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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第1章、薬屋さんの息子は錬金術師
17/86

17 理不尽は予想もできずにやってくる

 今日もゴブリン退治をしてきた。南西の森の件はまだ解決していなかった。街道の警備くらいなら手伝えるのになぁとは思ったけども、すでにエレナさんに却下されてる。 


 露店で買い食いしてのんびりギルドに向かっていったのだけど、ギルドの方がなんだか騒がしいかな? 気配察知はこんな所でも役に立つね。 

 なにかあっても手伝えるよなことはなさそうだなぁとは思いつつギルドへ急いで行ってみた。

 中に入ると、何かを待っていてソワソワした雰囲気が漂っていた。どうしたのかな? と思っていたら、冒険者が1人走り寄ってきた。


「ユリト! ポーションの在庫ないか!?」


「え? ちょ? な、なんですか?」


 がっしり掴まれて動けない。あ、ヤバイ、昔の事思い出してきて恐怖で震えそうです。


「いきなりなにするの! 落ち着きなさい!!」


 スパーン!! と冒険者の頭がはたかれる。いってー! っと手を離した隙にエレナさんの後ろに逃げる。落ち着いてる時ならまだしもこんな精神状態じゃカッコ悪くても逃げるよ!


「慌ててるのはわかるけど落ち着きなさい。むしろあんたが動くと状況が悪くなるから大人しく座ってる」


「いや、しかしだな……あぁいやわかった。わかりましたから睨まないでください」


 冒険者の方がエレナさんに睨まれて引いていく。エレナさんマジ最強です。 


「大丈夫ユリト君?」


 笑顔がステキです。エレナさんマジ女神さまです。多少自分がおかしくなっている自覚があります。エレナさんは素敵な女性ですよ。


「エレナさんのおかげで落ち着きました。ありがとうございます。でも、なにかあったんですか?」


「南西の森にゴブリン達の集落ができてるのが昨日わかってね。それを潰すために人を集めて戦ったんだけど、思った以上に怪我人が出てね。同行してた回復魔法使える人間は魔力切れ、ポーションなんかの回復薬も品切れになって、今怪我をした人たちをギルドに運んでいるのよ。治癒院の人も呼んであるけど、治癒院の人が来る前に怪我人が運び込まれそうなのよ」


「治癒院に直接連れて行けばいいんじゃないんですか?」


「治癒院から人はすでに出しててね。連れて来てもらっても対処できないんだよ。対処できる程の事ならすでに向こうで治療しているはずだからね」


「アレックさん?」


 エレナさんに質問したはずが後ろから答えが返ってきて、振り向けばアレックさんがいた。


「こんにちはユリト君、ここなら色々対処しやすいというのもある。私が来たのは教会、治癒院合わせて出せる最後の回復魔法の使い手が私だって事だね。この後に回復魔法が必要そうな事案が発生しないことを切実に祈るよ」


「わざわざ来ていただいてありがとうございます。よろしくお願いします」


 エレナさんがそういって頭を下げる。そうするとバタバタと近づいてくる気配がある。バーン!! と扉が勢いよく開き


「怪我人連れてきた! よろしく頼む!!」


「重傷者を私の所に! そこの君! 薬草はあるか!? あればユリト君に渡してくれ! ユリト君はポーション作るのをお願いできるか?」


 薬草を頼まれた職員さんは返事をして後ろに取りに行ったみたいだ。 


「は、はい! 手持ちの5本はどうします?」


「それは私がもらってもいい? 急いで使わないといけない人に使ってくるから」


「それなら君に頼む」


 エレナさんが受け取ると言ったけどどうすればいいのかわからず、アタフタしそうになるとアレックさんがエレナさんに頼んだのでポーションを渡した。


「ユリト君、ほかに必要なものはあるかい?」


「桶お願いします。後できればウォーター使える人に水を溜めてもらいたいです」


 アレックさんはがんがん指示を出す。ギルドの中は怪我人が横たわり忙しく動いている。だけど薬草が来ない。


「お待たせしました。ギルドにある薬草は今これだけになります」


 何束あるかわからないけども、とりあえず準備のできた魔力水の入った桶の横に離して置く。


「錬金開始」


 ポーションが10本出来上がった。それを薬草を持ってきた人に渡してエレナさんの所に持っていってもらう。でも今ので薬草の束が半分以下になった気がする。余剰分はそのまま残るのだ。


「錬金術ってのは初めてみたけどきれいなもんだな」


「きれいですけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないんでもう一度桶に水ためてください」


 その人は、おぉ。と返事をして水を用意し始めた。確かにきれいですけど、今はそんな場合じゃないだろとは思ったけども口には出さない。

 そんな暇があったら少しでも魔力を回復するのだ。大丈夫だとは思うけど魔力切れで倒れるわけにはいかないのだから。


「錬金開始」


 ポーションが7本出来上がった。薬草がこれしかなかったのだ。でもこれ以上薬草があったとしても魔力を十分回復させないと作れそうもない。


「これ、エレナさんにお願いします」


 出来上がったものを水を出してくれていた人に預けた。俺は隅の方で休む。さすがにきつい。そんな俺の所に1人バタバタと近づいてきた。


「おいお前! 何休んでやがるんだ! もっとポーションだしやがれ!!」


「材料も魔力もないのに無茶言わないで下さいよ」


 今の俺は魔力を急激に使ったために頭の働きが悪かった。本音がポロリとこぼれたがそれが気に入らなかったらしい。


「なんだとてめぇ! 死にそうになってるやつがいるってのになんもしねぇのかよ!!」


「じゃあ、あんたは何してるのさ」


 普段なら心で思っても口に出さないことをもれる。頭が働いてない もしかして、魔力が予想以上に減ってる? 


「ふざけんじゃねぇぞ! このクソ餓鬼!!」


 避けなきゃいけない、頭の中で警笛が鳴るが反応できるわけがない。これが危機察知なのかな? なんて思ってると思いっきり蹴られた。


「がっは……」


 大の大人が怒りに任せて子供を蹴った。まともに防御もなにもしてない状態でそんなものくらったらたまったもんじゃない。 

 働かない頭が思い出した。昨日作った未検証のポーションの事を。それを2つとも出して使おうとしたけど、


「まだ持ってるじゃねぇか! 寄こせ!! 出し惜しみしやがってふざけるな!!」


 ポーションは取られ、もう一発蹴りをくらい俺の意識は手放したのだった。





 その少し前


 私は連れてこられた人達の怪我の状態を見ていた。かなりひどい怪我の人もいる。 

 神官さんはすでに治療に入っている。その神官さんから私が受けた指示は、私が治療に行くまでに持ちそうにない人を選別してポーションを使ってほしいというものだった。 

 ユリト君から受け取ったポーションは5本。今日薬草を持って来た冒険者がいたか私は知らない。

 薬草を誰も持ってきていなければこの5本だけでそれをしなければいけない。 

 本来であれば受付嬢である私がこんな事を判断する必要はない。だけど、マスターは戦力として、ガリックスさんは回復役として現場に行ってしまっている。 

 先輩達もいる。その人たちにまかせてしまってもよかったのかもしれない。だけど、私は自分の意志でこのポーションを受け取ったのだ。私のせいで死んでしまう人が出るかもしれない。 

 だからなんだというのだろうか。今必要なのは迷う事じゃない。冷静な判断だ。後悔は後ですればいい。 


「おい! こいつにポーション使ってくれ! 死んじまう!」


 冒険者の1人にそう言われ怪我人の様子を見るがこれが死んでしまいそうな人なのだろうか? 私には痛がってるだけで応急処置で十分に見える。むしろこの中ではなぜ連れてきたのか理解に苦しむくらいの怪我だ。


「ポーションには限りがあります。ここにいる皆さんその人よりも重傷者ばかりです。静かにしていてください」


「なんだとこのアマ! ふざけんじゃ」


「ふざけてるのをお前の方だ! 嬢ちゃんは早くポーション使うやつ決めて使っちまってくれ。嬢ちゃんに近づくバカは俺が対処する」


 戻ってきてくれたマティスさんが、庇ってくれた。ありがとうございますと一言言って使うべき人にポーションを使おう。見極めは済んだ。 

 そして、きっと私は恨まれるだろう。5本では足りない。でも、救える命はある。使い終わった私にできるのは祈る事だけ……。


「エレナさん! 10本追加です! あと何本かまだ来ると思います」


「なら救うわよ! 1本だって無駄にするもんですか!」


 私にできることはあまりにも少ない。だけどユリト君が私を救ってくれる。ユリト君には一切その気はなかっただろう。だけど、彼と出会った時から私は確実に彼に救われている。 

 今だってこうして祈ること以外できないと思っていたところに救いがやってくる。まだ足りないとは思う。 

 だけど私の後悔は確実に小さくなるだろう。10本のポーションが使い終わる前に次の7本がやってきた。 

 これならなんとかなるかもしれない。後はあの神官さんの腕次第だ。すべてのポーションを使い終わってユリト君を探そうとしたら大きなどよめきが起こった。 

 何が起きたのかそれを見ていたっぽい職員の子に話かけた。


「どうしたの?」


「あ、エレナさん! あの人の使ったポーションであっという間にあそこの怪我人が治ったんです!」


 彼女が指さす方向にいたのはあの私に絡んできたバカだった。あっという間に怪我が治った? そんな回復量のポーションを持ってたならなぜ最初から使わないのか? そう思った時、嫌な予感がした。 

 私は慌ててユリト君を探す。ギルドの隅の方で横になってる……? 


「ユリト君!?」


 急いで私はユリト君の所へ行った。口から血を吐いてた。意味がわからない。なぜ口から血を吐くような状態になるのか。わからないわからないわからないわからない。


「ユ、ユリト君? しっかりしてユリト君! ユリト君! ユリト君!!」


 私のユリト君を呼び続ける声がギルドの中に響いたのだった。

始めて→初めて 

貯めて→溜めて 修正しました。

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