20 恩は恩で返してくれると思った?
「おう! 次かかってこい!! 叩きのめしてやるぞ!!」
「行くぞーーー!!!」
「行けーーー!!! ハゲ倒せーーー!!!」
「誰がハゲだ! スキンヘッドだ!! 立派な髪型だ!! とりあえずお前を潰してからハゲって言ったやつを潰すぞ!!」
「とりあえずってなぎゃーーー!」
子供たちはとっても楽しそうでした。ものすっごいのびのび楽しんでおりますね。
というかマティスさんは何をやっているのでしょうか? 怪我しないのか心配になるくらい子供がとばされてるんですけど……。
「お! にいちゃん来たのか! でもハゲがいるから、にいちゃんいらないや!」
「誰がハゲだ! スキンヘッドと何度言えばわかる! 3代目勇者様もしていた由緒正しき髪型だぞ!」
「ハゲが怒ったーーー!!」
マティスさん相手にハゲを愛称にして呼ぶとは子供は怖いもの知らずだなぁ、と思う。
そしてなにより子供は正直だ。俺みたいに素振りしか教えられないへたくそよりもなんだかんだで面倒見がよくて、剣術も教えてくれるマティスさんの方が人気が出るのもうなずける。
「坊主じゃねぇか! 引きこもりは終わりか? 終わったならエレナの嬢ちゃんの所に行ってやりな。色々心配してたんだからよ」
「あ、わかりました。後で行ってきますね」
「後とか行ってねぇですぐいってやれよ。坊主だって嬢ちゃんの顔見てねえだろ?」
「いえ、時々部屋にまで来てましたけど……」
「お? そうなのか。だったら……いやいや、外で顔を見るのはまた違ったもんだ。行ってやれって。でも、これで俺もガキどもの相手しなくてすむな!」
「ハゲ! 相手しないってどういうことだ! 剣教えてくれよ!」
マティスさんが相手しないと聞いて子供がくってかかってきた。せっかく教えてもらってた? のにそんな事言われれば言いたくもなるか。
「来週からは坊主が来るんだから、俺が来なくてもいいじゃねぇかよ」
「にいちゃん素振りしかできないもん! すっげぇへたくそなんだぜ! だからハゲが来てくれよ! にいちゃんはあっちの連中と遊んでればいいよ!」
「坊主、ぼろくそに言われてるけど坊主はどう思うんだ?」
どう思うもなにも言われた通りなのでどうしょうもない。
「確かに俺だと素振りくらいしか教えられないから、ちゃんと教えてくれる人がいた方がいいとは思うけど、それならそれで道場行くとか学校行ってからってのが普通なんだよね」
マティスさんが、ん~とか唸りながら考え込んでしまった。いや、別に来ないなら来ないでいいと思うんですけどね。
「ハゲ! もう来ないのかよ! 来いよ! 来てよ!!」
「「「ハゲーハゲー」」」
子供たちによるハゲコール慕われてるね、マティスさん。俺いらないとかあっち行けとか言われてるんですよ? なんだかとっても寂しいです。
「ハゲハゲうっせえぞ!! わかったわかった。また来週からも来てやるから落ちつけ」
「ハゲ約束だぞ! さあ、勝負だ!」
そんな時に昼の鐘が鳴る。
「今日はここまでだな! 解散解散」
「えーにいちゃんのせいで剣の時間みじかくなったじゃないか! どうしてくれるんだよ!」
俺が怒られるんですか? もうへこみまくりです。
「あー悪かったよ。お詫びに食べ物配るからそれで許してくれ」
そう言って俺は次々と露店でもらったものを子供たちに渡した。
ついでにマティスさんもほしかったのであげた。ついでにもっとほしがったのでマティスさんにあげた。そうしたら子供たちもほしがったので追加であげた。食べ物関係はほとんどこれで無くなった。ご協力感謝いたします。みんなに挨拶してお昼を食べて、ギルドへと向かった。
「いらっしゃいユリト君。 元気にしてたかしら?」
「元気にしてたかって何日か前に訪ねて来たじゃないですか」
「数日のうちに風邪でもひくかもしれないじゃない」
「そうなったらポーションが店頭に並びませんよ」
ギルドに着いた俺はエレナさんと話をしていた。この時間から薬草採取とか行けるけど、そんな気分でもないので顔見せだけのつもりだったんだけど、離さないわよって雰囲気がバリバリ出てる。
「あのエレナさん、俺依頼しに来たわけじゃないからあんまり受付にいるのはよくないと思うんですけど」
「ユリト君は私とお話しするのが嫌なのかしら?」
「そんな事はないですけど……、仕事中ですよね?」
「少しくらい大丈夫よ」
その言葉を聞いて隣で仕事してる人を見ると笑顔でどうぞどうぞと続きを促した。いいのかよ仕事。
「気にしなくて大丈夫よ。これでも仕事は早いからね。私の雑談に文句つけるくらいなら私に仕事頼るのやめればいいのよ」
「エレナさんに頼れなくなったら業務に支障がでますよ!」
別の方向から誰かが突っ込んできた。つまりエレナさんのご機嫌取りの為にこういう時間を見過ごしてるのだろう。
「ギルド職員は比較的優秀と言われる人達がなれる職業だから、私が抜けたらそれはそれで回せると思うのよ。だけど、1度慣れたものが変わるとなかなか大変なのよね」
「比較的優秀な人たちが頼るエレナさんはどれだけの人なんですか……。それより何かありませんでした? ずっと引きこもってましたし、エレナさん来ても体調は大丈夫? とかの話ばっかりで冒険者としての情報くれなかったからほしいんですけど」
「特にこれと言ってないわね。南西の森も静かになって他も変わらず、見慣れない冒険者が増えたけど、それはどうもユリト君のポーション目当てだったみたいね。転売やら偽装商品があったけどそれは警備隊の管轄ですでに根絶済みだからね」
「見慣れない冒険者が増えたってエレナさんが大変になってそうですね」
改めて言わなくても美人なエレナさんだ。きっと何度も口説かれたに違いない。
「数は多かったけど、慣れてるから問題ないわよ。いざとなればマスターが出てくるし」
最終兵器マスター、恐ろしい事です。
「あ、そういえば、ユリト君はあの事知ってるのかしら?」
「あの事って何ですか?」
「ユリト君の同期の5人いたでしょ? あの子達明日にはDランク昇格試験に合わせて王都の方に行くのよ。1年かからずに昇格。むしろわざとギルドで昇格させずにギリギリまで引っ張って向こうでも問題なくやっていけるようにした期待の新人パーティだったわね」
「あいつらもうDランク昇格試験で町移動するの!? 知らないよそんな事! エレナさん、聞かせてくれてありがとうございます! 帰って急いで準備しなきゃ!」
「ユリト君! 出発は北門、朝1番の鐘よ!」
「ありがとうございまーーす」
出発時間も聞かずに飛び出そうとした俺にエレナさんが大声で教えてくれた。危なかった。本当に感謝だよ。
とりあえず道具屋に飛び込んで袋を2枚買う。そして家に帰って片方の袋には今日貰った保存食を全部入れる。
これは嬉しい誤算、保存食をくれた人ありがとう。そして友人達よ。まだ上げてないけど貰ってくれる予定でありがとう。
母さんに事情を説明して薬草をわけてもらった。ちなみに今日からの販売個数は30個だ。だから余裕がある。
とりあえず明日の使う分を作る。そして部屋で休み、魔力を回復させる。ついでに手紙も2通書いておく。話できなくて顔見せるだけになるかもしれないからね。
魔力を回復させ、まずは明日お店に並べる30個を先に作ってしまう。ギリギリで30個作れたことに安心して、今日は寝る。最悪保存食だけ渡すけど、明日起きたらポーションを作って渡すのだ。
数少ない俺の友達にできることはしてあげたいと思いながら俺は眠りについた。
顔見世→顔見せ 修正しました。




