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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第1章、薬屋さんの息子は錬金術師
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31 デート! お買い物編

 3階に上がって来た。 そこは入ってすぐが待合室になっていた。 その待合室をそのまま抜けた扉の向こうには広めの商談スペースのようになっていた。


「こちらでお待ちください。 担当の者を呼んできます」


 案内してくれた人に言われて座って待つ事にする。 だけどここはなんだろう?


「エレナさん、ここで何するんですか?」


「ユリト君に良さそうなものがないかどうか見繕ってもらうのよ」


「見繕ってもらうんですか?」


「はいはーい、そうでーす。 ご希望をお聞きしましてお客様にご満足いただける品を提供するのが私の役目なのでありまーす!」


 テンションの高い女性がお茶を持って出てきた。 20歳くらいかな? この人が担当なのだろうか? えっと……大丈夫?


「驚かせてしまいましたか? それはそれは申し訳ない! いやもうテンション高いから抑えろと常々言われているのですが、これが生来の気質なのでご容赦くださいませですよ! 

 こんなんでも能力は確かなのでご安心を! 安心できませんか? でも冒険者ギルドのサブマスターからの招待状で下手な人に任せられないじゃないですか! だからこそ私! 性格はアレでも能力はばっちしなのであります!」


 テンション高いまましゃべりまくって圧倒されるけど、その間にお茶を俺達の前に置き、要望を書き取るためのペンや紙もちゃんと用意して準備を進めていた。 その調子で話しながら準備を滞りなく進めるって器用ですね。


「えっと、あなたがアイリさんでよろしいのでしょうか? ガリックスさんから聞いてはいましたが、すごいですねぇ……」


「おっとこれはこれは重ね重ね申し訳ない! 私が冒険者用品店クロウリー魔道具、自称裏看板娘のアイリでございます。 将来は裏店長に就任が決まっております。 ユリト君のお噂はお聞きしております! 次世代店長同士仲良くできたら嬉しいでありますよ。 ユっちゃんって呼んでもいい?」


「……あ、はい、呼んでもらって構いません。 こちらこそよろしくお願いします。 でも裏店長ってなんですか?」


 なんかもう勢いに押されっぱなしです。 この人の相手するのは色々と人を選ぶ気がするよ。


「私が店長などやったらトップ会談がもうご破算決定じゃないですか! ですから表店長が決定権を持つのですが、私はそこに指示を出せちゃうのですよ!」


「でも、それって表店長をする人が色々苦労しそうで誰もやりたがらないんじゃないかしら?」


 俺もエレナさんの言葉にうんうん頷く。 店長なのに指示出されるって嫌じゃないのかな?


「私が口を出し過ぎればそうなるかもしれませんが、そんな心配はご無用です! どっちかというと私を手元に置いておきたい父の適当に作った肩書きですから! 私はこうやってお客様とお話をして、ご満足いただける買い物をしてもらえれば嬉しいのです! ただ! 私はよく話がどっかに行ってしまいます。 そのため今もまだ装備のご要望を一切聞けてない体たらく! これはいけません。 さあユっちゃん! ご希望はなんでしょうか!」


「あ、あの、その……。」


 今日はデートだとしか聞いてなかったし、装備の買物だっていうのもさっき知ったばかりだ。 突然ご希望とか言われても困るのだ。 重たい鎧とかが多そうだったダスベステ武具店とかを却下することはできても、これと言われると困る。


「それなら普段のどんな行動を取っているのかを教えていただきましょう! そこからこの私が最善の物を選び出してごらんにいれましょう!」


「ユリト君の普段の行動ってけっこう気になるかも」


 女性二人からなにやら期待の籠った視線を受ける。 受けるが俺の普段の行動って……あれだよねぇ……。


「ポーション作って、オーク倒して、露店で錬金術に使えそうなものあるかの確認でしょうか……」


「実はとっかえひっかえ毎日別の女を侍らせたり、気に入らない冒険者の闇討ちしたりしてないんですか!?」


「なんでそんな事しなきゃならないんですか! 1人行動が多いのに……」


「ユリト君、私は君の味方だから大丈夫よ……」


 エレナさん……少し涙を浮かべてこちらを見ないでください。 泣いてしまいそうになります。


「ではでは質問のお時間です! ポーションを作る時に必要なものはなんですか?」


「魔力ですね。 錬金術は魔力がっつり使いますから」


「ではでは次の質問です。 オークの倒し方は?」


「魔法攻撃?」


「つまり遠距離からズドンですか? ユっちゃんは確かソロだったはず。 危なくないですか?」


「シーフ系スキル充実してますから、自分の安全を確保しながら隠れて見つからないようにズドンですね」


「短剣投げたり矢を使えばアサシンスタイルですね! 露店での確認で必要なものは?」


「いえ、特には……本当にただ見て歩いてるだけですし」


「ふむふむ、ほうほう」


 質問が終わったらしくアイリさんはぶつぶついいながら考えてる。 あ、お茶でも飲もうかな。


「ねぇユリト君、私聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」


「なんですかエレナさん?」


「剣いるの?」


 俺は黙るしかなかった。 実際、剣を実戦において使ったことはない。 この前の時だってけっきょく相手は切り傷はなかったって言ってたから剣使ってないんだろうな……。


「武器に関しては色々考えた方がいいみたいね」


 黙っている俺を見かねてエレナさんはそう結論を出した。 俺に適性のある武器ってあるのでしょうか? ん~? なければ自分で作るのか? どうやって? ……答えはでないなぁ。


「うっし! やっぱり魔法関係強化と身軽さ重視ですね! 杖に希望はありますか?」


「あ、ごめんなさい。 魔法と言ってもマジックアローなので杖使えないんです……」


「おぉっと、なるほどなるほど。 杖は変換効率やらなんやらですから、純魔力なマジックアローでは必要ないのでありますな! さきほど剣がどうこう言っておられましたが剣もいりますので?」


 都合よく剣という言葉だけ拾ってそれ以外の声は聞こえてなかったらしい。


「護身用で一応持ってるだけです。 剣は全然使えませんし……」


「見た目重視ですか! ユっちゃんも男の子ですね! 私にお任せくださいですよ。 私の想像力が火を噴くぜ! やっふーーー!!!」


 ものすごいテンションになって裏へと走っていくアイリさん。 押されっぱなしですよ。 ……あ。


「エレナさん、俺お金の事一切聞かれてないんですけど……大丈夫でしょうか?」


 エレナさんが、え? と言いながら考えてる。 たぶん今までの会話を思い出してると思うんだけど、思い出してもあの強烈なキャラしか思い出せない俺がいます。 エレナさんは眉間を揉みながら、


「確かに1度も聞かれてないわね……。 買えなかったら正直に言えばいいし、少しくらいなら私も出してあげられるから良い物なら買うべきだわ」


「さすがに出してもらう訳には……」


「ギルドの受付嬢はそれなりにもらってるから大丈夫よ。 ユリト君を守ってくれるものをケチる訳にはいかないわよ」


「おっ待たせいたしましたー! 自慢のアレ持ってきましたよー! もう黒、黒、黒の黒尽くし! ついでにユリト君の髪も黒髪なので真っ黒黒ですね! 黒い服に黒い靴! 黒のペンダントに黒のロングコート! 黒いソフトレザーの胸当てに黒い腕輪! 心の何かをくすぐる姿です! 完璧ですね!!」


 俺は唖然とした。 だって本当に黒なんだもん……。 もちろんポイントで銀の刺繍が入っていたり白のラインが入ってるけど黒いよ。 しかも全身とか想像してなかった。


「色とかはともかく、これアイリさんの趣味で選んだわけじゃないですよね……?」


 唖然として声も出ない俺に変わり、エレナさんが聞いてくれた。 さすがエレナさんです!


「趣味です! そんな目で見ないでください! 趣味と実益を兼ね備えた素晴らしきものですから! 

 まずは色! と、いうよりは染料! これは着ている人間の気配を抑える事のできるシーフ御用達のものを惜しげもなく使ってます! 

 服はミスリル糸を少量使っておりますのでただの服よりも優れた防御力! 所詮服ですけどね! 

 靴は軽く音を立てにくいように作られております。 

 ペンダントには守護の加護が彫られておりまして、頭を守ってくれます! 突然の矢にも対応出来ちゃいますよ! 

 ロングコートはかっこいい! このラインは魔力が通りやすい素材になっておりまして、しかも吸魔と守護を特典としてつけております! 素材もなかなかいいものを使ってるので、そんじょそこらの剣では切り裂くことなどできません! 

 胸当てはこの中で1番普通です! 素材は聞かない方が心臓にいいぞ! 心臓を守るもので心臓を危険に晒す。 それいかに! 

 そしてそして最後にこの腕輪! なんとびっくり総魔力量を付けてる間は増やしてくれる腕輪です!」


 もう、すさまじい説明にタジタジの俺達だったけれども、最後の腕輪の説明でエレナさんが叫んだ。


「ちょっと待って! 総魔力量を上げる腕輪なんて普通いくらすると思ってるの! そんなものがお店で出て来るってどういうこと!」


「エ、エレナさん? 説明をしてもらってもいいですか?」


「総魔力量を上げる装備なんて魔法使いにとってはお金を積んでもほしいものよ。 極々稀にダンジョンで発見されることがあるけどそれだって見つかればオークションで金貨3桁とか普通にいくようなものなのよ。」


 もう口を開けてなにを言っていいのかわからない。 なんでそんなものが出て来るんですか……?


「この辺りはダンジョン経験者などがほとんどいないですから皆様あまり知りませんが、実はダンジョンで発見される総魔力量を上げる装備は案外あるものなのですよ。 ただ、効果が微妙だったり、制限がついてたりするので実際に使える装備はオークションでということになりますですよ」


「つまりその腕輪は効果が微妙でここにあるってことなんですね」


 俺はそう結論付けた。 いくらガリックスさんからの紹介があるとはいえ、こんな子供にそこまでの大金がかかる装備を売りつけるはずがない。 だけどアイリさんはニヤリと笑った。


「いえいえ、この腕輪、実は破格の性能を持っています。 ただあまりにも制限が厳しいために誰も装備する事すらできないのですよ。 実は一応持って来ただけだったりします」


「それはどういうこと?」


 エレナさんがそう疑問を問いかける。 俺も頷く。 制限が厳しいってどんだけ厳しいんだ。


「制限内容は、登録装備者が最初に装備するのが15歳未満であること。 ギフト錬金術を所持していること。 そして確認の儀で魔力B判定を超える方のみ装備可能となります」


「それは……あまりにも狭すぎるわね……」


 そう、普通に考えればこんな装備売れるはずがない。 ギフト錬金術所持者がまず少ない。 そして15歳未満でB判定超えてるとなると、確認の儀で最初からギフト錬金術所持でA判定以上じゃなきゃならない。 でも、俺なら装備できるのか? 破格の性能っていうしものすごくほしい。


「その腕輪いくらですか?」


「ユリト君?」


 俺の言葉にエレナさんが驚きと疑問を含んだような声で俺の名前を呼ぶ。 普通に考えれば無理だもんね。


「腕輪単体で売る気はございません。 こちらの装備一式お買い上げいただいた時におまけでつけさせていただきます。 いかがなさいますか?」


「いくらですか?」


 アイリさんはニヤリと笑った。 この時思ったんだ。 あぁこの人は商人なんだなって。 相手の求める物をそっと差し出し買ってもらう。 気が付けばあのテンションの高さもなく静かな場になっていた。 そしてやり取りも簡単なものになっていく。 言葉の装飾はもう終わったのだ。 後は結果を求めるのみ。


「金貨70枚でいかがでしょう」


「金貨70枚っていくらなんでも!」


 エレナさんの言葉を遮るように、俺は空間収納から7つの袋を出しアイリさんに渡す。


「金貨70枚確認をお願いします」


 エレナさんがなんかすごい顔してる。 そんな顔をよそで見せたら百年の恋も冷めるのではないでしょうか?


「ユリト君? なんでそんなお金持ってるの……?」


「ポーションの売り上げですけど……1本売れれば俺は銀貨1枚もらえますし……」


 俺のポーションは1本で銀貨3枚、色々母さんと話した結果がこれだ。 それを2年くらい続けてるし、増産して売りまくった訳だから金貨70枚は出せない金額じゃないのだ。 もちろん俺の所持金はがっつり減ったけど、腕輪だけでも十分元が取れるはずだ。 装備一式は正直、今のサイズで買えばしばらくしたら着れなくなると思うけどもね。 ってサイズ聞いてないぞ?


「そういえば、服とか靴とかのサイズ言ってませんけど大丈夫ですか?」


「はいはい、ご安心を! サイズ調整に清潔化の魔法もかけられてますから、一生モノですよ!」


「それならなおの事、いい買い物ですね」


「あの金額でいい買い物とかいえる12歳って……」


 俺とアイリさんが二人してニヤリと笑い、エレナさんがなんか頭を抱えてる。 無駄遣いなんてしてないんだからいいじゃないですか。


「それじゃあ、さっそくつけてみますね」


 そう言って俺は左腕に腕輪をつけてみた。 お? おぉ? なんとなく自分の器に別の器がくっついたような感覚だ。 最大魔力量が多くなるのを実感できた。


「「え? つけてる!!」」


 エレナさんとアイリさんは揃って驚きの声を上げた。 


「ユリト君って確かB判定じゃなかったっけ!?」


「…………すでにプラス判定持ちってことですか?」


「はい、今の俺の魔力判定はB+です。 だから装備できるんですね。 まだちょっと把握し切れてませんけど増えたのは実感できますね」


 エレナさんは呆れてるし、アイリさんは下を向いてる。 あれ? アイリさんの肩が震えだしたこれって、


「ふ、ふふふ……ははははははははははははは!! この歳で! この歳でプラス判定付! いったいどんな人生歩めばそんなことになるんですか! プラス判定ってものすごい魔力消費の果てにつくもののはずなのに! なるほどなるほど! ガリックスさんが押すだけの事はあります! こちらとしても本命の前のいたずらのつもりで出したものだったのですがこれは! ははは! お腹が痛い!」


 アイリさんにものっすごい笑われた。 アレとかなんとか言われるけどそこまで笑わなくてもいいじゃないですかぁ……。


「少し待っていただけますか? 本命の前のということはまだ何かあるのでしょうか?」


 今日はもうこれでもかと表情を変えたエレナさんが真面目な顔で問いかけた。 お仕事モードに入って冷静に対応し始めたらしい。


「あーはい、これもあげるわ。 制限がギフトが錬金術師のみっていう総魔力量上げる指輪ね。 あーお腹痛い。 これが元々の抱き合わせ品だから値段はかわらんよー」


「ありがとうございます?」


 俺はお礼を一応言って右の人差し指に指輪をはめる。 サイズ調整の魔法って本当に便利ですねぇ。 こういう道具って反発したりするのかと思ったけどそんなことなく効果があるね。 


「これで買い物は終わりと言う事でよろしいですね? ではユリト君、出ましょうか。」


「あ、はい。 お世話になりました。 ありがとうございます」


「ふふふ、はい、こちらこそ楽しませていただきありがとうございますですよ。 最後に1つ、アクセサリーの付け方には気を付けてくださいね。 今回の腕輪と指輪は同じ側に装備すると効果が高い方しか適応されなくなります。 面白い商品が入りましたらご連絡さしあげます。 くくく、ダメだ。 笑いが止まらない。 ぷくく」


笑い転げるアイリさんを置いて買った物を空間収納に入れた俺達は部屋を後にした。 いい買い物はできたけどアイリさんのキャラが強烈だったなぁ。


ペンタント→ペンダント 修正しました。

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