11 ゴブリンについての報告だけで済めばどれだけよかったか……
ギルドの前ではエレナさんが待っていた。なんとなく笑顔が怖い。
「マティスさん、ありがとうございます。 修練場の方にお願いします。 ユリト君は私についてきてください」
マティスさんは、おう! と返事をして修練場の方へと行き、俺はエレナさんに案内されてギルドの一室に案内され席についた。
「それじゃあ、ユリト君。私の質問に答えてくれるかしら?」
笑顔が怖い! 笑顔が怖いですよエレナさん!
「は、はい。なんでも聞いてください」
「それじゃあ、昨日ミュースさんと何があったか教えてくれる?」
「それは今関係ないですよね!?」
森の事とかゴブリンとかよりもそっちを聞きますか!?
「朝もそそくさと逃げちゃうから悪いのよ? それよりも本題に入りましょうか。ねぇユリト君、私が怒ってるのわかる? 何に怒ってるかわかるかしら?」
「え? 怒ってるのはわかりますけど、あれ? 本題って森の事とかじゃないんですか?」
エレナさんの笑顔がピクピクしてきた! やばい、選択を間違えた。ここから巻き返しを……。ドン!! 手遅れでした! エレナさんが机をもろに叩いております!
「あんなゴブリン持って帰って来て、何かあったくらいわかるわよ! どうして危ない事したの! 冒険者なんだから危険な事くらいとか言わないでよ! 君はそういうのを目指してるわけじゃないでしょ!! シーフゴブリンは上位種の割には直接戦闘には向かないけどそれでもただのゴブリンよりもずっと強いの! それに隠れるのがうまいから不意打ちで殺される事だってあるの! シーフゴブリンの事知ってたの? 知らないでしょ? 情報のない相手と戦うのは危険な事なの! わかる? わかってないからそういう事平気でするのよね!」
「ご、ごめんなさい」
勢いに押されて言い訳も頭によぎることなく謝罪の言葉が出てきたが、さらにエレナさんに火をつけたようだ。
「謝ったって何に? 何を謝ってるの? 私の言ってること本当にわかってるの? 自分がどれだけ無謀な事したかわかってるの? 私はね!」
「その辺にしておやり。ユリト君が泣いてしまうよ? うん、手遅れっぽいの」
実際、エレナさんの勢いに押されてもう何が何だかわからずに涙がこぼれ出してた。
エレナさんを止めたのは冒険者ギルドのサブマスターのガリックスさんだ。
おじさんというよりはおじいちゃん? って感じのガリックスさんはこのギルドを取り仕切っている。ギルドマスターは冒険者に言う事を聞かせるのが役目なので強さが求められる。もちろん、強くてギルドの運営もできる頭のいい人だっている。だけど、普通は両方をこなせない。だから、ここのギルドはギルドマスターは強さの象徴で、サブマスターのガリックスさんがそれ以外をすべて取り仕切っている。裏マスターとか真のマスターとか言われる人だ。
エレナさんは俺の様子に気が付いたみたいで
「え……ユリト君? 私別に泣かそうとしたわけじゃなくてね? あのね……」
「まぁまぁエレナ君も落ち着いて、ユリト君が落ち着くのを待とうじゃないか」
そんな風に言いながらガリックスさんは俺の頭を撫でてくれる。 少し撫でられるのに安堵しながらもまだ気持ちが追い付かずしばらくの間ヒックヒックと泣いてしまうのだった。
「えっと、あの……その……ごめんなさい」
泣き止んだとはいえ、頭は働かずに出てきた言葉はそれだった。
「私こそごめんなさいね。泣かせるようなつもりはなくて……。 ただそのあんなものみせられて驚いたから……」
「ユリト君の事を弟みたいに可愛がってるのはわかるが、怒鳴りつけるだけではただの八つ当たりみたいなものじゃからな。ユリト君はユリト君で無茶はしない。良いかな?」
「「はい」」
「うむ、ではユリト君に森での話を聞かせてもらおうかの」
しゅんとしてるエレナさんがちらちらこっちを見てるけど、ガリックスさんに話を聞かれたらこっちを優先するしかない。話すべきことがわかれば頭もまわってくるようになる。
「森の話と言われても困るんですけど、南西の森の近くにいたら10匹ゴブリンが居たんで、指揮官がいるかなって思ったんです。でも、その10匹に強そうなのは混じってなかったので、視線の奴がいるのかなって思って探したら、ゴブリン達の後ろにいたんです。逃げる準備だけしておけば戦っても逃げらるかなって思ったんです。それで攻撃したらそのまま倒せちゃったんです」
エレナさんがゴブリン10匹って所で、声が出かかったみたいだけど我慢してた。ガリックスさんは考えてるっぽい。
「ちなみにユリト君はどのようにして11匹のゴブリンを倒したのかな?」
「ゴブリン達は獲物を待つように森で動かなかったから、離れた所から探知にあった反応と視線が来てる方向にマジックアローの一斉掃射で倒しました。シーフゴブリンでしたっけ? あれは魔力を多く込めたマジックアローで倒したというよりも、落ちたダメージと出血で死んだっぽいですけど……」
「ユリト君……。その一斉掃射ってなにかな?」
「マジックアローを同時に展開してまとめて撃っただけですよ?」
エレナさんは驚いたみたいに聞いてきたけど、驚くことかな? ってガリックスさんもなんとなく驚いてる気がする。
「ふむ……。普通に考えてユリト君が言ってることは信じがたいのぉ。疑ってるわけではないのじゃがなぁ」
「えっと、それじゃあ…………。展開」
俺はライト5個とファイヤを同時に発動するイメージを作り発動させた。 なんか二人がものすごい驚いてるよ。
「ラ、ライトが5個同時に発動するなんて!」
「エレナ君よく見るのじゃ。指先に火が出ておる。つまりライト5個とファイヤの同時発動じゃ。しかも、展開という言葉だけで発動しよりおった」
「え? 魔法使いならできるんじゃないの?」
思わず普通に聞いてしまった。だってこんなの普通にできるよ? 数が増えればちょっと時間かかるけどね。
「いやいや、わしも魔力Cで属性魔法も使えるが、魔法は1つ1つ名前を呼んで発動するもんじゃて。まったく、属性魔法がないのが本当に悔やまれるのぉ」
「ガリックスさん? それは今関係ないですよね?」
エレナさんの声のトーンが低い。ちょっと怖いね……。
「そんな声を出すとユリト君に怖がられて近くに来てくれなくなるぞい。まぁ、確かに今は関係ないの。だがユリト君それをあまり人前でやってはいけないよ。見られれば魔法使いたちが押し寄せて教えるように言ってくるだろう。でも、君はそれを教えることはできないだろ? 羨ましい気持ちは色々と面倒事を起こすからの」
できないことが羨ましい気持ちはよくわかる。剣術なんて特にそうだ。 俺はできないことは諦めて出来ることをやるようにしてきたけど、みんながみんなそうできるわけじゃないもんね。
「わかりました。気を付けますね」
よくよく考えてみればさらにソロ冒険者でいなきゃいけない理由が増えた。いや、近くに冒険者がいるのもダメなんだからもっとひどくなった……。孤立冒険者? 解体がある時点でもうなってるか。
「わかればよいよ。まとめると、離れた所からまとめて倒した。それ以上は踏み込んでないから森の様子はわからない。ということでいいかな?」
「はい」
「ふむふむ、わかった。聞き取りはここまでにしようかの。それとユリト君、明日から南西の森に近づくのは禁止じゃからな」
「え? なんでですか?」
「シーフゴブリンは上位種ではあるが、単体では発生しない個体なのじゃよ。つまり最低でも群れのリーダーになる上位種が1匹はいるはずじゃ。 そんな危険な所にFランクを行かせるわけにはいかないじゃろ?」
「そうですね」
今回は運良く、簡単に倒せただけだった。もっとひどい状態になるかもしれないのだ近づくのは危険すぎる。
「ではエレナ君、わしは南西の森に関することの依頼やら禁止令やら色々やらねばならんから、後はまかせるぞい。あぁそれとユリト君、情報提供ありがとう。後日、情報提供やシーフゴブリンの魔石なんかの代金を払うのでそっちの支払いは少し待ってておくれ」
そういってガリックスさんは出て行った。きっとこれから忙しくなるんだろうなぁ……。早くこの騒ぎが……いや、これから起きる騒ぎが終わってくれるといいな。あれ、街道の襲撃があるんだからこの騒ぎでいいのかな?
「ユリト君、本当にさっきはごめんね。君がゴブリンの死体を持って来て、それが情報提供とか言われたから危ないことに首を突っ込んだと思ってびっくりしたんだから……」
「ごめんなさい。 気を付けます」
もうなんか謝ること以外できないよね。
「うん、気を付けてね。それじゃ下に戻って完了手続きしましょうか。薬草はとってきたんでしょ?」
そういって笑いかけてくれる。ようやく怖くない笑顔に出会えました。
「薬草はちゃんととってきました。後、ゴブリンの方もどうにかなります?」
「ゴブリンは常設だから事後報告でも大丈夫よ。受付で薬草と一緒に魔石も出してね。まとめて処理しちゃうから」
そう言ったエレナさんと一緒に部屋を出た。
明日はいつもの予定があるからいいけど、明後日からはどうしようかな?
ラ・ライト→ラ、ライト に修正しました。




