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Data09 城へ

 紆余曲折あって朝が来た。

 お日様が憎いくらいに瞼を焼いて、目覚めた場所は薄暗い自分の部屋ではなく、昨日の一連の出来事が夢では無かったと思い知らされる。


「ん……ティアラ、おは……っ!?」


「黙れ。余計なことを言えば深い眠りに逆戻りだぞ」


 気が付けばひんやりとした指先が俺の喉元にぴたりと張り付いている。

 両目をちゃんと開くと声の主、白髪の子供と目があった。

 昨晩は暗くてよく見えなかったが、ネルの目は真っ赤に染まっていて、それは美しいルビーの宝石を彷彿とさせると同時に兎のように愛らしくもあったと口に出して本人に言ったら今は危険なので忠告に従っておくことにする。


「今度は何だ」


「いくつか質問する。なぜ私を助けた?」


「は?」


「質問を変える。なぜ私を殺さなかった?」


 何故かと訊かれても、特に理由が無いからだと言う他無い。

 どうしてティアラの知り合いを俺が手にかける必要があろうか。


「敢えて言うなら、ティアラのためだよ」


 その時、


「ならば消えろ。貴様が本当に姫様を想うなら、これ以上彼女を惑わすな」


 寝起きの頭ってことを差し引いてもネルが何を言っているか到底理解出来ない。

 別にティアラを騙したりはしていない……はずだ。ここで少し間が生まれてしまう自分が情けない。


「マコト……貴様は人間だろう?」


 初めてネルに名前を呼ばれた。

 当たり前の質問すぎて頷く他無い。


「だったら何だ。ティアラやお前は違うのか?」


「違う。私は、私達は魔族だ」


 やっぱりこいつは重度の中二病だったと確信させられる発言だ。


「じゃあティアラは魔王か?」


 種族が違うから一緒にいるべきじゃないってのか?馬鹿馬鹿しい。

 多少ファンタジーチックな事が出来るからって、見てくれはネルもティアラもどこからどう見ても人間じゃないか。

 しかし、冗談のつもりで言った俺の一言はネルの表情を張り詰めたものに変えただけだった。


「知っていたのか」


「ま、まぁ。本人が声高らかに言ってたからな」


「そう。ティアラ様こそが私の主人にして唯一無二の魔の長たる御方。だから貴様が当然の様に姫様の隣にいるのが腹立たしいのだっ!」


 何ですか要するにやきもちで俺は襲われたんですか。殺されかけたんですか。どこぞの金髪女よりよほど人間らしい動機だと思いますが。


「ネルさぁ、そんなにティアラが好きならもっとあいつのこと考えろよ」


 しまった。地雷だったか。ネルの殺気が最高潮になって俺の全身を刺すように貫いた。


「私が姫様を無下にしていると言うのか?」


 多分、これは即死フラグ。どの選択肢を選んでも即ゲームオーバーの無理ゲーだ。


「じゃ、じゃあなんでこいつを独りぼっちにしたんだよ!」


 だが、これだけは言わないと逃げになる。

 どうせ散るなら惨めでグロテスクに足掻いてやる。


「そ、それは彼女が自ら城を離れて……」


 お、効いてる!?動揺してる!追い打ちヒャッホー!


「おいおいネル君。そうせざるを得ない環境に追い詰めたのは誰だ?ティアラが独りぼっちの方がマシだって思えるくらいに悩んでたのにお前は何かしてやったのか?」


 ほぼ憶測で物を言ってるが割と的を射てると思う。その証拠に、


「違う……姫様は……」


 ネルの目はこれでもかと一センチの瞼を泳ぎまくっている。

 トドメだ。


「ティアラのせいにしてるようじゃこいつを慕う資格は無いな。消えるのはお前の方だぜ、ネル」


「そんな……私は……」


「別にネル、お前のせいではないぞっ」


 ぽんぽんと、項垂れたネルの頭部に手を置くティアラ。どうでもいいけどいつの間に起きたんだ。


「姫様……」


「言い過ぎだマコト。ネルはこう見えてデリケートなのだから少しは気を遣え」


 散々人を罵倒しといてそりゃ無いだろう。どんだけ煽られ耐性低いんだよ。


「フフフ、悪かった」


「勝ち誇りながら謝るな本当に腹立つな貴様!」


 半泣きで怒鳴るネル。

 一方のティアラはやれやれといった様子でため息をついてから口を開いた。


「まぁ確かに城を出たのは余の意志だ。だが、ああでもしなければお前達は余を次の王に立てて“奴ら”に戦争を仕掛ける気だっただろう」


「ご存知でしたか。その通りです姫様」


「馬鹿者っ!」


 ポカンと、ネルの頭を叩くティアラ。多分、世界一威力の無い拳骨だ。


「ひ、姫様?」


 何故叩かれたか分からないといった様子のネルに、ティアラの怒号が飛ぶ。


「そんなことをすればお前達も無事では済まないだろう。死んでしまっては余にもどうしようもないのだぞっ!」


 ティアラが魔王だっていう二人の言葉を鵜呑みにするなら、世界一優しい魔王はダントツ彼女で決まりだろう。


「……申し訳ありません」


 ネルもその想いやりに溢れた言葉に触れて、ようやく理解したようだ。自分がいかに迂闊だったかを。


「とはいえ、余も逃げてばかりもいられぬ。ネルの言う通り、現実とやらに向かってやらんとな。さて、マコト」


「嫌だ」


「城に行くぞ。あと、会話で一歩先を行くな」


 何だか急におかしな流れになってないか。ティアラに関しては言ってることが百八十度ターンしている気がする。


「別に争い事をする気はない。話し合いで事を収めてみせる」


 何言ってんのこいつ。

 ネルをベースで考えたら、俺なんかが魔族の城に踏み入った途端に四肢が無惨に霧散するだろうが。


「マコト、これは余らの目的にも必要な事だ。城の勢力を手に入れておけば多少の発言力は生まれる。今のままではいずれにせよ世界征服はジリ貧だ」


 そこそこ真っ当で建設的な意見ではあるがティアラが口にすると何故か不安になる。


「一応訊いておくけど、どうやって説得すんの?」


「そこはまぁ、上手くやる」


 会って一日の見ず知らずの人間と手を組んで世界征服するから全員従えってか。うん、遺書って一応書いといた方がいいんだろうか。


「マコトが来るのは予定になかったが、姫様がそう仰るなら特別に案内してやる。ついて来いクズもやし」


 先を歩いて行くネルの背中を見送りながら、相変わらずの生意気な口ぶりに少し安心した。自分でもさっきは言い過ぎたと思ったから。


「大丈夫だ。マコトの事は余が死なせん」


 本当、頼もしいわー。(棒)


「まぁいいぜ。何かあったら勝手にやらせてもらうから」


「あぁ、構わん。それとだなマコト」


「お?」


 俺の耳元に近付くように背伸びするティアラ。


「さっきはありがとう。その、嬉しかったぞっ」


 ほぼ棒読みだが、それが照れなんだと見破るのは容易かった。

 俺に妹はいないが、こんな兄妹も悪くないなーなんて思ったり。

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