35 その知識は突然に
火の月、水の週、無の日。 ダスベステ武具店の事から2か月がたった。
装備の調子はすこぶるよく、オークは危なげなく順調に倒して最近レベルが上がった。 今度レベルがあがるのはいつになることやら……。
ポーションプラスはギルドの必要に応じて納品している。 新人サポートをする冒険者の中でもギルドが特に信用してる人に預けて不慮の事態に備えてるって言ってた。 実際に無謀な特攻をした新人が何人かお世話になっているようだ。 そのおかげ(?)でちょこちょこ売れてる。
ついでに作れる数も増えている。 薬草5束にスライムの核2個で4つ作れる。 でも、なにか足りない気がしていた。
スライムの核は順調に集まっていた。 色々なついでで取ってくるらしい。 雨が降ると井戸の周りにすら出て来るので、雨が上がると子供たちが町中でスライムが現れそうな場所を探索してる姿をみかけるようになった。 ギルドの人には買取り値段を下げるか聞かれたけどまだまだ集めたい。 よくわからないけどもっともっとほしい。 錬金術で新しい物が作れる兆候かもしれない。
そんなこんなで変化はありながらも俺は非常に安定した生活を送っていた。
安定しすぎてレベルあげとか行かなくてもいいんじゃないの? とか思ったのは内緒だ。 まだ立ち止まるのは早すぎる! だって12歳だもん! 時々自分でも本当に12歳か? って思うし、話をしているうちに子供と話してる気がしなくなってくるとか言われるけど俺は12歳です。 魔力草を手に入れるために森の奥へ行ける実力をつけるのです。
朝の日課のポーションとポーションプラスを作り終わった時に唐突に何が足りないのかわかった気がした。 預けた後ほとんど何も言われてないあれらを返してもらおう。 この時、俺の意識ははっきりしてるようでぼんやりしてた。
教会でお祈り、掃除、子供たちと遊ぶなどをこなした。
もう剣術は完全にマティスさん達に役目を譲った。 そう達だ。 マティスさんは1人で教えるのが面倒になったと言う事で冒険者や警備隊の知り合いに声をかけて、子供たちを鍛えている。
道場から文句が来るかと思ったら、これで道場を閉められる! と大喜びだったそうだ。 継続的に教えるには体がきつくなっていたそうだ。 それでも教えるのは好きなのか、たまにここに来て教えてくれてる。
お昼を食べた後に俺はアレックさんと会っていた。
「やあ、ユリト君こんにちは。 先週は何か面白い事はあったかい?」
ここの所は安定した生活を送っているので特に話すこともない。 だけど用事はある。 あれらを返してもらうのだ。
「ここ最近のいつも通りな1週間でした。 それよりもアレックさん、お願いがあるんですけどいいですか?」
「おや、ユリト君がお願いかい? いったい何かな?」
「4属性界石と魔玉の元を返してもらいたいんです」
「魔玉の元? それと界石をかい……? 君が持ってると騒ぎになるかもしれないから預かった訳だけどそれでも?」
「あ……そういえばそういう理由で預けてありましたっけ……。 どうしよう……」
すっかり忘れてた。 でも、あれは返してほしいのだ。 返してもらえないと先に進めない。 いや、進めるかもしれないけどすごい回り道が必要な気がする。 俺はどうしたらいいのかわからず頭を抱えてしまった。
「ユリト君、とりあえず説明してもらってもいいかな? まず聞きたいのは魔玉の元というものだ。 それはなにかな?」
「魔玉の元はあのひびみたいに線の入った水晶の事です」
「それはどこで知ったの?」
どこで? どこでもない。 俺の中に眠っていたものだ。 まだまだ眠っている物たちがいる。 俺はその物たちをこちらに連れてきてあげたい。 そうすればいつか届くのだろうか? どこに届きたいんだ? 決まってる。 決まってる? あの場所にあの家に……。 家には毎日帰ってる。 ……俺は何を考えているんだろう?
「ユリト君! ユリト君! どうした!」
肩を揺さぶられて、急激に目を覚ました。
「あれ? えっと……アレックさん?」
「ユリト君どうした? 体調でも悪いのかい?」
俺の事を心配そうにのぞき込んでいる。 えっとあれ?
「あの……俺いつここに来ましたっけ? あれ? お祈りとか掃除とか遊んであげたりしたような……」
「ユリト君……、どうやら疲れてるようだね。 今日はゆっくり休むといいよ」
優しい顔で帰ることを促すアレックさん。 いや、もう大丈夫です。 はっきり目が覚めました。 あれも持って帰れるなら持って帰りたいし!
「待って待って! もう大丈夫です。 さっきまではなんかぼーっとしてただけだから! ポーションプラス作り終わったら、急に色々な情報を思い出したからそれで変になってただけだから!」
「思い出したってどういう事かな?」
思わず思い出したなんて表現を使ってしまったけれどどう説明したらいいのかな?
「えっと……錬金術ってなんとなくで色々わかるんだけど、それがもっとはっきりした形で頭に浮かんだから、思い出したというかわかるようになったというか……そんな感じ?」
「たとえば今まで何かまったくわからなかったひびの入ったような水晶が魔玉の元だというものだとわかったように?」
「そうです。 あの魔玉の元は錬金術を使う時に必要な道具の初期段階なんです」
騒ぎになるのは嫌だけどなんとか手元に置いておきたい。 だから俺はアレックさんに説明をする。
「必要な道具の初期段階?」
「あれ、簡単に言えばギフト錬金術を使う時の魔力消費を抑えてくれるものになる元なんです」
「な!? それは本当かい?」
驚くのも無理はないと思う。 魔力を多く使うため使いこなせる人材がおらず死にギフト扱いの錬金術。
この道具がちゃんとしたものになれば俺の作っているようなポーションを作れる人が増えるかもしれないのだ。
「俺の中の錬金術の知識ではそうなってます。 実際作ってみないとどの程度かはわかりませんけど……」
「ちなみに作り方はわかっているのかい?」
「一緒に持って来た4属性界石と魔玉の元を錬金術を使って魔玉にします」
「それはつまり……ふむ……ちょっと待ってくれるかな」
そう言って考え込んでしまうアレックさん。 なに考えてるのかな? 俺はアレックさんが考え終わるのを待った。
「界石をそのまま返すことはやっぱりやめた方がいいと思う」
そんな風にアレックさんは話し始めた。
「やっぱりダメですか?」
「そのまま返すのはダメだね。 だけど、魔玉の状態なら持って帰ってもらってもいいかもしれない。 そもそも問題だったのは界石を作れる事だ。 それを魔玉の材料として使い、その魔玉が正体不明だったりすれば持って帰るのに問題はない。 預かった物は調べた後すべて教会で保管してある。 どうする? 作るかい?」
「作ります!」
俺は勢いよく答えた。 アレックさんは苦笑いだ。
「わかったよ。 持ってくるからまた待っててもらえるかな? っとその前に聞きそびれてたけど体調は本当に大丈夫?」
「大丈夫です!」
俺の答えに、わかったよと言いながら取りに行ってくれた。 なんというかワクワクが止まらない。 これができればすぐには無理でも次の扉が開くような気がするのだ。
まだかなまだかなと落ち着きなく俺はアレックさんが戻ってくるのを待っていた。
「お待たせ。 ずいぶん待ち遠しかったみたいだね」
ソワソワしてたのを見られた。 多少恥ずかしいけどそれよりも魔玉を作りたい。 俺のはやくはやくという気配を感じたのか、アレックさんは机の上にすべておいてくれた。
「これでいいかな?」
「はい、それでは早速作りますね」
魔玉の元を中央に置きそれを囲むように4つの界石を四方に置く。
「錬金開始」
その言葉と共に魔方陣が描かれ、すべてのものが光となり、中央で木となり花を咲かせ散る。 そして魔玉がそこにはあった。 でもこれは……なんというかずいぶん小さくなったかな?
小さい界石でも握りこぶしくらいの大きさはあったのだ。 でも今あるのは握りこぶしくらいの透明な水晶と転がらないようにそれを支える4つの指先ほどの大きさの小さな色付き水晶だった。
「えっと……小さいですね」
「小さいね。 これなら持って帰っても平気かな?」
「本当ですか!」
喜んで立ち上がろうとしたけど、力が入らずすとんとまた座ってしまった。 あれ? また魔力使いすぎた?
「大丈夫かい?」
「少し休まないと動けそうにないです」
俺は背もたれにぐでーっと寄りかかった。
「魔力切れで倒れなければ心配ないからいいよ。 しばらく休んだら家に帰ってちゃんと休みなさい」
アレックさんはそう言ってくれた。
俺は魔玉を見ながらニヤニヤしてしまった。 きっと気持ち悪い顔してるだろうなぁとか思った。




