33 お母さんはびっくりです
新しい物ってワクワクするよね! そんな訳で着替えます! 少し余裕のある服を着るとスッと縮んで体にぴったりの大きさになったよ。 少し体を動かして見るととっても動きやすかったです。 昨日買ってきたものを全て装着して夜が明けてない町を走ってきます。
帰ってきたら母さんがいたので挨拶をする。
「母さん、おはよう、今帰って来たよ」
そうするとビクっとして母さんがこっちを見る。
「なんだユリトか……。 もう驚かさないでよね。 おはよう。 ……ユリトなんか真っ黒ね」
「いやまぁ真っ黒だけど、いつもならそんなに驚かないじゃないどうしたの?」
「ユリトが声をかけるまでそこにいるなんて全然気が付かなかったのよ」
よくよく考えてみればこの装備、腕輪と指輪以外はシーフ御用達の気配抑える効果があるんだっけ? そのせいで母さんがきがつかなかったのかな?
「あーごめんなさい。 たぶんそれ装備のせいだと思う」
「その真っ黒のせいかい。 毎回毎回びっくりさせないように気を付けてね。 それじゃ朝食食べる?」
「うん、食べる」
こうしてこの装備の性能の一端が見えた。 朝の出来事だった。 母さんの食事はいつもおいしいです。
「いらっしゃいユリト君」
朝、やるべきことをやってきた俺はギルドに来た。 うん、いつものエレナさんだね。 いや、ちょっとだけ違うかな? 昨日買った前髪サイドのアクセサリーを着けてきたみたいだ。
俺はオーク退治の依頼を持ってエレナさんの所へと行った。 その間に近くの職員さんになにか伝えてた。
「おはようございます。 この依頼お願いしますね。 後これ例のやつです」
俺はオーク退治の依頼と袋に入ったポーションプラス、それにカードをエレナさんに渡した。 エレナさんは俺をまじまじと上から下まで見て、
「それじゃ処理しちゃうわね。 それにしても真っ黒ね」
「同じこと母さんにも言われたよ……」
なんかげんなりした。 俺がそんな様子を見せているうちに、エレナさんはカードの処理をして報酬の用意もしてくれた。
「はい、じゃあカード返すわね。 それと」
「では、ワシの方に来てもらってもかまわんかの」
エレナさんが何かを言う途中でガリックスさんが声をかけてきた。 昨日の件かな? 俺はエレナさんを見ると頷いてくれたのでたぶんそうなんだろう。
「わかりました」
「ユリト君、それじゃまた明日かしらね?」
「そうですね。 今週はもう休みましたしね。 それじゃまた明日」
そうエレナさんに言って俺はガリックスさんの後を追って部屋へと入って行った。
「ダスベステでは大変だったらしいのぉ」
部屋に入るとガリックスさんがそんな事を言い始めた。
店員のせいでエレナさんが怒ったからなぁ。 俺自身も気分は良くなかったし……。
「エレナさんが機嫌悪くしたんで、それは大変でしたけどね。 店員さんの態度も良くなかったとは思いますけど、言ってる事はわからないでもなかったですけどもね」
「あそこの店長には許可を取ったんじゃがのぅ。 まさか店員に邪魔されるとは思いもよらなんだよ」
「やっぱりガリックスさんがお店に色々と掛け合っていたんですね」
「当然じゃろ? いくらワシでもそこまで都合のよい権力を持っておるわけではないわい」
当然の事と言えば当然の事だった。 それに都合よく錬金術師制限のアクセサリーとか取り扱っている訳がない。
「ダスベステではアレでしたが、クロウリーの方では本当に良い物を買わせてもらえました。 ありがとうございます」
「その真っ黒じゃな? しかし……それ気配消しの染料が使われておらんか?」
「気配を抑える染料が使われてる言ってましたね」
ガリックスさんはため息をつきながら、眉間に寄ったしわをもみほぐしていた。 なんで?
「ユリト君……その装備いったいいくらで買ったんじゃ……。 その手の装備じゃと金貨50枚はいくはずなんじゃが……」
「全部で金貨70枚でしたね。 エレナさんも驚いてました」
「確かにユリト君のポーション販売ならかなり稼げてるとは思っておったが、そのお金を自分で管理しておるとはの。 それといつもそんな大金持ち歩いておるのかの?」
エレナさんは俺が大金を持っている事に驚いていたけれど、ガリックスさんは俺自身がお金持ってることに驚いたみたいだね。
「1本売れると銀貨1枚くれるんですよ。 だから毎日大銀貨もらってますね。 金貨はその……デートなので何があってもいいようにと思ったら100枚ほど準備をしてました……」
「デートに金貨100枚とか君はエレナ君に何を買ってあげるつもりじゃったのか? ……君にはオークをできるだけ狩ってもらいたいからあんまりこういう事は言いたくわないのじゃが、冒険者になる意味あるのかの?」
「すべてはレベルを上げるためですね。 それでも町から離れる事は考えてないですけど」
「君には色々頼ってるからのぉ……。 12歳の子供に頼ると言うのも恥ずかしい話じゃがな……。 しかし、本当に錬金術というのは不思議じゃの。 ワシが知った時にはすでに死にギフト扱いだったはずなのに、これほど有用なのじゃからなぁ」
一般的なギフト錬金術のイメージはやっぱり死にギフトだ。 でも、この町の冒険者や警備隊の人達は俺の作るポーションを知っているので不思議に思うと言われる事が多い。 多いけどそんな理由は簡単なのだ。
「錬金術を使えるようになるまで魔力上げるくらいなら別の事した方がよっぽどいいって事だと思いますよ」
「ふーむ、それもあるじゃろうがギフト錬金術が使える者がいないのをいい事に、学問の錬金術師達が情報を隠蔽しておるか、もしくはその記録すら残ってないのかもしれんの」
「えっと……どういう事です?」
「例えばポーションじゃ。 ポーションは作り方がわかっておる。 じゃからこれを解析して広めた。 しかし、ユリト君の物が本来のポーションの姿だとしたら、あの不思議な容器の解析や研究は途中で行き詰まり、それを諦めた。 その諦めたという情報を隠しておるか、もしくはそもそもそんなものはなかったと言う事にして記録しておかなかったか、と言う事じゃよ」
「えーと……つまり、学問錬金術師達のいいところだけ広めて、出来なかったことを隠した。 その後、ギフト錬金術をまともに使える人がいなかったから、学問錬金術師達の言ってることがそのまま通ったってこと?」
誰も証明できなければ自分たちの悪い所? をわざわざ好き好んで話したりはしないだろうけど……。 どうなんだろうね?
「まぁ、あくまでも憶測じゃ。 ユリト君は好きにやったらいい」
「はい、じゃあもう行ってもいいですか?」
「ダスベステはどうするかの?」
「防具は十分ですし、武器はこの剣すら使ったことがないから行く必要はないかなぁと」
「店長はユリト君に会いたがっておったが仕方がないのぉ。 ワシから伝えておこう」
「会いたがってたんですか?」
なんで俺に会いたかったんだろうか? 冒険者としてあの店をちゃんとした形で訪ねることなどたぶんないのになぁ。
「店長の息子は警備隊におっての。 ゴブリンの時のポーションの礼が言えるいい機会じゃと言っておったな。 ポーションの礼をいちいちユリト君に言いに行くと、礼を言われる方に迷惑がかかるかの。 皆、直接言いに行くような事はしないように言っておいたんじゃよ」
なるほど……。 それだと店長さんは残念がってるかなぁ……。 連絡ミスがあったと思うけどそれにしたって、ガリックスさんからの紹介状を無視するとは思わなかっただろうしね。 それなら店長さんには会いに行ってもいいかもね。
「ガリックスさん、店長さんに直接会う用事をなにか適当に作って直接依頼してもらえませんか?」
「なるほど、なるほどのぉ。 ユリト君はいい子じゃの……。 では、ワシからの伝言を頼もうかの」
俺はガリックスさんから伝言を預かりダスベステ武具店の店長さんの所へ行くのだった。 今日はオーク狩りにいけるのかな……?
いいたく→言いたく に修正しました。




