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桃の色香 続章  作者:
第一章 海賊編
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七、桃太郎、浦島の実力を測る。

 2015年2月22日:誤字修正・加筆



 所属不明の船は姿を見せてからしばらく、海上に留まったままこれといって動きを見せなかった。まるで遠くから港の様子を窺うように。

 さすがに波止場の人々が怪しみ始めた。誰かが役人に声を掛ける。そのとき船から十ほどの小舟が下ろされた。それはゆっくりと港へ近づいてくる。

 何も、浦島は呑気に海賊を放置しているわけではない。海賊騒動は領地を揺るがす大問題である。故に、港には兵をいくつか置いてある。彼らは対海賊のために駐屯されている兵士だ。いつ何時、海賊が港へ侵入しようものなら、撃退するのだ。

 それがこのときだった。

 突如、矢が風を切って飛んできた。それは桟橋にいた漁師に直撃。それを皮切りに港はたちまち恐怖に包まれた。

「海賊だッ」

 誰かが叫んだ。

 小舟から桟橋に跳び移るのは浅黒い肌をした屈強な男たち。彼らは一様に、腕に青い布を巻いていた。同士討ちしないためだろう。

 海賊たちは逃げ遅れた人々の背中に凶刃を閃かせる。町民を避難させるために駆けつけた兵たちが応戦した。

 罵声と流血の景色。

 桃太郎たちはこのときに辿り着いた。

「海賊どもめ……」

 達海が怒りに拳を震わせ、腰の刀を抜き放った。彼は亀蔵に命じる。

「共に来い」

「承知致しました」

「――桃太郎様」

 そして桃太郎を振り返る。その瞳は真剣でそして冷徹だった。

「ここは我らにお任せを。浦島の敵は浦島が倒します」

「わかった」

 桃太郎は一言だけ口にする。それに見届け、達海は地を蹴った。

それがしは浦島清海が嫡男、浦島達海である! 某の目が黒いうちは、何人なんぴとたりともこの地は侵させん!」

「おおっ、達海様だ!」

「若様の前で無様な戦は許されないぞッ」

 一気に兵の士気が上がる。桃太郎は少し感心した。

 達海は海賊の一太刀をけ、海賊を斬り伏せた。

「行かなくていいのか?」

 すると千哉が訊いた。

「いいんだよ、これからのためにも浦島の力を見ないとな」

「なるほど」

 千哉は頷いた。

 浦島の港兵は約二十。そして海賊はその倍ほどいる。しかし浦島兵は常に前を向いていた。後退という選択は彼らにはない。彼らの鬼の形相はこの港の番人のようだ。

 それに浦島家嫡男の達海が加わったのだ。兵たちの勢いを止めることはできないだろう。海賊たちは徐々に押され始めた。

「一人たりとも逃がすな!」

 達海が怒鳴った。そして彼は戦場を駆け抜ける。力強く足を踏み出し、刀を振りかぶる。その豪快な太刀筋に海賊は圧倒され、あっさりと討たれた。

「……統率力はともかく、勢いはあるな」

 千哉は勝手に分析した。すると桃太郎が笑う。

「千哉は辛口だなぁ」

「そんなつもりはないが……、まあいい。ならば俺はお前を護衛すればいいのか?」

「ん? まぁそうかな」

「はっきりせんか……馬鹿者」

 千哉は桃太郎に向けて拳を振るった。びっくりする彼の横面を拳はすり抜け、背後に迫っていた海賊の顔にめりこんだ。海賊は呻き声を上げて地面に倒れ込んだ。桃太郎はますます目を丸くし、感嘆する。

「すげぇな。千哉は」

「警戒心が薄いぞ、馬鹿者」

「ばかばか言うなよな」

 不貞腐れように頬を膨らませる桃太郎。しかしすぐに微笑む。

「そんじゃあ、千哉に護衛をしてもらおうかな」

「……」

 その笑顔に千哉は答えることができなかった。不意に脳裏に浮かぶ忠治の顔のおかげで。千哉は小さく毒づいた。

「……忌々しいな」

「何か言ったか?」

「……その笑顔は犬養に向けてやれ」

「はっ?」

 目を点にする桃太郎。千哉はそれ以上何も言わなかった。

「ひ、引けッ!」

 到頭、海賊たちは小舟へと退避していく。それを見逃す浦島ではない。兵たちはさらに攻撃を加えた。容赦ない追撃に海賊たちは気色ばむ。千哉は戦場を見て、不快だった。

「雑な戦い方だ」

「だから辛口だっての、千哉」

「お前も大概だが」

「貴重なご意見ありがとうございますぅー」

 皮肉たっぷりに言う桃太郎に声が掛かった。

「若!」

「忠治」

 見やると忠治がこちらへ駆けつけてくる。しかしそこには五右衛門はいなかった。

「サルはどうした?」

「申し訳ございません、見つからず。……あの馬鹿、どこへ行ったんだ」

 忠治は眉をひそめて、港の凄惨な光景を目に映した。彼の表情が暗く、厳しくなる。臨戦態勢の彼は桃太郎に尋ねる。

「若、加勢はなさらないのですか?」

「ん、まあな。千哉には言ったけど浦島の力を見たい。それにもう終わるころだしな」

「そうですか……」

 頷いたとき、忠治の目が動いたのを千哉は見逃さなかった。その視線はどうやらこちらへ向かっていた。千哉は思わずため息をいた。

「桃太郎様っ」

 次に彼を呼んだのは達海だった。彼は誇らしげに拳を振り上げた。

「我々の勝利です!」

 あっという間に騒動は鎮圧された。海賊は斬殺され、死亡。生きている者を捕縛し、これから尋問をかける。そちらのほうは浦島に任せていいだろう。

「ま、上出来だろ」

 桃太郎が満足げに言った。忠治が口添えする。

「向こうから出て来てくれたのは大きいです。この海賊騒動、早めに治められるでしょう」

「そうだな」

「罠、という可能性はないのか?」

「む……」

 思わず千哉は口を挟んだ。それに忠治が反応をし、案の定桃太郎が頷く。

「ああ、そうだな。達海たちに忠告はしとかないとな」

 などとこちらの意見を飲んだ。

「……」

 千哉は眉根を寄せた。

 あまり良い気分ではない。冷静を保っているが、忠治は表情を引きつらせていた。それがなんとも言えない。

「どうした? 千哉」

「いやなんでもない」

「変な千哉。いいや、だったら早く戻ろうぜ」

「そうだな」

 疲れた声で呟くこちらに、桃太郎は首を傾げていた。


 そして、一同が城へ戻ったとき伝えられたものは衝撃的だった。




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