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Data07 魔王の側近

「ほれ。味は保障できねーけど」


 ちょこんと椅子に腰掛けるティアラの目の前に、有り合わせのもので作った親子丼を置いてやる。卵も肉も何だかよく分からない魔物の一部を適当にあしらってみたが本当に食えるのだろうか。

 元の世界で一日中家の中にずっといたわけだから否が応でも家事スキルは身に付いてしまった。一応、料理の腕には自信がある。まぁそれもまともな食材を使っての話だが。


「おぉ、なかなか良い香りだぞ」


 そんなことはお構い無しと小さな鼻をくんくんさせて早速かぶりつこうとする魔王幼女。


「おっと、待て」


 そこですかさず皿を取り上げる俺。


「何をするマコト。余は腹が減っているのに」


「食いたきゃ正直に言え。どこ行って何してたのかを」


 俺がそう言うとティアラは分かりやすく頬を膨らませてこっちを睨み、それを数秒続けるとそっぽ向いて黙ってしまった。

 グゥグゥ鳴り続ける彼女のお腹は「ご飯食べたいよー!」と主張し続けるが、当の本人が何も話さなければ俺は飯を与えるつもりは無い。


「ふんっ、いらん。このくらい自分で作れる」


 それが出来ないことは台所の様子を見れば一発で分かった。

 ここの家のキッチンだけはやけに綺麗なのだ。まるで食器を使った気配が無い。料理をすれば何かしらの生ゴミや器具が流しに散乱していてもおかしくないのに。つまり、


「お前、料理したことないだろ」


 顔は向こうを向いてるがティアラは耳まで赤くなって小刻みに震えている。どこまでも分かりやすいやつである。


「お嫁に行けないぞ」


 一向に口を割らないティアラ。そのくせさっきから胃袋だけは口うるさく声を上げている。


「……」


 グゥグゥ。


「……」


 グゥー……。


「……」


 グ、


「分かった分かった!もういいから食え!」


 俺はとうとう堪えきれずに皿をティアラの目の前に置いてしまった。俺のような豆腐並みのメンタルではひもじい思いをしている女の子をじっと見ていることに耐えられない。つーかそれで喜んでたら新手の変態だと思う。

 ティアラは目の前に置かれた親子丼を輝いた目で見ているが、まだどこかで尊厳でも保ちたいのだろうか、今度はすぐに食いつくことはしない。


「言っておくが、残すと勿体無いから仕方なくだぞっ」


「もうそういうのいいから、食えよ」


 さっき自分で腹減ってるって言ってたくせに。

 小さな口を開けてスプーンで一口食べたところでティアラは動きを止めた。


「どうした?不味かろうと俺に非はないぞ」


 文句があるなら素材の味に言ってくれ。


「いや美味い。こんなに美味い料理は初めてだ」


 それだけ言うと今度は栓が外れたようにがつがつと食べ始めた。


「そんなに慌てなくても、誰も取ったりしねぇよ」


「なぜだ……」


 いきなり立ち上がるティアラ。


「は?何が?」


「マコト、少し待っていろ」


 何か言ったと思えばティアラは急にスプーンを置いて家の外へ走っていった。


「ティアラ!?」


 いきなりどうしたって言うんだ。

 後を追うが俺の体力では幼女に追いつけないかもしれないという情けない考えが浮かんできたので即座に行動で否定することにした。

 幸い、家からそう離れていない草の茂みが開けたところで黒髪の小さな後ろ姿を見つけることができた。


「おいティアラ、一体何が……」


「どうしてついて来た!?待ってろと言うのが聞こえなかったのか?」


 息も絶え絶え訊くと、すごい剣幕で怒られた。

 いやいやあんな風に飛び出ていったら普通追うだろ。ただごとじゃない顔つきだったし。


「姫様。それで、決心はされましたか?」


「だから余は言っただろうネル。そのうちこちらから話しに行くと」


 暗くて気付かなかったがよく見ればティアラの目の前に誰か立っている。シルエットを見る限り背丈はティアラとそう変わらない。


「そう仰っていつまで待たせるおつもりですか。もう私たちには時間が無いのです。現実から目を背けるのはやめにしましょう」


「ティアラ、誰だよあいつ」


「奴はネル・リンティ。私の知り合いだ」


 ティアラは困ったような顔でボソッと答えた。


「おい貴様、私をあいつ呼ばわりするだけでは飽きたらず姫様をあろうことか呼び捨てにするなど、どこの生ゴミか知らんが万死に値クソ粉微塵虫」


「ま、マコトは関係ないだろう」


 暗闇に目が慣れてきたところでようやくネルとやらの尊顔を拝見出来た。

 声のトーンから大体予想はしていたがいかにもな厨二臭い黒のマントに身を包んだ白髪の子供だった。


「あいつ、ちょっと足りないのか?」


「下手なことを言うな。ああ見えて魔力高度はAだぞっ。余では到底敵いっこない」


 何の話をしているのかは分からないが逆らわない方がいいらしい。ならばここは大人しく引き下がろう。


「という訳で帰るぞティアラ。飯の途中だ」


 冷めちまったら美味しくないし。


「おいおいおい家畜のエサ以下の脱糞男。状況がいまいち分かっていないようだな。姫様は私と来ることをお望みだ」


 どうでもいいけど悪口が酷過ぎないか?そこまで嫌われることをした覚えはないのだが。


「そうなの?」


 訊くと、ティアラは顔を背けて俯く。

 え、何そのマジっぽい反応は。


「姫様から一言下されば私達は今すぐにでも敵を討ちましょう。さぁティアラ様、どうか」


 何だよ、いるじゃん仲間。

 頭はアレだが見たところ本気で慕われてるっぽいし、一人ぼっちじゃなくて良かったな。

 そう言おうとした瞬間の事だった。ティアラが俺の手を握ったのは。


「マコト、逃げるぞっ!」


「ちょ、おま」


 なんで逃げんだよと聞く前に、背後から声が聞こえてきた。


「やはり姫様は操られていたか。許せん鼻くそに集るクソムシがっ!」


 その理屈だとティアラは鼻くそか。大した忠誠心である。

 走り出す俺達をネルはさも当然のように追いかけてきたのはいいとして。

 俺が頬を触る風に違和感を感じて気付いた時にはもうね、遅過ぎた。

 ネルの指先から出る一条の光線が俺のすぐ横をブチ抜いていく。幼い頃の記憶が一瞬でフラッシュバックした。


「ちょこまかと動くな失禁ハエ人間!」


「ティアラ!良い事考えた降伏しよう!」


「馬鹿者!どの道捕まったらお前は生きて帰れんぞっ!」


「ですよねー!」


 だが、とティアラは言う。


「心配するな。死んでなければ治してやる」


 何こいつ頼もし過ぎて逆に殴りたい。

 誰に聞いていいのか分からんのだけども、一つだけ聞きたいことがある。

 どうしてこうなった。

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