28 ギルドでのお話
昨日アレックさんと話をして新作改めポーションプラスが教会を通じて錬金術ギルドに提出されることになった。 そのため情報解禁である。
ただ、生産できるのが現状で俺だけであり、数も少ない。 だからと言って俺だけで使っているのはもったいないと思う。 でも、少数でも売れば混乱が起きたと思う。 だったら使用機会がありそうで、なおかつそこだけに売っても混乱が起きにくい場所に売ればいい。
そう思って俺は冒険者ギルドにやってきた。
「いらっしゃいユリト君。 昨日は無の日で教会に行くのはわかってたけど、それでもこっちに来てほしかったわ」
「あーごめんなさい。 教会でいろいろあって……」
「まぁこうして元気な姿が見れればいいわ。 それよりもまっすぐこっちに来たけど依頼は?」
「今日はガリックスさんと話がしたいんですけど会う約束ってできますか?」
「私よりガリックスさんと話がしたいの? お姉さん悲しいわ」
ちょっと落ち込んだふりをするエレナさん。 効果はばつぐんだ! 周りのファンクラブの雰囲気がヤバイ。 ってなんで? これくらいのやり取りはいつもの事なのに……?
「エレナさん。 周りがシャレにならないのでやめてくださいよ……。 それにガリックスさんに話を通さないとまずいんですよ。 とりあえずこの袋を渡して、中身の事で話があるからってお願いできませんか?」
「確かに新人君が入ったみたいで、私とユリト君のことわかってない子がいるからこういうのはしばらく自重して普通に仲良くした方がいいわね。 とりあえずガリックスさんにその袋を渡してユリト君が話したいことがあるって伝えて来るわね」
そういってエレナさんは奥に入っていった。 あぁなるほど、そういえば土の月からは新人さんが爆発的に増えるんだった。
新人を鍛えるのに最適な場所とかいって他の町からも冒険者を目指してる人がやってくるのだ。
「よ、ユリト」
後ろから声をかけられたので振り返れば、エレナさんファンクラブの人がいた。
「どうしたんですか?」
「いや、用はないんだよ。 ただこのままほっとくとうちの新入りがユリトにちょっかい出しそうだったからな。 だから俺が先に声をかけたって訳だ」
情報が少ない新人がエレナさんに近づく俺に対して行動をとる可能性があるってことか。
「新人冒険者が増えればその分、ファンクラブも新人増えるんですね。 エレナさんが魔性の女過ぎる」
「何を言うかバカ者め、エレナさんは女神様だからな! よその町から来た人間も虜になってしまうのさ。 だからこそ、我々が鉄の掟を叩き込み見守るに留めるようにしているのだ」
「例の抗争でめっちゃ怒られましたもんね。 関係ないファンクラブまで……」
「あれは嫌な事件だった。 あれ以来ファンクラブは1本化され、掟が制定されたのだった」
本当に嫌な事件だったよ。 巻き込まれて大変だったんだから……。 それのおかげ? で現状の静かな状態が生み出されているのだからえ~と……生みの苦しみってことか? 違う気がする。
「ユリト君」
今度はカウンターの方から呼ばれた。 というかエレナさんが戻って来たみたいだ。 ファンクラブの人はスッといなくなった。 なんかもう色々すごい人になってる気がするよ!
「はい、ってえ?」
「さぁユリト君、こっちに来るのじゃ、話をしようではないか」
いきなり出てきたよ? こういうのって色々必要なんじゃないのって思うんだけど本人出て来ちゃったよ。
「ユリト君、ワシもそれなりに忙しい身じゃ。 さぁ話をしようではないか! さぁ!」
ガリックスさんの様子がおかしいよ! おかしな薬やっちゃった!? そんなことを思ったけれどがっしり掴まれてそのまま部屋に連行されました。 席に着くと一息入れてガリックスさんが話しかけてきた。 一息入れたから少しは落ち着いたみたいだ。
「さて、この新作ポーションについて話があるということでよいかな?」
そうガリックスさんは言いながら、さっき渡した袋の中に入っていたポーションプラスを持ちゆらす。
「そのポーションの検証が終わって、教会を通して錬金ギルドにレシピを提出することになりました。 アレックさんからも情報解禁していいと言われてます。
ただ、今現在それを作れるのは俺だけで、作れる数も少なくて、大っぴらに販売したくありません。 だから、ガリックスさんと話ができればと思って来ました」
「ふむふむ、検証の結果はどうだったのかの?」
ギルド内で使われたとはいえ直接見てないし効き目とか色々気になるよね。
「検証に使ったポーションは大体ハイポーション並の回復力があったって言ってました。 副作用は今の所確認されてないみたいです」
「それで、君はどうしてほしいのかな?」
「商売にすると税金関係でめんどくさいんでできればギルドからの指名依頼で買い取ってもらって、この前みたいな緊急時とか、新人のサポートの時にギルドが責任をもって使ってもらえたらなぁと思ったんですけど……ダメですか?」
緊急時はわかりやすいと思う。 新人のサポートは時々、バカが突っ込んで大怪我をすることがあるのだ。 そういう時に使ってもらえたらいいかなぁ? とか思ったんだよね。 んで、こういう事はガリックスさんに意見を通すのが1番いいし、情報も秘匿できるはずだ。
「1日にどれくらい作れるのじゃ? あまり多いと困るのじゃが」
「お店に出すポーションと冒険者として依頼も受けたいので、2本が無理のない範囲です」
「店を通じて買えばよくないかの?」
「店の商品を買い占めるってばれた時にイメージ悪くないですか?」
「買い占めてるのに変わりはないのではないかの?」
「依頼なら受ける受けないは俺に選択権がありますよ」
「別の誰かが高額で指名依頼を出した場合は?」
「できればばれないでほしいですけど、ばれてそうなったら、ギルドの手伝いがしたいからとかいいますよ」
「ふーむ……」
きっと色々考えてるんだろうな。 普通冒険者側から俺に指名依頼してくれとかギルドに頼まないもんね。 それに冒険者ギルドが独占してることに変わりはないからなにか言われたりするかもしれない。
そう考えると面倒事を避けるために断られるかな? ハイポーションはこのあたりじゃ使われないからいざという時には役に立つとは思うけど……。
「うーむ……。 ちょっと待っておれ。 タブスと話してくるからの」
そう言ってガリックスさんが出て行った。 ……タブスって誰だっけ? 職員さんの名前全員知ってる訳じゃないからなぁ。 ガリックスさんが難しい話をしにいくほどの相手だ。 実はガリックスさんの後継候補さんだったりするのかな?
しばらくするとガリックスさんが戻ってきた。
「待たせてしまったの。 タブスに許可をもらってきたわい。 王都でハイポーションが銀貨7枚で売られておる。 じゃからわしらも銀貨7枚で買い取らせてはくれんかの? とりあえず買取り数は30個までじゃ。
使ったらその分はまた買い取ろう。 それと3か月以上の保存が効くようなら買取り数を増やそうと思う。 どうじゃろうか?」
ハイポーションは効果が減り始めるまで2か月くらいかかるし、王都にある特殊な農園で上薬草を栽培している。
だから、銀貨7枚なんて格安で販売している。 薬草のようにやたら生えてるわけではないので、野にある上薬草を使ってなんてことになったらいったいいくらになるかわからない。
材料は薬草とスライムの核だし問題ないと思う。 でも、許可をもらう? あれ? それってもしかして、ギルマスの事……? 後で聞いてみよう。
「それでお願いします。 ポーションみたいに保存が効けばいいですけど効かなかった場合、大量購入してたらヒドイ目あいますもんね。 それで今30本なら在庫があるんですけどどうしますか?」
「すでにそれだけ数があるとは……。 直近に作った物10本ほど買い取らせてもらって、後は少しずつ買取りでもよいかの?」
「いいですよ。 それでは、これを」
俺は持っていたポーションプラスを10本机の上に出した。 ガリックスさんはその場で大銀貨7枚出した。
「あれ? 手続きとかいいんですか?」
「今決まったばかりの事じゃ、後で処理しておくわい。 その方がユリト君も待たず、ワシも急いで仕事しなくて済むから助かるわい」
「そういうことならもらいますね」
ガリックスさんも案外めんどくさがりなのかな? いやいや、ただ急ぎの仕事が増えるのが大変なだけだろう。 ギルドの事務方のトップがめんどくさがりで勤まるはずがない。
「さてと……話はまだあるかの?」
非常に重要な案件がまだ残ってるので俺はガリックスさんのその言葉にうなずいた。
「これからも作り続けてますから緊急時はいっぱい買ってくださいね。 それとポーションを作るにあたってギルドの買取り表に追加してほしい物があるんですけどいいですか?」
「ふむ、珍しい物かの? 新作のポーションで使うものとなれば出来る限り買い取ろう」
「では、スライムの核の買取りお願いしますね」
「スライムの核じゃと……?」
驚いたみたいだ。 それはまぁ驚くよね。 今まで使い道がないって踏み潰してただろうし。
「スライムの核ですね。 今は今まで集めてたもの使ってるんですけど、いつなくなるかわかりませんので集めておきたいんです」
「ちなみに何個あれば1本作れるか聞いてもいいかの?」
「俺の場合は薬草3束とスライムの核1つでポーションプラス2個ですね」
「ポーションプラス? それが新作の名前かの?」
「新作の名前ですね。 そういえば名前まだ言ってなかったですね」
新作で通ってしまっていたために、すっかり名前を言うの忘れてたよ。
「ポーションプラスのぉ……。 それにしてもスライムの核か……数が集まるかどうかまったくの未知数じゃな」
積極的に狩りに行くようなものでもないしね。 でも、今ならいけると思うのだ。
「確かに積極的に狙いに行くものではなかったですけど、東の川辺ならそこそこいますし、新人も多いです。 値段次第じゃないですか?」
「その値段が問題になるのじゃがな……。 ギルドで買い取るにしても、ギルドから売るのは現状ユリト君だけじゃ。 いくらまでなら出せる?」
ん~母さんから薬草を分けてもらう時は1束大銅貨1枚と銅貨5枚払う。 母さんからは払い過ぎと言われてるけど気にしない。 それが3倍で大銅貨4枚と銅貨5枚。 ポーションプラスが2個で大銀貨1枚と銀貨4枚、差額がひどいことになってる。
普通は魔力水を作るために魔石や瓶代、人件費がかかるけど、俺の場合材料費だけだからね。 場合によっては材料すら集めるし。 でも、ポーションプラス売り場所がないんだよねぇ……。 長期保存はできると思っているから、かさばらないし、割れないから作るだけ作って箱にでも詰めておこう。
「1個で銀貨1枚はやりすぎかな」
「やりすぎじゃバカもん!」
ガリックスさんに怒られた。 当然と言えば当然だろう。 ゴブリンの5匹の退治依頼と同じってそれはない。
「やりすぎだとは思いますよ。 確実に在庫も財布もひどい事になるのもわかってますって。 ギルド買取り1個大銅貨3枚ならどうですか?」
「ゴブリンの魔石と同じ値段というのはのぅ……」
倒す敵の強さが違いすぎるとは思いますよ? でも、ゴブリンの魔石って使い道あんまりないですよね? 魔力水作るのに使ってますけどあれすっごい効率悪いですよ。 他の使い道は良く知りませんけれどね。
「討伐依頼の上乗せがあるわけじゃないですし、あまりにも集まりすぎたら安くすればいいと思いますよ」
「過剰在庫になれば確かにギルドの買い取り価格が下がることもあるしの。 ギルド買取り大銅貨3枚、ギルドから買う時は大銅貨4枚でどうじゃ?」
「では、それでお願いしますね。 でもギルドで突然スライムの核の買取り始めたら、ギルドの正気を疑われますよね」
「冒険者なら金になればなんでもいいと思うがの。 ワシとしては君の正気を疑うよ」
「いや、確かに俺の方が正気じゃないように見えますけど……。 あーとりあえず、よろしくお願いしますね」
「うむ、頼まれた。 ポーションプラスはエレナ君に渡せばわかるようにしておこう」
「よろしくお願いします。 では失礼します」
これでポーションプラスの一応の売り先は確保できた。 スライムの核も集まるだろう。 スライムの核、たくさん集まるといいなぁ。 ……あ、そうだ。 忘れてた。
「最後に1つ聞きたいことがあるの思い出しました」
「ん? なんじゃ?」
「タブスさんってギルマスの事ですか?」
「ユリト君……ギルドマスターの名前くらい覚えておいてほしいのぉ」
「不勉強ですみませんでした」
ギルマスとしか聞いたことなかったから名前知らなかったよ……。 ごめんなさい、タブスギルドマスター。
「出てきたわね。 今日はこれからどうするの?」
ガリックスさんとの話を終えて出てきたら、エレナさんが待ち構えていた。 お仕事はどうしたのでしょうか?
「ゴブリン相手に色々と試してこようと思います。 それとガリックスさんにお願いしたことで少しエレナさんにも協力してもらうことになると思うのでよろしくお願いします。 詳細はガリックスさんが話してくれると思いますから」
「体も勘もにぶってるだろうから無理はしないでね。 それで、ユリト君絡みで私のお仕事が増えるのかしら? なら丁度いいわね。 埋め合わせをしてもらいましょう」
「確かに仕事増えるかもしれませんけど、埋め合わせって……。 なにをさせるつもりですか」
「私と明日はデートね」
イマナントイイマシタ? デート? デートっていいませんでしたか!?
「え? あれ? なんで?」
「それじゃあ私はガリックスさんにお休みの許可をもぎ取りに行ってくるから、明日はいつもユリト君がギルドに来るくらいの時間に中央広場ね。 気を付けて試してきてね」
そう言ってエレナさんはガリックスさんの所へと行った。 あれ? 決定? いやじゃないけど突然でびっくりしたよ……。
うん、明日の事は明日考える! 今日は色々試しに森へ行きますか!
銀貨5枚→銀貨7枚
わかってないわかってない→わかってない に修正しました。




