眼鏡に写る顔
これからの指名手配犯は街中の監視カメラだけでなく、街中を歩く人の眼鏡にも気をつけないといけなくなる。この謳い文句で、あるアプリが無料公開された。
眼鏡型ウエアラブル端末が普及したことにより、他人の顔を盗撮することが簡単になった。このアプリ製作者はそれに目をつけたのだ。
指名手配犯の顔を眼鏡に覚えさせ、顔識別を動作させる。眼鏡を掛けた人が街を歩くだけで、指名手配犯を見つけ、警察に通報するという物だ。指名手配犯の逮捕に繋がれば、その指名手配犯の懸賞金の半分を、通報した端末の持ち主が受け取る。残りの懸賞金は、そのアプリを広めた人に渡される。つまり、通報者にそのアプリを広めた人が四分の一を受け取り、四分の一を受け取った人に広めた人が、八分の一受け取る。
1/2 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + · · ·は無限級数の一つである。このように足していっても一を越える事はない。よってこのアプリは、もしかしたら儲かるかもしれない、社会的意義がある、として大勢に広まっていった。
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購入したばかりの眼鏡型端末を身に付け、圭一はスマホから設定を行う。話題になっている「ハント」というアプリをインストールするためだ。すぐに登録が済み、アプリが動作し始めたと、ポップアップが眼鏡に映る。こんなものか、と思いながら圭一は早速ツイートした。
”ハントをインストールしたんだけど、指名手配のポスターを写したらどうなるの?”
圭一にハントを薦めてくれた友人が、それに対し返信をしてきた。
”ちゃんと俺を紹介者に登録したよな! 以下コピペ。顔識別をした後に撮影をします。そのとき、顔が四角や楕円の枠に入っている場合、自動通報は致しません。送りたい場合、手動で送って下さい。また、設定により自動通報を切ることもできます。”
”ちゃんと設定した。でもこれ本当に懸賞金は入ってくるの?”
”入金の最低が千円だから、十万の懸賞金なら六人目までにしか入ってこないよ”
”十万の懸賞金ってあるの?”
”個人が懸賞金を掛ける場合もあるらしい。その最低額が十万円。警察からなら一円からでも受け付けるらしいけど”
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「十万円か」
圭一は本当に十万円なのか調べだした。そして、それが正しいと分かると直ぐに指名手配を申し込んだ。居なくなった姉と題名を付けて写真を送信する。十万円なら安い。そう思ったのだ。
銀行で振込をした後、メールが届いた。次のアプリアップデートで、顔写真情報が端末にインストールされると書かれていた。また、これらの情報は各個人が閲覧できるが、意味の分からない情報になっているとも書かれていた。
直ちにアプリをアップデートし、自動送信設定を切った。顔写真を手に持って眼鏡のレンズでそれを写す。そして、送信待ちフォルダを覗いた。
圭一の顔がにやける。
「もう二度と近づかないで」と言われた圭一だが、これからはもっと近くで彼女の事を見守る事ができる。彼女が行動する場所も、彼女が身につける服装も、これからは周りの皆が圭一に教えてくれるのだ。