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Data06 孤独の牙城

 先に帰ったんだろう。

 そう思って家に戻ってもそこにあるのは相変わらず倒壊寸前の魔王城のみだった。

 リビング、風呂場、トイレ、二階のベッドの中。どこを探したってティアラの影も形も見当たらない。

 身体の疲労を感じソファーに腰掛けてひと息つくと、耳にうるさいくらいの静寂がやってきた。同時にソファーの背もたれが瓦解した。まぁこれは概ね予想通り。

 広さ自体はそうでもないはずなのに、見渡す四方の壁がやけに遠く感じる。

 近くに他の家も無いので、まるで自分が世界でたった一人ぼっちになってしまったような錯覚すら覚える。


「こんなところで」


 俺は根っからの自分さえ良ければいいという人間なので、これまで他人と関わることは極力避けてきた。面倒事や厄介事を持って来られても困るし。

 俺には一人の時間を埋めてくれる逃げ道(ゲーム)があったから、それで良かったしそれが心地良かった。

 だが俺よりずっと小さな、年端のいかぬ女の子にそんな逃げ道はあっただろうか。

 こんなところで、ずっと一人ぼっちで。

 ふと、最初に声をかけてきた時のティアラの顔を思い出す。不安と照れと期待を混ぜ込んだような変な顔。

 いやいや、つーか、よく考えたらそれも今朝のこと。そもそも出会ってそれほど経ってないし、付き合いなんて無いに等しい。怪我を治してくれたことには恩を感じちゃいるが、向こうから見限ったんなら話は別だ。もうこっちから出来ることはない。

 世界征服なんて馬鹿げたこと考えてないでここを拠点にひっそり隠居しながら元の世界に帰る方法を探すのが安牌か。

 頭の整理がついた俺はとりあえず息を吸って、


「ティアラどこ行ったぁあああーーっ!!」


 大声を上げたせいでむせて咳き込んだ。呼びかけは虚しく暮れかけの空に響きなんの返事も寄越さない。


「あんのクソガキ」


 誘っておいて途中で投げるなんて許さねぇぞ。

 俺はやると言ったら常人がドン引くほどにとことんやり込む側の人間だ。世界征服だって例外じゃない。

 スッと目を閉じる。

 今まで無数のゲームを攻略してきたがアイテムを見つけたり人を探したりなんて場面はいくらでもあった。

 そういう場面で詰まった時、大抵は見落としが原因だった。

 何か見落としていないか。どうしてティアラは消えたのか。


「消えた?」


 待て待て。よく考えればあんな一瞬でそう遠くに行けるはずがない。本当にティアラは消えたようだったじゃないか。

 普通じゃあり得ないがここの普通は俺が元いた世界とは全然違う。何が起きたって不思議はない。

 得体の知れない力で次元の彼方に連れ去られたとか?だとしたら厄介だ。一般人の俺はこの時点でお手上げなのだから。

 こんな考え方はどうだろうか。彼女の存在自体が最初から実在しなかった。あれは全て異世界に来たばかりの不安定な俺が生み出した突飛な妄想だと。

 いやそれは無いか。妄想で怪我は治らないし、そもそもティアラは実際に他人に干渉していた。

 大体どうせ妄想ならもっとこう、発育の良い……。何故かその瞬間頭の中で金髪(自称)勇者の方のマコトが微笑んだ。

 いやはやこれは重度のものですぞ……。三次元はクソだと数回唱えて頭から幻想を消し去る。

 脱線しかけたが考え方は前者の方が違和感ないだろう。彼女には俺にしてくれたように怪我を治す力があるし、それを知っている者がいるならティアラを欲しがるのではないだろうか。加えて幼女だし。

 ダメだダメだこれじゃ。どこまで行っても推論の堂々巡りが終わらない。

 もう辺りがすっかり暗くなってしまった。探しに行くにしても闇雲に動いてはミイラ取りが何とかと言うやつだ。

 考え事に夢中でガチャガチャとドアノブが破壊される音に気付かなかった。まさか金髪がついにここまで俺を狙ってやって来たのかと即座に身構えたが、


「む、先に帰っていたのかマコト」


 なんの事はない。ただのティアラだった。


「お前、どこ行ってたんだ」


「ただの買い物だ。それがどうした」


 ただ事ではない俺の顔を見てティアラは少し面食らったように言った。


「何だよもう、心配したんだぞ」


 ホッとひと息吐いてティアラの頭をポンポンと叩く。


「全く。マコトは心配症だな」


 ティアラも呆れたように首を振った。

 本当に、そのとおりかもしれない。俺の気にし過ぎならそれで良い。


「で、本当は誰に何を言われたんだ」


 俺はティアラのことをまだ良く知らないが普段通りの彼女なら何となく頭を撫でても「無礼者がっ!」とか言いそうなものだ。それに、外は対して寒くもないのに、この女の子はどうして肩が震えているんだろうか。


「え……いや」


 普段はあまり表情の変化は無い方だが、この時のティアラは露骨に動揺していた。目がバタフライで泳いでたしどうやら俺の問いかけは当てずっぽうだったが的を射ていたらしい。


「パパに正直に言いなさい」


 そんな言葉が出てきてしまったのはシチュエーション的にごく自然なことではないだろうか。この気持ちは幼女相手に尋問すれば分かるだろう。

 自分より小さな女の子に対する慈愛に満ちた俺の眼差しを見てティアラは一言。


「なんか気持ちわるっ」


 ほ、本音だ。

 魔王級ボディブローは俺の心をへし折るのに有り余りすぎて、ガラスの廃人ハートは木っ端微塵に砕け散った。

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