3 受付のお姉さんと登録
耳まで熱をもっていて、顔もきっと真っ赤になっているとは思う。 だけどエレナさんはニコニコとこちらを見ている逃げるわけには……。
いや、そもそも逃げる選択肢はもうすでに捨てて進んだはずだ……。って立ち止まってたら手招きまでされてしまった。 行くしかない。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。どのようなご用件ですか? って聞くのはさすがに意地が悪いかしら?」
笑顔でエレナさんはそう言いった。エレナさんは赤い髪を腰まで伸ばし、鋭い目つきのカッコいい美人さんだ。そのため男女共に人気がある。
男中心の「エレナ様に罵られ隊」とか女の人中心の「エレナ様マジお姉さまクラブ」とかよくわからないファンクラブもあり、前に町中を走っている最中にこの二つの抗争に巻き込まれヒドイ目にあった。
「……登録お願いします」
恥ずかしいやら、居心地が悪いやらでぶっきらぼうな言い方になってしまった。これで恥ずかしいし居心地悪いしに加えて失礼な事もしてしまったと頭の中はどうすればいいのかわからず混乱しだした。
しかし、さすがは色々な人間の相手をする冒険者ギルドの受付嬢様、こちらの状態がわかったようで
「大丈夫だから深呼吸してみようか。大きく吸って~吐いて~吸って~吐いて~……少しは落ち着いたかな?」
「少しは落ち着きました……。 なんかバタバタしちゃってごめんなさい……」
「いいのよ。君はまだまだ子供なんだから大人に甘えていいし、大人も面倒をみるものよ」
エレナさんはそんな事を言いながら、おでこを軽く押してきた。
12歳になり、ギルドに登録できる事で少し大人になったようなつもりになっていたけど、エレナさんの余裕ある対応を見ていると、まだまだ全然子供なんだなぁと妙に納得した。
「……はい、ありがとうございます。えっと、改めて登録お願いします」
「えぇ、わかったわ。それじゃあこの用紙に必要な事をかいてもらえるかな?」
エレナさんからもらった用紙に名前・年齢を書き込んだが、戦い方は書かずに渡した。
「戦い方を書かなかった理由を聞いてもいい?」
「父さんに、剣の腕は微妙で前衛はできないし、後衛をやるには色々足りない。 シーフみたいな冒険者をやるうえでの特殊技能もない。
しかも、お前は本格的に冒険者やるつもりも、パーティ組むつもりもないんだから書かない方がいいって言われたよ」
それを聞いたエレナさんは、困ったような笑顔を浮かべて
「確かに最悪、薬草採取が出来ればいいなんて冒険者君には、パーティの紹介とかに必要な項目は書く必要はないか……。ムーラ、カードよろしくね。
それじゃあ、ギルドカードを作るからその間にルールの説明をするのだけど、知ってるかな?」
暇だったのかな? 記入が終わる頃には別の人がやって来てたのでエレナさんはカードの発行を頼んだ。そしてルールの事を聞かれた。
「冒険者同士でケンカしない。ケンカするならギルドに行け。報告はしっかりと。わからない事は聞け。基本ギルドマスターが正しい。です」
「その通り、正解だよ。リックさんの事だから昨日何度も言い聞かせたんでしょ? ランクとか依頼の受け方も聞いてる?」
「うん、昨日父さんから何度もしつこいくらい言われて母さんも苦笑いしてた。ランクはSからFまで、依頼は1つ上のランクまで受けれるんですよね」
「そっちも大丈夫みたいだね。それで普通はつけるんだけどアシストはいる?」
アシストはこの町独自のものだって他の町から来た冒険者に聞いたことがある。内容は新人冒険者に冒険者としての知識や経験を持った人間がついて色々教えてくれるのだ。しかも10回くらいは無料で教えてもらえる。
無料で教えてくれるので受けやすく、新人は生き残れる可能性が高まり、ギルドは冒険者が不必要に死ににくくなって、商店は品物が売る人間が増えてみんな幸せだ。依頼ならいくらでもあるから選ばなければ常にあるしね。 だけど普通、最初は強制でつけられるはずなのでこんな事聞かれない。
「森に入る時にお願いするかもしれないけど、しばらくは大丈夫です」
「リックさんに連れられて何度も外に行ってるし、ゴブリン退治とかもしてるから完全に断るかと思ったけど、やっぱり子供の割に慎重ね」
エレナさんがそう言って苦笑した。そう、俺はすでに父さん指導の下、新人冒険者と同じことを経験してる。後ろからすぐに助けてもらえるという安心感があるとはいえ森の中でゴブリンを倒したことも1度や2度じゃない。
しかし、慣れたと思う頃が危ないからな! と父さんは口をすっぱくして言っていた。
技術はなくて、身体能力も人並みで、魔法と気功のごり押しなんだから油断なんてしてる余裕はないよ。と言うと、お前は本当に色々子供っぽくないよなぁ……。などと言って変な顔をされたのを覚えてる。
「慣れたと思う頃が危ないって父さんも言ってたし、まだ1人で森に入ったことはないので……」
「ゴブリンくらい余裕! って言って突っ走る子達も多いのに本当に子供っぽい所少ないわね。だからさっきみたいに顔色色々にして所見ると可愛いって思うんだけどね。っと、カードができたみたいね」
ちょ!? 可愛いって何!? とか思っていたら、さっき来たムーラって人がエレナさんにカードを渡してた。けっこう簡単に出来るんだなぁとか感心した。
「それじゃあ、これに魔力流してもらっていいかな? 出来ない人は血をつけてもらうけどできるでしょ?」
父さんに連れられてギルドにはよく来ていたし、父さんも色々話をしているので俺の能力を知ってる人は多い。将来有望だな! なんて言う人もいたけど、冒険者としては将来なんぞ無い。ごり押しの範囲が少し広がるだけだとか内心思っていた。
まぁそんな訳でちゃちゃっとカードに魔力を流した。そうするとカード全体が薄らと光った。
「はい、これで登録完了です。細かい事はまたリックさんにでも聞いてね。 おつかれさま」
「ありがとうございます!」
登録が終わりテンションが上がった為、勢いよく挨拶をして依頼掲示板へと走った。そして1枚の依頼書をささっと回収してエレナさんに渡す。
「これお願いします!」
テンションが上がった俺を見て目を丸くして、子供っぽい所もあるのね。みたいな目で見られ、依頼書を見て苦笑しながら優しい顔をしていた。
「はい、薬草採取ですね。カードをこの板の上に置いてください。……依頼を受理しました。気を付けていってらっしゃい」
「いってきま~す」
嫌な人がいることもあるが、優しい人が多いこのギルドが俺はけっこう好きだ。 だから俺は挨拶をして初クエストに向かった。
エレナさんはもちろんマティスさんも他の冒険者も笑顔で見送ってくれた。