2 12歳になったよ、冒険者ギルドに登録に行きます
「母さん、いってくるね~」
「気を付けて! ユリト! 本当に気を付けていってくるんだよ!!」
装備や持ち物を確認し、母さんに挨拶をして裏口から出た。俺がこれから向かう先はこの町にある冒険者ギルドだ。年が明けて少しづつ暖かくなってきた今日この頃、昨日12歳の誕生日を迎えたのでようやくギルドに登録できるのだ。
身長は同世代の子達より少し大きく、体は引き締まっているけどももう少し筋肉があればなぁと思う。
俺自身は覚えてないけど確認の儀の後、急に色々な事をやりたがりだしたらしい。母さんには調薬を、父さんには剣術を、そしてアレックさんに魔法を教えてほしいと頼んだそうだ。
母さんは調薬をする前に文字や計算を覚えないとねと言って、文字や計算、薬や薬の材料の知識を教えてくれた。そして、ある程度教わってから危険もなくやり直しができる薬草のすり潰しなどから始めて、今では簡単な薬の調合ができるようになった。
父さんは、嬉しかったみたいだけどまだ早いと剣術は教えてくれなかった。けども体力があれば剣を教えやすいから走って体力をつけるように言った。 俺は走った。とにかく走った。魔法で身体強化を覚えてからはその距離が伸び、楽しくなり丸一日ずっと走っていた時には両親共々呆れた顔をされたのを覚えている。お前の体力がそこまで伸びるとは思えないのだがなぁと父さんは言っていたが、これは魔法と気功のせいだった。
気功は修業した人間が気を感じ、扱えるようになると使えるようになるスキルらしい。俺の場合は魔力が切れかかってる時に使っていない力が体内にあることに気が付きまだ使ってない魔力がある! と扱いづらい魔力として捉えて使い始めた。この話を聞き、教会でスキルの確認をすることを勧めてくれたアレックさんは結果を聞き、ユリト君は色々とアレだねぇ……などと言われてしまった。アレとはなんだアレとは……。
気功を覚えたのは10歳だったが、剣術は7歳になると教えてくれた。 ただ、才能はなかったようで、すぐに頭打ちになった。実際、10歳になってから入る学校で選択で剣術を受けた同年代の子達は、始めて剣を握った子を含めて1年以内に勝てなくなっていた。元冒険者で、今は町の警備隊にいる父さんから3年教えてもらって、あっという間に剣術成績最下位というのはけっこうへこんだもんだ。
アレックさんは顔や態度には出ないが迷惑をかけたなぁと思う。子供とは都合のいいところだけ覚えているようで、また聞きに来るといいよ。と言った言葉だけを頼りに乗り込んだようだ。それでもアレックさんはライトという光るだけの危険性のない魔法を教えてくれた。帰って両親に見せたら怒られたみたいだったがそれも当然だと今聞けば思う。後日、謝りに出向けばアレックさんは笑いながら謝罪を受け入れてくれて、学校で教える程度のものであればまた教えてくれると言ってくれた。
それから俺はちょくちょくアレックさんの所に行っては魔法を習ったり、練習したり、話をしてもらったりした。アレックさんはもの凄くいい人である。よく行っていたのでアレだねぇ……なんて言われるくらいには仲良くなった。ついでに教会の人ともそこそこ仲良くなった。
最初はライトから始まり、使いすぎて寝込んだりして怒られたり、心配されたりしたが、少しづつどれくらい使えるかを体で覚えた。
今では覚えられる魔法は全部覚えた……。と言うか学校で教えてくれるもので覚えられる魔法が終わってしまっただけである。
そして肝心の錬金術はと言うと……などと昔のことを考えていたら冒険者ギルドの前についてしまった。
ギルドの建物はこの町で2番目か3番目に大きい。1番は間違いなく領主様のお屋敷だ。なんであんなに大きいのかまったく理解できない。2・3番目を争う建物は教会だ。礼拝堂や個人相談室、神官の寝床まであれば大きいのは納得できる。
そんな大きな建物である冒険者ギルドの中に入っていく。中には数人の冒険者と少し気が抜けたような受付の人が見えた。俺は実家暮らしの家業手伝いで冒険者として必死になって稼ぐ必要がないため、朝の混雑の中に突撃し少しでもいい依頼を探し出し奪い合う戦いに身を投じる事はないのである。だから、こうして朝の忙しい時間帯が終わった頃にやってきたのだ。
登録の為にさぁ受付に行こうと思って歩き出したが、
「おぅ坊主! 今日はなんの用があって来やがったんだ?」
と、30後半ぐらい見えるスキンヘッドのがっちりした巨漢に声をかけられた。これで声が知ってる人間に親しげに声をかけるようなものでなく、威嚇交じりのものならばビビッて飛び上がったかもしれない。しかし、幸いにしてこのギルドの有名な世話焼きであり知り合いでもある。
「おはようございます、マティスさん。 12歳になったんで、登録に来たんですよ」
「リックの息子がもう12歳か! この間までリックの後ろをウロチョロしてたチビがこんなでかくなるんだ。 俺も歳を取るわけだ!」
そう言いながらガハハハハとでかい声で笑う。周りの冒険者からも、もう冒険者じゃなくて世話焼きじじだな! とか、昔に比べて本当に丸くなったなぁ……などとしみじみと言われたりしている。丸くなったって昔はどんな人だったのだろうか?
「お前らうっせぇぞ! 坊主、登録するのはいいけど絶対に死ぬなよ! 他の奴には言わんがお前には言うぞ。絶対に無理するな! 死ぬような事になる前にさっさと逃げろ! 違約金が怖いなら俺が払ってやってもいい。だから死ぬなよ! お前の作るポーションが無くなるのはこっちにとっても死活問題だからな!」
「死ぬ気はまったくないし、無理もしないよ。15歳になるまでに森にある魔力草を取りにいけるようになればいいなぁくらいに思ってるし。最悪、草原で薬草採取できれば生活できるからね」
それは冒険者としてどうなんだ? と別の冒険者が言っていたがそれはまるっと無視する。ものすごい過剰に心配された為、答えた訳だがそれでもわからないことがある。
「それにしても1日に20本しか販売してないポーションなんかで死活問題?」
俺がいなくなった所でポーションが品切れを起こすような事はあり得ない。しかも1日20本で購入制限まであるものにそこまで頼るものだろうか? そう思っていたのだが、まわりの冒険者がため息を吐いた。なに? そのわかってないなぁって反応は?
「お前は作って売る側だからわからんのかもしれんなぁ……。お前のポーションは普通のより効果は高いし容器は小さいし割れない、そして何より長い間放置しても効果が変わらんだろ? だから予備に追加の一本とかお守りみたいに持ってる奴だっているんだぜ」
正直驚いた。一般的なポーションは10日くらい経つと効果が薄くなり始めて20日も経てば効果がなくなってしまう。もちろん、ハイポーションやエクストラポーションなどの高価なものはもっと長い期間効果を維持できる。
俺のポーションは錬金術で作ったものなので1日に30本が作れる限界だった。けどそうすると疲れてしまい他の事まで手が出せなくなるので
20本に抑えて売っていた。最初は小さいし数もないしでまったく売れなかったのだが、とある冒険者が携帯に便利そうだと買い、1か月後にまた来てまとめて買った。それを他の冒険者たちが目撃してから売れ出したのだ。売れ始めれば売れ始めたで問題が発生したけどもね。
そんなポーションがこんな扱いになっているのを知ったのは今だったのでなんだか猛烈に恥ずかしいやら嬉しいやらでどうしたらいいかわからなくなったので、
「あ、ありがとうございます! 気を付けます! それでは!」
と、話をぶった切って受付に走って行った。本当は外に飛び出したかったけど、そうすると今日はもうギルドに入る気にならないと思ったのだ。
「おぅ気をつけろよ~」
マティスさんは絶対にニヤニヤした顔でこっちを見てるに違いない。だから後ろは振り向かない。見るのは受付にいるお姉さん……エレナさんだけでいい。しかし、広いとはいえ人のいない時間だ。さっきまでの話はエレナさんもばっちり聞いていたようで、こっちを見ながらニコニコしていた。
あぁ……ものすごく恥ずかしい。