1つは御者さんでした。  


「やあ、ユリト君久しぶりだね。 元気にしていたかい? 出迎えてくれてありがとうね」


「お久しぶりです。 元気にしてましたよ。 家もなかなかの住み心地ですしね」


 俺とアレックさんが挨拶してる間に、馬車から2人降りてきた。 

 1人は黒髪を後ろで束ねてポニーテールにしているメイドさんだ。 ただ胸が……これ以上は考えてはいけない。 女性には男にはわからない感覚があり、変な事を考えているとバレるのだ。

 もう1人は亜麻色の髪を肩くらいで揃えた女の子で、大きいリボンをつけている。 なんとなくいいとこのお嬢さんぽさがある気がする。 アレックさんの話を聞いてるからそう思うだけかもしれないけどね。 見た目は歳相応だろうか? 女の子は俺に気が付くと近づいてきた。


「こんにちは、私はソフィアっていうです。 あなたが私のお師匠様なのですか?」


「こんにちは、ユリトです。 ギフト錬金術の使い方を教わりに来たなら俺が師匠になるのかな」


 俺がそう言うと、目をキラキラさせて俺の事を見だした。 そんな目で見ないで! 教える事なんてほとんどないからそんな目でみないで! 俺の内心をよそにソフィアは色々と話がしたい! と思わせる様子で身を乗り出してきていた。 そういえば名前はなんて呼べばいいんだろ?


「あのですね、あのですね!」


「お嬢様、まずは中に上がらせていただいてはどうでしょうか。 このままではゆっくりお話しすることもできないかと思います」


 メイドさんは手荷物2つしか持っていなかった。 まだ馬車の中に荷物があるんだろうけど、それを降ろす様子がない。 

 アレックさんもいるし、中に入った方がいいとは思うんだけどね。 そしてさらりと言ったけど、お嬢様って言ってたよね? 確かに言ってたよね? 

「あう……。 そうですね……。 あのお師匠様、お邪魔させていただいてもよろしいですか?」


「そうだね。 その方が落ち着いて話せるしね」


 そう言って俺はみんなを家の中へと招いた。 御者さんは外で馬車と一緒に待ってるみたいだ。 玄関に入りそのまま入って行こうとする二人を止める。


「ちょっと待ってください。 この家では玄関で靴を脱いでください。 それで、そこに用意してあるスリッパに履き替えてください。 それはお客様用なので今度自分用の物を買いに行きましょう。 脱いだ靴はこっちの靴箱に入れておきましょう。 所で2人の荷物はそれだけですか?」


「靴を脱ぐのですね。 わかりましたです。 荷物はこれだけですよ」


「このバックはマジックバックですので、見た目などよりもはるかに多くの荷物が入ります。 それに必要なものはこちらで買い揃えることにしておりますのでご心配には及びません」


 俺がメイドさんの言葉に納得してる間に、アレックさんはさっさと中に入って行った。 慌てて俺達も後を追った。


「ふむ、前に来た時とはなにか色々違うね」


「それはもう俺の家ですからね。 好き勝手やってますよ」


「教会が家賃を出しているのだがなぁ」


「大家さんには購入の話はもうしてあります。 いつ家賃支払い終わらせてもいいですよ。 ただ、支払終わらせてからあの2人をどうするんですか?」


「この短い間によくもまぁ……。 最低でも彼女が15になるまでは支援させてもらうよ」


「その間にお金貯められるので助かりますよ」


 こんな感じでやりとりする俺達を見て、目をまるくしてるのがあの2人だ。 どうしたのかな?


「2人ともどうかしましたか?」


「いえ! なんでもないです!」


「アレック様とそのように話ができるというのは無知とは恐ろしい物です」


 やっぱりアレックさんはそれなりに地位のある人みたいだけど、教えてくれないしなぁ。 知りたくもないけどね。


「その辺は気にしないでください。 俺も知りたいとは思っていませんしね。 飲み物用意するので座っててください」


「飲み物でしたら私が用意いたします」


「あ~なら、場所だけ教えますね」


 俺はメイドさんを台所に案内した。 俺はまだ飲みかけの緑茶があるので断って2人の所に戻ってきた。 戻ってきたらアレックさんが俺の緑茶飲んで渋い顔をしてた。


「人の物勝手に飲んでその顔ですか……。 聖職者でしたよね?」


「いや、喉が渇いてね。 飲ませてもらったんだが、緑茶はやっぱり苦手だ」


「苦手ならメイドさんが戻ってくるの待っててくださいよ」


 俺はアレックさんから緑茶を取り戻して飲むのだがその様子をまじまじと女の子に見られてた。


「え~と、どうかしたのかな?」


「お師匠様はその緑色の飲み物がお好きなのですか?」


「俺は好きだぞ。 他の人は大体苦手だっていうけどね」


 ジーと俺の緑茶を見てくる。 もしかして飲んでみたいのだろうか? だけど今メイドさんが用意してるし、飲みかけを女の子に渡すのも気が引ける。


「飲み物はメイドさんが用意してくれてるんだからもう少し待っててね」


「あぅ……わかったのです」


「さて……、2人はちゃんと自己紹介した方がいいんじゃないのかな? 名前くらいしか知らないだろ」


 確かにさっきは名前しか聞いてない。 呼び方も聞いておいた方がいいだろうしギフト錬金術持ちくらいしか知らないからなぁ。


「確かにそうですね。 でも、メイドさんはどうするんですか?」


「私は使用人ですので最後に少し紹介させていただければと思います」


 いつの間にやらメイドさんが戻ってきて飲み物を配っていた。 アレックさんが一口飲んで落ち着いた顔してる。 さっきの緑茶の味が口の中に残ってたのがそんなに嫌だったんだろうか?


「それなら俺からしますね。 俺はユリト、ギフト錬金術でポーション作ったり、冒険者として活動してます。 よろしくお願いします」


 そう挨拶した。 俺はもう家を出たのでアルミスは名乗れないのだ。 結婚して子供ができたら、何か考えないといけないんだよね……。 先の事で悩む必要はないか。


「そ、それでは次は私がさせてもらいますです! 私はソフィアです。 11歳で光の月、光の週、光の日に12歳になるです。 ギフトは錬金術と光属性を持っていて、魔力はC判定です。 お師匠様の下で錬金術を使いこなせるようになりたいです! よろしくお願いしますです」


 光属性持ちならわざわざ錬金術使える必要はない気がするんだけどなぁ……。 本人が使いたいって言ってるんだからいっか。


「では最後に私が……。 私はシーラと申します。 お嬢様にお仕えしておりますが、一緒に住むユリト様のお世話もさせていただきます。 お屋敷の維持管理、家事全般は私におまかせください」


「私の出る幕がないね。 それでお互い聞きたいことがあれば聞いてみるといいんじゃないかな?」


 アレックさんが進行役みたいだな。 まぁ3人だけじゃどう話し出したらいいかわからないしね。


「ではお師匠様! 錬金術の事を教えてください!」


「ソフィア、気持ちは分かるがそれは私が帰ってからにしようか。 時間はいくらでもあるんだからね」


 アレックさんに言われ、シュンとして引き下がる女の子。 いつまでも女の子じゃあれだから呼び方をさっさと確定してしまおう。


「それじゃあ、俺から聞くけど2人の事はなんて呼べばいいのかな?」


「私は弟子ですのでソフィアって呼び捨てでいいです。 でも……あの……ソフィーって呼んでもらえるともっと嬉しいです」


「私はメイドですのでシーラとお呼びください」


「ソフィーはいいけど、年上を呼び捨てはちょっとしにくいのでシーラさんでもいいですか?」


「お嬢様を愛称で呼ぶのに下の者に敬称をつけるのはよくありませんので呼び捨てでお願いします」


 メイドさんは呼び捨てでないとだめらしい。 見た目チビッ子のミュースさんでさえ年上だからさんづけなのに!


「使用人とはそういうものだよ。 ユリト君諦めた方がいいよ」


 アレックさんの言葉に俺はがっくりしたが、そういうものなら仕方がないよね。


「わかりました。 えーと……シーラ、よろしくお願いしますね」


「こちらこそよろしくお願いします。 ただ私に丁寧に話す必要もないのでそれも合わせてお願いします」


「あ、それ私もなのです! 私もお師匠様の弟子ですので、おいソフィー肩もめ。 とか言ってくれてかまわないのです」


 追加要請キターーー! 俺は思わずアレックさんを見てしまったが、苦笑いしながら諦めろと言わんばかりの態度をとっていた。 最近は折れる事ばっかりだなぁ……まぁいっか。


「了解、2人ともこれからよろしく」


「はいです!」


「よろしくお願いします」


 こうしてようやく最初の挨拶が終わった。 まだまだこれから色々と決める事もあるだろうけど第1段階はこれにて終了かな。


「では、挨拶も無事すんだようだし私はここらで帰らせてもらうよ。 ソフィア、道中色々話をしたけど君は君なりに幸せにおなり」


「はいです! 色々とありがとうございました!」


 そしてアレックさんを玄関まで送って行った。 外履き用のサンダルもあった方がいいかもしれないとこの時思った。 そうすればスムーズに外まで見送りに行けたのに……。 

 そんな事は気にせずにアレックさんは玄関まででいいと言って出て行った。 これからいっそう迷惑かける気がするけれどね。


「さて、俺達はこれからの事話し合おうか」


「錬金術ですね!」


 目をきらきらさせながらソフィーが俺に言ってきたが、残念ながらそれ以前に決めなきゃいけないことがまだまだあるのだ。


「錬金術は後だよ。 まだ部屋割りだって決めてないんだからさ」


 ソフィーがしょんぼり残念そうにしてるが、先にやることやってしまわないと困るのは自分たちなのだ。 ここは心を鬼にしてやってしまおう。


「それじゃ、家の中を見て回って、思いついたこととか色々話し合って決めちゃおうか。 話終わったら、錬金術の話もするからがんばろうか」


 そういうと、ソフィーの元気が戻ってきたようだ。 まだまだ先とはいえ教えてくれるを確約したのが良かったのかな? それにしてもずっと放置してたけど言っておこうか。


「ところで、お師匠様ってやめない?」


「お師匠様はお師匠様ですから!」


「お師匠様ってほど、ギフト錬金術は教える事ないんだけどね」


 ギフト錬金術は感覚で理解するものだ。 だから俺が師匠でいる時間はすごく短い。 この時の俺はそう思って特に深く考えずにこの呼び方を受け入れたのだった。

 気恥ずかしいから本当はすぐにでもやめてもらいたいんだけどね。

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