34 ダスベステ攻防戦(大げさ)
ダスベステ武具店にやってまいりました。 少し緊張します。 だって入ったらまたあの店員がいると思うしね……。
今日は1人で来てるし心を落ち着かせてからじゃないと我慢できなくなるかもしれない。 深呼吸深呼吸。 すーはーすーはー……。 よし行こう!
「いら……はぁ……お帰りください」
ため息付きでいきなり帰れか……。 静まれ俺! 表情に出てないよね? 出てない事を祈ろう。
「ガリックスさんから店長に伝言があって来ました。 店長に取り次いでください」
「では、私が承りましょう。 さあ、教えてください」
「これは冒険者としての依頼です。 店長に伝えろと言われてるものを勝手に他の誰かに話すわけにはいきません。 冒険者としての信用に関わりますから」
「ランクが低いのに殊勝な事です。 しかし、店長はお忙しい方です。 私が承りますのでさっさと話して出て行きなさい」
こっちもイライラしているけれど、あっちもイライラして言葉遣いが雑になり始めてる。
というかなんでここまで邪魔されなきゃならないんだ? 幸い今は店に誰もお客さんはいないしやっちゃうかな。 俺は大きく息を吸い込み。
「店長さーーーん!!! いらっしゃいませんかーーー!!! ガリックスさんからの伝言を頼まれたユリトです!!! いらしゃいませんかーーー!!!」
「な!? このガキが!」
俺が大声出したのが予想外だったのか、動き出すのが遅れた店員。 俺を捕まえようと動き出すが甘い。 隠密行動と気配察知で避ける。 気配察知は言わずもがな、隠密行動はすでに見えてるとは言えなんとなく掴めにくくなるのだ。 俺はその間ひたすら呼び続ける。 騒いでいたら後ろから人が出てきた。
「イルガ! こいつを捕まえて放り出せ!」
イルガと呼ばれた男も一緒になって捕まえようとするけど俺は必死になって避ける。 気功だって使っちゃうよ! なんでこんな所で俺は力を使わなきゃならないのさ……。
それなりの時間がたってのに降りてこない。 これは本当はいないんじゃないのか? とかなんでここまでしなきゃならないんだろうとか思った。 だけど、終わりの時はやってきた。
「あんたたち! なにやってるんだい!!」
さっきイルガと呼ばれた男が出てきた所から恰幅のいいおばちゃんが出てきた。
「て、店長! なんでもないです! こいつはすぐに追い出しますから!」
「黙ってな! ユリト君だったね? こっちにおいで」
俺は店長さんの所へ行った。 店員は気に入らないらしくこっちを睨んでる。 もう1人は大して気にしてないみたいだ。 俺は2階の部屋に案内されて入って行った。
「悪かったね……。 昨日の事も聞いたから叱っておいたんだけどねぇ……。 まったく八つ当たりもいい加減してほしいものさ」
「八つ当たりなんですか? じゃあ俺、関係ないのに巻き込まれたの?」
「関係はあるさ。 私の息子は警備隊にいてね。 ゴブリンの時にユリト君のポーションのおかげで命を繋ぐことができた。 本当に感謝してるさ。 ただ、失ってしまった部分は戻っちゃ来ないからね。 しばらくは落ち込んでたのさ。 今はもう出来る事やらせてるけどね。 でも、アガンはそんな様子のうちの息子を見て、回復をしてた人間がもっとうまくやっていればなんとかなったんじゃないのか? ってずっと思ってるのさ。 それにね。 友達だった冒険者が1人、ランクダウンと罰金くらってね。 それでさらに機嫌が悪いのさ」
俺は店長さんの話を大人しく聞いていた。 自己紹介もまだなんですが、店長さんはそのまま語りだす。
内容を聞いたけど確かに八つ当たりだよね。 もっとうまく助けろって言われてもその場の判断なんだからどうしようもないし、ランクダウンと罰金って俺を蹴った人ですよね? 俺は被害者なんですけどねぇ。
「関係あっても俺まったく悪くないですよね……。 とりあえずガリックスさんからの伝言です。 これからもよろしく。 だそうですよ」
「それだけの為にうちに来たのかい?」
「いえ、店長さんが会いたがってると言う話だったので、ガリックスさんに直接依頼を出してもらって会いに来たんですよ。 正直、防具は昨日揃えてしまいましたし、武器も特に必要ないので買い物をする必要がないですしね」
それを聞いた店長さんが目を丸くして、それから笑った。 何かおかしなことでも言ったかな?
「つまり、私が会いたがってるから来てくれた訳だ! いい子だねぇ……。 でもうちで買うようなものは本当にないのかい?」
「さっきも言いましたけど、防具はあるし、攻撃は魔法なので特に必要ないんですねぇ」
「うちは戦士系の店だから、役立てそうにないね……。 その剣はどうなんだい?」
「今まで素振り以外に使ったことがないので、それならこれで十分です。 父さんからもらったものでもありますし」
「そうなると本当にうちから渡せそうなものはないね……。 ちょっと待ってておくれ」
そう言うと店長さんは、何かを紙に書き始めた。 何を書いてるのかな?
「はい、これだけでも持って行っておくれ。 もしここのものが必要になったら買えるように認めた手紙さ。 ユリト君には必要なくても大事な人が必要になるかもしれないからね」
「あ、ありがとうございます。 必要な時がきたら遠慮なく使わせてもらいます」
今はまったく必要ないし、将来も使うかどうかわからないけど、こうやって何かお礼をしようとしてくれるほど自分は感謝されているんだとわかるこの手紙がとても嬉しい。
もし必要な時がきたら遠慮なく使わせてもらおうと思う。
「ああ、遠慮なんてしなくていいさ。 その時にはサービスさせてもらうさ。 ただ、この部屋にいると防音がしっかりしてて音が聞こえないからちゃんと呼びに来てもらわないとならないけどね」
「そういえば静かですよね。 それじゃあ、さっきの俺の声も聞こえてなかったんですか?」
「この部屋にいた時はまったく聞こえなかったさね。 ちょっと外に出たら店が騒がしいから何かと思ったら、ユリト君が叫んでるのが聞こえたって訳さ」
「だから、しばらく騒いでても来なかったんですね」
「そういうことさ。 時間くっちまったね。 もう帰るかい?」
「そうですね。 これ以上お邪魔するのも仕事の邪魔になるでしょうし帰りますね」
「それじゃ、外まで送るよ。 あのバカがまた色々言ったりするかもしれないしね」
そう言った店長さんに送られて、俺は店の外に出た。 途中であの店員にものすっごい睨まれたけど、店長さんに睨み返されてた。
なんかもう今日は疲れたよ……。 時間もけっこう使ってオーク狩りに行くには時間が微妙だし……。 装備の確認とかもしたかったんだけどなぁ……。
今日は大人しくポーション作ってようと思います。
睨みかえられてた→睨み返されてた に修正しました。




