30 デートなのです!
今日は冒険者の仕事を休んでエレナさんとデートです! 待たせるのは悪いので予定してる時間よりも早く中央広場の待ち合わせ場所で待つ。
……ちゃんとお休みとれたのかな?
「あらユリト君、早いわね。 女性を待たせないのは良い事よ。」
エレナさんがやってきた。 どうやら無事にお休みをもぎ取ってきたようだ。 今日のエレナさんはもちろん私服である。
「いつも見慣れた制服も似合ってますけど、私服はもっと似合ってますね。」
「そう? お世辞でも嬉しいわ。」
嬉しそうにするエレナさん。 それに対して俺はきっと顔が真っ赤になってる事だろう。
俺自身がモテ男君みたいにこんな台詞を息をするように言える訳がないのだ。 エレナさんの教育の賜物です。 がんばってるんだよぉ……。
「え、えっと……今日はどうするんですか?」
「ちょっとデートついでに頼まれたこともあるから、まずはそっちの用事をすませましょうか」
そう言って俺と手を繋いで歩き出す。 ああああああ……。 恥ずかしいよ。 さっきから俺の顔は真っ赤になりっぱなしだ。
「あ、あの! 手は……」
「私と手を繋ぐのはいや?」
「そんなことはないですけどもぉ」
「なら、このままね」
嬉しそうなのでこのまま黙ろうと思う。 ……無理だよ! 何か話してないと更に意識しちゃうよ!
「そ、そういえば、頼まれた用事ってなんですか?」
「ユリト君の装備の変更ね」
「へ?」
「この前みたいな事もあったし、オークだって倒せる冒険者が革の鎧と片手剣ってカッコがつかないでしょ?」
確かに俺の装備は新人丸出しって感じではある。 あるんだけど……実際冒険者生活4か月目で2か月はポーション作ってたわけです。 実質2か月じゃまだまだ新人だろと思うのですが、オーク退治ができるという実績で言えば俺の装備はなしといえばなしなのだ。
「それじゃあ、ダスベステ武具店に行きましょうか」
「ちょっと待ってくださいよ! そこ高級店!」
「招待状はもってるし大丈夫よ。 なによりユリト君の為だしね」
俺の為と言われては黙るしかない。 いや、お金払うのは俺だろうから言ってもいいのかもしれないけど、嬉しそうなエレナさんを見てるとあまり余計な事を言ってはいけない気がするのだ。
そうして手を繋いだまま移動する。 視線で人が殺せるならば俺は何回死んだのだろうってくらい、嫉妬の視線を感じる。 エレナさん美人だから男から視線を集める。
それに笑顔なのだ。 エレナさんのちゃんとした笑顔を見る機会というのは少ない。 俺の前では普通に笑ってくれるけど、逆に言えばエレナさんのちゃんとした笑顔はギルドで俺がエレナさんと話してる時に遠巻きに見るくらいしかないのだ。 もちろん家族とか友達と会えば笑顔も見せると思うけどね。 しかも、俺は基本的に人の少ない時間にギルドに行くから結果的に少数しか見たことがないのだ。
普段は冷静で仕事を淡々とこなす美人が、こうもうれしそうにしていれば嫉妬の視線の1つも俺に向けられるだろう。
昔からエレナさんを知ってる人だと、微笑ましいような安心したような視線を向けられるけどもね。 俺に手を振ってくれる人までいる。
「さて、今日最初の目的地に着いたわね」
ダスベステ武具店、Cランク以上の冒険者以外お断りという高級武具店。 新人が多いこの町でなんでこんな店があるのかまったくわからないけど品ぞろえ十分なお店だとマティスさんから聞いたことがある。
「あの……やっぱりやめませんか? どう考えても俺が入っていい店じゃないですし、そもそもなんかこの町にすらなぜあるのかわからない店なんですけど……」
「なんでこの町にあるのかは私もわからないけど、あるんだからいいじゃない。 さあ、諦めてはいりましょう」
手を引かれて入っていく俺。 店構えからして高級店というのがわかる。 だって大きなガラスが張ってある。 ガラスの向こう側に並べてある商品もこう、お安くないわよって感じの雰囲気を発している。 本気でこんな店に入るのか……。
「いらっしゃいませ。 おや?」
店に入ると紳士風な身なりのいい初老の男に出迎えられた。 でも、この人嫌な感じだ。 俺やエレナさんのことを見定めるように見ている。 ついでにこの人もそこそこ強い感じがする。 裏にはもっと強そうな人がいるみたいだけどもね。 気配察知様万歳。
「このダスベステ武具店は、Cランク以上の方にのみ販売をしております。 お客様はとてもそのようには見えません。 カードでランクの確認をさせていただきますよ」
「いえ、俺はEランクです。 エレナさんやっぱり帰りましょう」
俺はエレナさんを連れて出て行こうとするけど、エレナさんは行こうとしない。
「ユリト君、最初の買物はここでするって話だったでしょ?」
「エレナ様が冒険者ギルドでどのようなお立場なのかは聞き及んでおります。 ですが、その程度ではここで買い物はできません。 お引き取りを」
この人の言葉の端々にひっかかりを覚える。 エレナさんは言われたことにムッとしたのか、ガリックスさんの招待状を突き付けた。
「私程度でダメなのはわかりますが、さすがにサブマスターからの紹介は無下にできませんよね」
エレナさんも口調にイラつきが混じってるのがわかる。 受け取り、中身を見たけど、
「中を拝見させていただきました。 どのような方法を使ってサブマスターほどの方に紹介状を書いていただいたか想像もつきません。 しかしながら、あなた程度の実力しか持たない者にここの装備を使わせるわけには参りません。 身の丈に合った装備を使えば良いと思います。 お引き取りを」
「な!? あんたね!」
「エレナさん! 行こう! ここにいてもしょうがないから行こう!」
まさか断られるとは思ってなかったエレナさんがくってかかろうとしたので、手を引っ張って無理やり外に出る。 こら! ひっぱらない! とか言ってるのは無視だ。
「ユリト君! どうして出てきたの! それにガリックスさんがユリト君の為に書いてくれた紹介状を不正でもしたみたいに言ってたし! ユリト君にもガリックスさんにも失礼じゃない! なんなのよあいつ!」
俺はとりあえず店から離れるためにエレナさんを引っ張っていたが、エレナさんは怒りが収まらない。
「落ち着いてください。 あの店の品ぞろえは一通り見ました。 見た感じ重量のありそうなものばっかりでしたからあの店じゃ買うものなかったですよ」
「そうだとしても、なんなのよあれ! ガリックスさんもなんであんな店紹介するのよ!」
「あの店というよりも、あの店員に問題があったんだと思いますよ。 だから後でガリックスさんに事の次第を話しておけばきっとあの店員大目玉くらいますって。 だから、次行きましょう? こんな所で時間をとってたら、俺の装備買えなくなりますよ」
きっとあの店員は誇りと傲慢を取り違えてるような人なのだ。 しかも下手に相手の実力がわかるから使いこなせない俺に装備を売るのが嫌だったのだと思う。 それに俺がほしいのは軽い鎧だ。 あの店のような金属系の鎧はいらないのだ。 できることなら、服だけでそれなりの防御力があればいいけどさすがにそれは高望みしすぎだしなぁ。
「そうね……。 正直まだ怒りが収まらないけど、ユリト君の装備を買う方だ大事ね。 ……さて、行きましょうか」
表面上はなんとか取り繕ってくれたエレナさん。 次のお店は当たりでありますように! 切実にお願いします!! ってあれ? すっごい今更だけどこのお店が最初って言ってたっけ? こんなお店何件かまわるの? 心臓に悪いのですが……。
「ここが次の目的のお店ね」
冒険者用品店クロウリー魔道具。 名前からして客層がわかりやすい魔道具店だ。 冒険者が野営で使う道具から、戦闘時に使う武器防具まで幅広い魔道具を扱うお店だ。 俺は来たことがないけれど冒険者ギルド推薦のお店でほとんどの冒険者がこのお店を利用する。 ここの店ならはずれはあるまい! それに何より普通のお店だ!
「いらっしゃいませー。 ご自由にご覧くださいー」
「ユリト君はここで見るものある?」
エレナさんにそう聞かれた。 ここは3階建ての建物で1階は野営などの戦闘以外で使う魔道具がおいてある。 そのため、飾り気はないけど性能が良い物などがあり一般のお客さんも見て取れる。
「いえ、特にないですけど」
「そっか。 上に行きましょうか」
2階には武器や防具、戦闘用の道具に様々な方法で強化を施した物がおいてある。 武具店などと何が違うかと言えば魔道具なのだ。 エンチャントを使って武器や防具に細工を施したり、ダンジョンから発見された物や魔物が使っていて不思議な強化がされているものなどになる。 ただ、武具に関していえばおまけのようなもので大体が戦闘で使う道具がメインになる。 でもあれ? ここだと俺の装備見つけられないんじゃないのかな? それともなにかお目当ての道具があるのかな?
「あれ? もしかしてエレナじゃないか。 こんな所でなにしてるんだよ」
親しげに男が話しかけてきたが、どう見ても軽い感じがする男だ。 外見はこんなんだけどエレナさんのお友達だろうか? 違うだろうなぁ。
「どちらさまでしょうか? いえ、どちらさまでも構いません。 私は彼と買い物に来ています。 邪魔しないでください」
やっぱりお友達じゃないよね。 たぶん冒険者でギルドでエレナさんをナンパしたりしてるんだろうな。 エレナさんの目がゴミを見るような目をしている。
はずれははずれでもお店や店員じゃなくて利用客にはずれが混ざってたよ! だがしかし! 少しの辛抱のはずだ! そう彼らが動くはず!
「いやだな。 この前も話したばっかりじゃないか。 あぁ、僕がいつもの鎧を着てないからわからないのかな? アルーノだよ。 エレナ」
「さきほども言いましたが、私たちは買い物に来ているのです。 失礼します」
「まあまあ、待っておくれよ。 エレナ。 その彼は君のお気に入りなのは知っているけど、そんなのと一緒にいるよりも僕と楽しく過ごそうじゃないか。 夜だって楽しませてあげるよ」
はい、パターンはいりましたーって正直思ったよ。 この手の人は人の話を聞かず、自分の都合を押し付ける。 その為に行く手を遮る。 そんなことしたって不評しかかわないだろうと思うけどみんな似たようなことするんだよね。
「エレナさんは俺に付き合ってくれてるんです。 勝手に誘わないでください」
「子供は黙っていたまえ。 ここから先は大人の会話だ」
「子供でもわかるくらい邪険にされてるんだから諦めれば?」
「恥ずかしがってるだけさ。 この僕が邪険に扱われるはずがないだろ」
「え? 本当にそう思ってるの? エレナさん、この人頭大丈夫かな?」
本気で俺はそう思った。 そうしたら、男は、な!? とか言って顔が真っ赤になり、エレナさんは噴き出してた。
「ふふふ……。 そうね、確かに頭が大丈夫じゃないから私が迷惑しててさっさと消えてほしいと思ってても気がつかないのね」
「エレナ! いくら君でもい」
「呼び捨てもやめて、なんであんたみたいなのに呼び捨てられなきゃいけないの?」
エレナさんもガンガン攻めるみたいだ。 それに時間切れだ。 彼らが来た。
「僕がどれだけ君の事を愛しているかわかってないんだ! これからどれだけ君の事を愛してるかたっぷりと語ってあげるよ!」
「そうか。 ではその話は我々が聞いてあげよう。 皆の者! この男を回収する!」
「なんだ! お前ら! ちょっと離せ! はなせーーー!!!」
彼らに連れられて男は去って行った。 名前なんだったっけ? まあいっか。
「お騒がせしました。 後は我々で対処いたします。 それではよい1日を、では!」
颯爽と現れて帰って行くファンクラブの方々、まぁ実は長い事エレナさんと会話しようとすると後で制裁と降格になるらしいので行動は素早くというのが鉄則らしい。
「ありがたいんだけど、不気味よね。 あの人達……」
「害がないって諦めるしかないと思いますよ?」
「まぁそうするしかないんだけどね……。 はぁ……行きましょうか」
ファンクラブの人達の登場で、どっと疲れたみたいだ。 でも、そのおかげで怒りが吹っ飛んだのは俺にとっては良い事だ。 ありがとうございます。 それにしてもお店の人は止めてくれなかったなぁ。 さすがに剣を持った冒険者相手じゃ無理か。 オロオロしてるのは見てたけどもね。
「いらっしゃいませ。 その大変でしたね。 こちらからはちょっと手を出せないもので申し訳ない……」
カウンターにいた店員さんは本当に申し訳なさそうに謝ってくれた。
「相手は剣を持った冒険者、仕方がありませんよ。 それより、上に行きたいの。 これが紹介状ね」
「中を見させていただきますね。 ……なるほど、サブマスターの紹介ですね。 わかりました。 では上に案内させていただきます」
そう言ってカウンターの中に入れてもらった。 そこから奥に行って3階へと上がる。 3階って何があるんだろう?




