26 目が覚めるとそこは……
目を覚ますとそこは知らない部屋だった。
「ここは……?」
なんだか体が重いし、意識もどこかぼんやりしている。 えっと何があったっけ? んー……あ、誘拐されそうになったんだ。
胸の奥で黒い感情が顔を出す。 いや、もしかしたら誘拐されたのか? 自分の状態を確認してみる。
体は重いけど拘束されてる様子はない。 もしかしなくても魔力切れかな? でも、こんなに体が重くて、意識もぼんやりしてるのは初めてだ。
次に部屋を見てみる。 なんかとても清潔感のあるお部屋で、あんな荒っぽい連中の使ってる部屋とは思えないんだけど……。
まぁ誘拐されたとしても言う事なんて絶対聞く気はない。 全員……その時、ドアが開いた。 重い体に力が入る。
「あらあら、ユリト君。 目が覚めていたんですね」
体から力が抜けた。 開いたドアから入って来たのはジュリさんだった。 あれ? なんでジュリさん?
「ジュリさん……? ここはどこですか?」
「ここは治癒院ですよ。 体の調子はどうですか?」
「体は重いし、意識もなんかぼんやりしてます」
ジュリさんは俺の答えを聞きながら、あちこち体を触る。 えっとそれ必要ですか?
「やはり体に問題はなさそうですね。 ただ、魔力が極端に少ないですからその影響だと思いますよ」
「そうですか……。 ところで、ジュリさんはなぜここに?」
「アレック様が心配してあられるので、時々こうして様子を見に来ていたのですよ」
そっか、やっぱり心配かけたよね……。 後でちゃんと謝らないと……。
「まだ本調子ではないでしょうし、ゆっくりお休みくださいね。 1度目を覚ましたことは伝えておきますから」
そう言って出て行こうとするジュリさんに俺は質問した。
「ジュリさん、あいつらどうなりました?」
「大丈夫ですよ。 監視付で大人しく治療を受けていますから」
ジュリさんは優しくそう言って帰っていった。 俺は布団を頭からかぶり、なんとか眠ろうと目をつぶる。
俺の中にあるのは後悔だ。 完全に覚えてる訳じゃないけど、ぼんやりと夢のように覚えてる。 あいつらは生きている。 殺せなかった。
ジュリさんは相手は死んでいないから大丈夫と言ったのだろう。 だけど、だからこそ大丈夫じゃない。
俺の後悔はあいつらをきっちり殺せなかった事だ。 誘拐なんて許されるものじゃない。 だから俺はあの神話が嫌いだ。 自分の中に黒い感情が大きくなっていく。
寝よう。 寝てしまえ。 しっかり寝て魔力が回復すればこんな感情押し込める。 いつだってそうやって生きてきたんだから、今はとにかく眠ろう。 夢のような覚え方しかしてないなら次に起きた時はきっと忘れているさ。
次に目が覚めた後は大変だった。 魔力はしっかり回復して、すっかりいつもの俺に戻っていたが周りがすごかった。
実は最初に目が覚めた時で3日間立っていて、そこから今度は2日眠っていたのだ。
そのため1度起きたんだからすぐにでも起きると思ってたのに起きずに余計に混乱したのだとか。
目が覚めても様子を見るために1週間の入院となった。 その間、様々な人たちが俺の元を訪れた。
両親やアレックさん、エレナさんに店の従業員、マティスさんも来ていたし、挙句の果てに警備隊の隊長さんまで来てた。
隊長さんは、事情聴取と謝罪に来たのだ。 事情聴取は言わずもがな。 謝罪は視線うんぬんの話は聞いてたのに対処できなかったことや、北門での事とかだ。
あの日やっぱり警備隊に通報してあり、門を通って外に出たのはわかったので帰ってきたら門で遅れた事情を聞きながら待機してもらい、その間に家に連絡が入るようにする手筈だったと言う。
しかし、朝北門でユリトを相手した門番は、眠さと冒険者なんだからいちいち騒ぐなという思いを持って受け継ぎをしたために、聞いたことを忘れてそのまま通してしまったとの事だった。
そのため処分を与えたと言われれば慌てるしかない。 でも、隊長さんは言った。
「ユリト君が来た時の対応は事前に決めてあった。 決めた事を守れないような人間に住民を守れるはずがない。 鍛えなおさなければならない」
至極当然な事を言われて、納得しかけたがやっぱり自分が原因なのはかわらない事には気がついた。 だけど、遅かれ早かれって事だったんだと思う。 そう思う事にした。
たくさんの人が来て、心配したと泣かれたり、怒られたり、よく無事に帰って来たと褒められたりと色々あったけど、これだけ大勢の人に気にかけてもらえてる事が嬉しかった。
やっぱりパーティを組むべきなのだろうか? いや、下手に組むと人質取られて逃げるに逃げられなくなる。 難しい話だ。
そしてついに俺は退院した。 体調は万全である。 こっそり空間収納に魔力を注ぎ込み続け今までにない速さで大きくなった。 オークを持ち帰るにはまだまだ全然たりないけどね。
すぐに冒険者としての仕事も……するにはさすがに体がなまってる感じがひどい。 迎えに来た両親と共に久しぶりの我が家に帰ってきた。
おかえりと迎えてくれる店の従業員の方々、本当にありがたかったので精いっぱいの思いを込めてただいまと言って家に入った。 父さんはここで別れて仕事へと向かって行った。
「おかえりユリト君お邪魔しておるよ」
「おかえりなさいユリト君」
帰って来て2階の居間に入ると、エレナさんとなぜかガリックスさんがいた。 なんで客間じゃなくて自宅のこっちにいるのさ。
「ただいま帰りました。 ……エレナさんはいてもおかしいとは思いませんけど、なんでガリックスさんがいるんですか?」
「冒険者ギルドサブマスターとして用事があるからに決まっておろう」
「そうすると私はいない方がよさそうですね」
「いや、いてもらわないと困るからいてくれんかの?」
母さんはギルドの話と言う事で出て行こうとしたけれど、それを止められた。 うちの薬屋に用事って事か?
「急にお邪魔して申し訳ありません。 ギルドから依頼がありまして、こうして足を運んだ次第です」
「それはともかくなんで客間じゃなくて、こっちの居間にいるの?」
エレナさんが真面目に仕事の話をしようとしたけど、俺はそれよりも疑問に思ったことを聞いてみた。
「それは受付の方が、ここで待ってればいいと案内されたからです。 私もなぜこちらに案内されたかはわかりません……」
「あぁ、シミリスですね。 こういうイタズラたまにするんだから……」
母さんが呆れてた。 シミリスさんのイタズラなんですねこれ……。
「おっほん、エレナ君本題を」
「そうですね。 依頼の内容ですが、またポーションの数量を増やして期間限定でいいので売り出しをしていただけないかと思いましてやってきました。」
「それは確かに私もいないとどうしようもありませんね。 ユリトどうするの?」
ほぼ2週間俺が作ったポーションの販売はできてない。 その間に色々あったんだろうなぁ……。
「ちなみに受けても受けなくてもユリト君はしばらく外出禁止じゃからな。」
「え? ガリックスさん、 それ町から出るなって事ですよね?」
きっとそうに違いない。 町から出るなですよね?
「家から出るな。 じゃよ。 一仕事終えたと思って息を抜いたところでこれじゃ。 警備隊にしても色々思うところがあるのじゃろう」
「はぁ……それじゃポーション作るしかないじゃないですか。 それはもう精いっぱい出来る限り作らせていただきますよ」
それから俺は外出許可が出るまでポーションを作りまくった。 その数1日60本。 隠れて新作も作って毎日2本ずつため込んでいった。
そして土の月光りの週風の日、ようやく明日から外出していいと許可が出た。
俺のせいで大勢の人に迷惑をかけた。 少しずつでも恩返しして行こうと思う。 とはいえポーション作る以外に出来ることがあるかわからないけれどもね。




