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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第1章、薬屋さんの息子は錬金術師
18/86

18 事後処理

 目を覚ますとそこは知らない部屋だった。


「ここどこだろ? いっつ」


 部屋の様子を見ようと体を動かすと、痛みが走った。 


「あぁ……そういえば蹴られたっけ」


 気功を使って回復を早める 早めるけど痛みが取れるわけじゃない。 だけど、痛いけど長く続くよりはいいよね。ってあれからどれくらい時間がたってるのかな? もしかして日をまたいだりしてないよね……? そんな事になったら母さんとかすっごい心配するし! 痛いけど我慢して外に出るべし。

 そんな訳で廊下にでると、ギルドの職員さんが走っていった。そして戻ってきた。 


「ユリト君! 目を覚ましたんですね。よかったですよ~。下に行ってエレナさんに顔を見せてあげてください。よろしくお願いします。本当によろしくお願いします。あのままでは周りの人が死んでしまいます。あ、階段はあっちですよ」


 そう言い残して走り去っていく。エレナさんが心配して落ち込んでるとかならまだわかるけど、周りが死んでしまいますってどういう事? まぁ、行けばわかるか。 

 トコトコと階段を降りると1階の様子が見れた。横になってた怪我人はみんないなくなっていたので、たぶんある程度治療が終わって帰ったり治癒院に入院になったりしたのだろうと思う。 

 ただ、人は多い。全く知らなかったとはいえ大きな討伐が終わったんだから当然かな? あ、エレナさん発見。うん、なるほど、後ろから見てもわかるくらい殺気立ってますね。


「あ、ユリト」


 階段を降りたところにいたら、冒険者の人がこっちに気が付いて俺の名前を呼んだ。それにすごい勢いで反応したのはやっぱりエレナさんだった。


「ユリト君!」


 勢いよく突っ込んできたので追加ダメージ確定でしょうか? とか思ったけど、思ったよりは冷静だったらしく、直前で一度止まりゆっくりと抱きしめてくれた。 

 突っ込んできても避けちゃいけないと思って構えてたので抱きしめられるのも無抵抗でしたよ。よっぽど心配してくれたんだろうなぁと思う。


「ポーション使い終わって、ユリト君の事探したら、血を吐いて倒れてるんですもの。ものすごく心配したんだから」


 エレナさんはもう泣きそうな声だ。


「えっと……ごめんなさい」


「君が悪いなんて思ってないから謝らなくていいのよ。悪いのはあのバカなんだから……ふ、ふふふ……」


「エ、エレナさん! エレナさん!?」


 エレナさんが暗黒方面に落ちかけてたよ! 怖いよ!


「あら、ごめんね。でも、大丈夫。あのバカはそれ相応の報いを受けたからね。まだ温いと思うけど。ええ、温い温すぎるわよね……」


「え? エ、エレナさんの私刑?」


「違うわよ。冒険者ギルドとしての処罰ね。理由は色々あるけど、ギルドとして罰を与えておかないと大変な事になりそうだったしね」


「ギルドのメンツ?」


 思わずそんなことをつぶやいてしまい、ヤバイと思ったけどもエレナさんは笑いながら、


「ふふ、君はやっぱり可愛いなぁ」


 とかいいながら抱きしめられた。なぜだろう? 


「エレナ君、仕事に戻ってもらってもいいかの? わしはユリト君と話をせねばならんのでの」


「う……いえ、でも、その……わかりました。ユリト君は無茶しちゃダメよ」


 ガリックスさんに戻るように言われエレナさんは、仕事に戻っていった。 雰囲気も落ち着いたみたいで周りの人も安心したらしい。戻るように言われた時はものすっごい嫌そうだったけどね。


「さて、ここから移動しようかの。ついておいで」


 俺はガリックスさんにくっついて2階の部屋に入った。


「さてまずは、治療も終わっていて問題ないと聞いておるが、何か問題はないかの?」


「痛みはまだありますけど、たぶん大丈夫だと思います。気功も使ってるので回復もたぶん早くすむかと思います でも、あれからどれくらいたってますか?」


「ふむふむ、何か問題が起こったら早く言うのじゃぞ 時間は外見て分かる通り、夕方になるまで気絶しておっただけじゃわい」


 日をまたいでたりはしないのか。良かった。


「では次に今回の事に関する感謝じゃな。君のおかげで多くの者が助かった。他の者たちも礼を言ってくると思うが冒険者ギルドを代表して礼を言わせてもらう。ありがとう、本当に助かった」


「多くの者って言っても、22本ポーション提供したくらいじゃ大して役に立ってないと思うのですけど……」


 22本提供して22人助けたってわけじゃないはずだ。ポーションは確かに効果が出るのは早いけど回復力がものすごい高いわけじゃないんだし。何もないよりはマシだったと思うけど礼を言われるほどの事じゃないと思う。


「その22本……ん? ユリト君からはバカが奪った2本もあったから24本提供になっておるが、まぁそれは置いておこうかの。その提供されたポーションだけでも十分じゃが、君が今までそのポーションを作っていてくれたおかげで、多くの者が助かったのじゃよ」


 作ってくれてたおかげで助かった? ん?


「まだ寝ぼけているのかの? 君の作ったポーションは長期間効果が落ちない事がわかっておる。だから参加した者の多くが君のポーションを持っていたのじゃよ。 まさか警備隊までもが備蓄しておるとは思わなんだがな。備蓄してあったおかげでこちらも助かったし、そもそも備蓄しておけるポーションなどユリト君がいなければないものじゃしな」 


「あぁ……なるほど……俺はただアイテム作ってただけですけど、色々な人を助けられてたんですね」


 今まで、助かったとか言われたこともあるけど、言ってくれた時はすでに元気になっているのでそれほど実感がわかなかった。けれど、今日みたいに実際傷ついてる人を見て、治してる所を直接見た訳じゃないけど、あの人達を治す手伝いができたんだと思うとようやく実感としてわいてきた。なんかちょっと泣きそうだ。


「そうじゃ。今までもきっと助かった者もおるじゃろう。じゃからこれからも作り続けてくれるとありがたいの」


「はい、わかりました」


 これからも少しでも人の役に立つならポーションを作っていこうと思う。そんなことを思っていたらガリックスさんがニヤリと笑って言った。


「でも、明日から大変じゃな。何せみーんな使ってしまったんじゃからな。警備隊も備蓄したいじゃろうし、冒険者も買いたい。しかも、応援で別の町から来た者たちもその利便性に気が付いて買いにいきそうじゃし。」


「え……ぁ……」


 頭が真っ白になる。ポーションが売れ始めた頃、生産数は増やせないのに購入希望者ばかりが増えて色々な事があったのだ。それがまた起きるの? また店に迷惑がかかるの?


「あ……まずいの。ユリト君! 安心するのじゃ! 大丈夫じゃ!! もうすでにマティスや動ける者に店の警備を頼んである 打ち合わせをするために職員を向かわせてあるし警備隊にも連絡してある。だから大丈夫じゃ。ギルドも警備隊も君の味方じゃ」


「ん……大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫じゃよー。おーよしよし大丈夫じゃよー」


 頭を撫でて大丈夫、大丈夫と繰りかえすガリックスさん。なんだか大丈夫って言葉を刷り込まれてる気がするけど、落ち着いてきた。


「取り乱しました……すみません……」


「気にしとりゃせんよ。わしも、ちと悪い事したなぁと思っておるしの。それで、今回の礼も含めてギルドが費用をもって警備依頼は出しておいたからの。実際に金銭渡されるよりもそっちの方がなにかとよいじゃろ?」


 お金には困ってないし、警備も必要だから今回の提案は本当に助かる。


「よろしくお願いします」


「うむうむ、では次じゃな。バカの処遇についてじゃな。当事者だし聞いておきたいじゃろ?」


「正直、魔力の使い過ぎでボーとしてて、顔すら覚えてないんでどうでもいいんですけど……」


 魔力に関してはたぶんポーションを作る時に無駄な魔力を注いでしまったんだと思う。それで魔力切れになりかかってた所であれが来たのでなんとなくしか覚えてないのだ。


「ん? そうかの。でも、聞いておいてもらわないと実は困ったことになりかねないから聞いておくれ」


 だったら、聞いておきたいじゃろとか聞かなくていいじゃんと思ったけれど、口には出さない。


「今は警備隊に引き渡されて留置所の中のはずじゃ。近いうちに元の町に戻されるじゃろ。ギルドの罰は、罰金とランクダウンの処置じゃな。ギルドのメンツとして処罰を与えなければならないというのはもちろんじゃ。じゃが、1番の理由はそこではない」


「エレナさんに言ったの聞いてたんですね……。でも、他の理由があるんですか?」


 ギルドの建物内で一方的な言いがかりをつけてきて、暴力沙汰を起こした。だからギルドが対処したでいいと思うんだけどな。


「1番の理由は保護じゃよ」


「え?」


 罰を与えたけど保護? よくわからない。


「君自身が言ったじゃろ? 報いを受けたと聞いて、私刑かと。君は元々、この町の冒険者には好かれておった。今回の事でも君のポーションのおかげで助かった者もいるじゃろう。そんな人物に対して暴力沙汰を起こす。さて、どう思う」


 まずは、どこからエレナさんとのやり取りを聞いていたのかが気になる。それは置いておくにしても、もしかしてみんなからタコ殴り地獄?


「なんとなく想像はついたようじゃな。だからギルドとして罰を与えたからそれを抑えてほしいという事じゃ。これで、罰を与えられたバカを保護し、バカの為にバカな行為に走ろうとした者たちも守ったわけじゃな」


「あー納得しました」


「ついでに、ユリト君もこの事はこれ以上人に言わないようにしておくれ。多少落ち着いたものが爆発しかねんからの。……特にエレナ君とかがの」


 つまり、私の為に争わないでって事だね。うん、違うよね。取り合ってる訳じゃないもんね。でも色々納得した。 


「それでは最後に聞きたいことがある」


「なんでしょうか?」


「バカが奪ったポーション2つ、あれは何じゃ?」


 何じゃ? って聞かれても知らないよ! 未検証だよ! 未確認だよ! そんなもの使おうとするなよ過去の俺! 何かまずい事が起きたのだろうか? 起きてたらマジデヤバイ。


「えっと……何があったんでしょうか? あれ、実は新作でたぶんポーションだと思うんですけどまだ試したことがないんです……」


「何があったと聞かれれば、ポーションだと思って使ったらハイポーション並と思われるくらい傷が癒えたから、ちょっとした騒ぎになっての。それにしても新作か」


「新作と言っても、作ったのは前日なので出来立てですし、一度アレックさんにちゃんと見せてからと思って空間収納に入れておいたんです。ぼーっとしてて使おうとしたら取られましたけど」


 ハイポーション並に回復した? 上薬草使わなきゃ作れないハイポーションを薬草とスライムの核で? あぁ……騒動がまた始まる予感がひしひしとする。


「ちなみにあれ、量産できるものなのかの?」


 量産はできる。スライムの核の回収を依頼で出せばいい。だけど魔力がどうなるかわからないし、数もわからない。どう答えたらいいんだろ……。


「……」


「その沈黙は、考え事してます。と言っておるようなものじゃぞ? どうやら作ろうと思えば作れるらしいの」


「ばれてる! ん~作れるけど、魔力が足りないかと……ポーション10本作るのよりも少ないくらいで新作2本しか作れませんし」


「それはさすがにまずいのぉ……もっと魔力が増えて安定した生産ができるようにならねば無理か」


「無理です。やめてください。死んでしまいます」


「ふむ、あれは試作の一品で、材料不足と魔力不足で作れないということにしておこうかの。その事を皆に知らせておくよ」


「よろしくお願いします。レシピ教えろとか言う人がまた出てきそうですけどね……」


 ポーションの時も効果を高めるにはどうしたらいいのか? とか、あの瓶の製法は? とか、そもそもレシピが違うんだろと疑われたり、俺も俺以外も本当に色々大変だったのだ。


「そうすると、レシピの公開くらいはした方がいいのかの? どう思う?」


「申し訳ないと思いますけど、この手の話はアレックさんに丸投げです。俺じゃどうしていいのかまったくわかりませんし」


 水晶の件もあるし、もう迷惑かけまくりだけど、こういうのはアレックさんに頼るしかない。 

 ガリックスさんも色々伝手はあると思うけど、俺にどう思うとか聞いてくるので頼りなく見えてしまう。 

 実際は頼りになるのは警備の事でわかってはいるんだけど、まだ12歳の俺に聞くよりも、まかせとけ。って言ってくれる人の方が安心できるのだ。


「かの御仁か……。君の為にこの町にいるような方だ。存分に頼るといいの」


 え? 俺の為に町にいるってどういうこと? とか予想外な事を言われてポカーンとする。すごいマヌケ面晒してる気がする。


「なんじゃ、知らなかったのか? あの方なら本来、中央のもっと上の立場に立ってもおかしくないほどの力を持っておられるのじゃよ。実際、中央におる知り合いからワシに説得を依頼してきたこともあったんじゃしな。まぁ、気になるなら聞いてみるといい。早いうちに立ち寄るように言っておられたしな」


「アレックさんってすごい人だったんだ……。ってさらりと、会いに来いって言ってるの混ぜないでよ! 聞き逃したらまずいじゃんよ」


「フォフォフォ、聞き逃したらちゃんとまた言うわい。話としてはこんなもんじゃな。エレナ君をつけるから今日はおかえり」


「エレナさんをつけるっていいんですか?」


 職員はエレナさんだけじゃないのは知っているけど、それでも抜けていいものなんだろうか?


「ユリト君1人で帰すと何があるかわからんからのぉ。下手に冒険者や警備隊の者をつけるよりよっぽどエレナ君をつけておく方が安全じゃわい。何せ人気受付嬢じゃからな」


「わかりました。ありがとうございます」


 正直1人で帰るのは怖かった。礼を言いたいといってもがたいのいい冒険者がどんどん近づいて来る光景が広がるかもしれない。怖い、怖すぎる!


 こうして俺は、エレナさん完全ガードの下で帰宅したのだった。エレナさんをガードするファンクラブがいるから2重の安全対策だったよ。

 帰宅してからも怒られたり抱き付かれたりしてたため、ぐったりしつつもポーションを作り、無理するなとまた怒られて今日は眠るのだった。 



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