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Data04 理不尽な世界

「ようこそ。ここが魔王城だぞっ!」


「すげー」


 何言ってんのこの子。どこからどう見てもクソボロ民家じゃねぇか。

 山道を下って、少し行ったところに城を構えているなんて言うからどんな物かと思えば。

 扉や窓は建付けが甘いから自由に取り外し可能で、壁なんかは最近流行りの薄型だから所々風通しが良くて、屋根に至ってはぽっかりぶち抜かれた天窓から夜は満天の星空が見えてきゃー素敵。

 一歩外へ出ればドアのノブがもげた事などすぐに忘れられる。そこには見渡す限りの雑草がたくましくお日様に向かっていて微笑ましいっつうかもう笑うしかない。


「誰か住んでんの?」


「余だっ!」


 ポカポカと胸の辺りを叩いてくる幼女ちゃんに俺は思い切り冷めた目を向けていたと思う。誰も面倒を見てくれる人がいないからって、これは酷すぎる。

 つーか、今更ながら本当にこの子はひとりなんだと、その有り様を見て確信してしまった。


「俺って生粋のインドア派なんだけどなぁ」


 伸びをして指をポキポキと鳴らす。


「まずは道具を借りるか。リフォームだ」


 幼女ちゃんはポカンとして丸い目でこっちを見ている。何を言ってるのか分からないよーって様子だ。


「りほー?」


「改築するってことだ。天井の穴だけでも何とかしないと幼女たん」


 丁寧に説明してやったのにかえって機嫌を損ねたようで、


「そのくらい知っているっ!それに余の名はティアラだ。間違えるな」


「おう悪かった幼女たん」


「ぬわぁーっ!」


 何故か彼女の怒りの沸点を超えたようで、ポカポカと今度は腰の辺りを狙ってくるが何のダメージにもならない。


「ティアラ、何かねーの?町までひとっ飛びの魔法。魔王なんだろ」


 ポカポカが止まった代わりに今度は両手の人差し指を合わせてモジモジしだした。


「余は無駄な魔力を使うわけにはいかぬ」


「出来ないんなら普通にそう言えよ」


 ほっぺを膨らませて黙りこむティアラ。

 おっといけない。今後、信頼関係を育む上で勘違いがあってはいけないと思った俺は、


「あー違うぞ。俺が言ってんのは、そんなことも出来ないのかこの無能がってことだ」


「最低だな貴様っ!?」


 青ざめた顔をしているがそりゃそうだろ。魔王を名乗るのにそれくらい出来なくてどうする。


「まぁいいや。俺が行ってくるからここで待ってろ」


「待て。余も行く」


 びろんびろーんと袖を引っ張るティアラ。


「え?えぇ……」


 そりゃ渋るよ。だってただでさえ衛兵に目を付けられているってのにその上幼女まで連れてたら今でも肩身の狭い弁護の余地がとうとう居場所を失うだろう。


「行くったら行くっ!」


 駄々こねやがってやっぱり見た目通りの子供だなと、俺は降参するかのように両手を上げた。


「分かった分かったオーケイついて来い」


 一緒に行くとは行ってない。


☆ ☆ ☆ ☆


「はぁ……はぁ。少し、休もうよぉ」


「もたもたするな、情けない」


 息が上がってる方が俺です。

 当初の予定では速攻全力疾走でティアラを置き去りにし、諦めた彼女は引き返すだろうという計算だったがそこに俺のスタミナを入れていなかった。五十メートル走る前に俺は力尽きてしまい、ティアラは何やってんのこいつという目で俺を見ていて興奮した。

 お日様と学校が天敵なだけあって外出の機会が絶滅危惧種認定な俺が身体を動かすことなんて滅多に無かったから、めちゃくちゃ体力が落ちていた。あの金髪から逃げ切ったのは奇跡だと言える。某狩りゲーみたいに肉を食ったらスタミナが増えるなんてことは無いだろうか。無いだろうな。


「マコト、着いたぞ」


 名乗った覚えはなかったが、ティアラに呼ばれて顔を上げる。そうこう言ううちに町に着いたらしい。入り口の門が見えてきた。

 俺がここに来て最初に目を覚ました場所。

 色々慌ただしくて考える暇はなかったが、ここって異世界……だよなぁ。

 ここまで全部が夢でしたって線もあるが、腕が折れた時はめちゃくちゃ痛かったしその他諸々も現実の感触とみてまず間違いないだろう。


「転生……」


 ふとそんな言葉が脳裏を過ぎる。

 そろそろ現実と向き合わなきゃいけない頃合いだろう。だとしたら俺は、果たして元の世界に帰れるのだろうか。

 おいおい冗談じゃねぇぞ。ゲームの無い世界でなんて生きていけるわけがない。

 居場所を失くし、家族と住むところを失い、最後の生きがいすら奪われた。こんな理不尽が許されるか。

 俺の人生って……。


「マコト、マコト」


 ちょんちょんと、脇腹を小突かれて我に返る。

 怪訝そうにこっちを見上げるティアラがいた。


「ティアラ?」


「これは酷い」


 彼女の指さす先、整備された道の脇に建てられた一メートルほどの木の看板。指名手配と書かれたそこには絶妙に不細工な黒髪の男が描かれていた。


「邪神マコト。罪状は生存罪。捕らえ次第即死刑」


 こいつが何をやらかしたのかは知らんが世の中には色んな奴がいるもんだなぁと俺は看板を叩き割った。


「お、落ち着け!これ以上罪を重ねるな」


「ホァタアッ!!」


 自称魔王のくせにこんなことを言っている。落ち着いてなどいられるか。一体俺が何をしたと言うのだ。大体生存罪って何だ。馬鹿なのか死ぬのか。

 捕まったら殺される。何故突然襲われたのかやっと分かった。ここまで来れば俺もいよいよ腹を決めねばならない。

 何を失っても命だけは失うことは出来ない。死んだら何もかも終わりだ。リアルじゃセーブもやり直しもきかない。


「ティアラ。お前、本気なんだよな?」


 問いかけは本気で世界を征服するのか、という意味だったがティアラには分かっていたようだ。


「うむ。余に二言は無い」


 それだけ聞ければ充分だ。もうお互いどんなことに巻き込んだって文句は言えない。

 こうなりゃ本格的に世界を征服するしかない。こんな理不尽な世界丸ごとぶっ壊して俺が住みやすい世界に作り変えてやる。もう決めた。


「ティアラのこと笑って悪かった。やっと目が覚めたよ。やってやろうぜ、二人で。改めて俺はマコトだ。よろしく頼む」


 右手をティアラに差し出す。


「マコト。余はとっくにそのつもりだ。成そう、二人で世界征服を」


「ブホォ!」


 ダメだ。やっぱり笑う。

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