覚悟ガンギマリ令嬢、婚約破棄イベントが時間が無駄過ぎてブチギレる
この世界には『女神の神託』を受ける者が稀にいる。
この神託は教会の女神像に祈祷を捧げた際にその者の未来を神が直々に教えてくださるというものなのだが……そのお声が、私の耳にも届いた。
本当に幼い頃。
物心ついて間もなかった私が両親に連れられて教会へやって来た時、その声が聞こえた。
『レイラ……あなた……十六の年、生き…………れない…………でしょう』
非常に不鮮明な女性の声。
しかし確かに聞こえたその声は、周りの人には聞こえず。
これが女神さまからの神託だと理解すると同時に、私は自分の未来を知って絶望した。
『十六の年、生きれないでしょう』
そう聞こえた声を私は、『十六歳に貴女は死にます』という宣告として受け取ったのだ。
神の信託は絶対。どれだけ足掻こうとも定められた未来は変わらない。
その日の夜から一週間。私はワンワンと泣きまくり、部屋に閉じこもり、それ以降一度も教会に足を運ぶ事はしなかった。
両親にはこの話はしていない。
娘の未来を望み、婚約者まで早々に決めてくれていた両親を悲しませるような事を話す勇気がなかった。
一方の両親は私の様子から神託を受けたらしい事は察していたようだけれど、私が話したくないと言えば無理には聞かなかった。
きっと良くないお告げだったのだろうと悟ってくれたのだ。
さて、そんなこんなで十六歳で死ぬことが決まった私。
一頻り泣いた後の私は早かった。
なんせ同年代の中でも真っ先に死にかねない寿命だ。
ならば貴族として長生きをする為ではなく、自分の為だけに数少ない寿命を全うしようと考えた。
何しようが、どうせ即行死ぬのだ。
ならばせめて好き勝手してやろう。
そんなこんなで、まずは下級貴族を虐める上位貴族を公衆の面前でボロクソに言い負かした。
我が家は伯爵家。そこまで裕福な方ではない。
相手には侯爵令嬢だっていた。けれどどうでもいい。
短い寿命の中で「こうしておけばよかった」という後悔だけはしたくないと思ったのだ。
これらの行動がきっかけで悪意ある噂が沢山流れたけれど、それでも構わなかった。
友達も出来たから。
その殆どは下級貴族だったけれど、私の人脈が貴族的な観点から見れば非常に乏しいものであったとしても、どうせ死ぬ私にはあまり関係のない話だ。
幸い、我が家には年の離れた優秀なお兄様がいたし、私が好き勝手しても家の評判が傾かないくらいに私のお兄様の評判は良かった。
さて、後は他にも遠出したり、庶民の遊びに手を出したりと、とにかく新鮮さを求めて走り回ったのだが……そうこうしている内にあっという間に十六歳となっていた。
王立学園へ入学した私はそれからも自分の思うが儘に、悔いのない時間を過ごしていたけれど、そんなある日の事だった。
「レイラ! お前との婚約を破棄する!」
幼い頃からの婚約者メイナードがそんな事を言いだした。
尚、その隣には侯爵令嬢のペネロピ様がいる。
かつて私がけちょんけちょんにしてしまったご令嬢の一人だ。
メイナードはそんな彼女と腕を組みながら私がどれだけ自分の婚約者に相応しくないか、ペネロピ様を虐めてきたのかを主張する。
しかし私は知っている。
彼が裏でペネロピ様と浮気していたという事を。
それを野放しにしていたのは、彼と言い争っている時間が無駄だったから。
彼は傲慢なうえに話の長い男だった。
自分の意見を否定されればすぐに激昂し、挙句の果てにはネチネチと小一時間は言い訳をする。
そんな男に時間を費やすのが嫌なので放っておいたのだ。
どうせ婚姻は卒業後の十八歳と決まっていたし、私はその頃には死ぬから婚約が続いたままでも困らないと判断したのだ。
だが結果はこれだ。
メイナードはこれまた長々と自分の主張を披露する。
「婚約破棄ですね。どうぞご勝手に。では私は急いでいるので」
と言って、そそくさと話を切り上げようとしても
「待て! 自分の罪から逃げるつもりかっ!」
と、訳の分からない引き留められ方をする。
何でもいい、好きに言ってくれて構わないというスタンスなのに、何故わざわざ私の時間を拘束するのか。
そんな苛立ちが私の中で募っていった。
そして限界を迎えた私は――
「っ、うるっさいですわ!! こっちは小さい頃に女神さまから『神託』を受けてからというもの、死に物狂いで生きているんです! 婚約破棄とか浮気とか悪女とか、どーでもいいんです! 私の邪魔をしないでいただけますか!?」
思いの外、大きな声が出た。
シン、と辺りが静まり返る。
「……しん、たく?」
メイナードの顔色が変わった。
……そうだ、と私は思い出す。
女神の神託を受ける者はこの国で重宝すべき存在。
決して軽んじたり害したりしていい存在ではないとされている。
「う、嘘に決まってるでしょう! こんな女が――」
ペネロピ様が声を荒げる。
それに対し私は思わず憤慨した。
「嘘だったなら、私だってこんなに必死になって生き急いだりしませんわ! 貴女が代わってくれるというなら喜んでこの立場を差し出したいくらいです!」
少なくとも、私がペネロピ様を虐める余裕がない事くらい、周囲の者は勘づいていたのだろう。
だって私は本当に生き急いでいたから。
彼女の浮気も、悪評の鎮圧も放ってとにかく目まぐるしい日々を送っていたから。
「なるほど。貴女の珍妙な振る舞いの数々の裏にはそういう事情があったのか」
その時だ。
騒動の中に、麗しい見目の男性が姿を見せる。
直接お話しした事はない。けれどそのお方の正体は知っている。
この国の王太子殿下――クリフトン様だ。
「それなら、メイナード殿の主張の真偽を確かめるのは造作もないな。女神に選ばれた者は悪しき心に憑りつかれない、聖なる加護を得ているとか。であるならば彼女が今一度神託を受け、未来を言い当てた暁には……彼女が人を貶める事など出来ない人物であるという証明になる」
いや、そこまでしなくてもいいんですが。
そう思いはしたのだけれど、あれよあれよという内に王太子とか言う巨大な権力によって私は教会の女神像の前まで連れられていた。
『いや~ん、可愛い可愛いレイラちゃん。ごめんなさいねぇ、上手く伝えられなくて』
恐る恐る女神像の前で祈りを捧げると、聞こえてきたのはそんな女性の声だった。
『あの頃の貴女はとても幼かったから、きっと私の声を鮮明に聞き取れなかったのよね。怖がらせてしまったわ』
鮮明に聞き取れなかった……? という事はあの神託には何か別の意味でもあったと言うのか。
そんな私の疑問は女神さまに筒抜けの様で、すぐに言葉が返って来る。
『もっちろんよ! わざわざ私が選んだ可愛い子ちゃん達に過酷な終わりなんて告げる訳ないでしょう! いい? 聞いて頂戴ね。あの時の私は『十六歳の歳、貴女は生きてきた時間の中で、信じられないくらい素敵な人に出会うでしょう』って伝えたのよ!』
(……へ?)
呆気に取られる。
まさか……まさか、これまで恐れていた神託の内容がそんなものだったなんて。
(ふっふっふ、因みに、その素敵な人というのはね……今まさに、貴女の隣にいる人よんっ)
ハッと顔を上げる。
すると私を見守っている麗しい顔の青年――王太子殿下が目を瞬かせながら私を見ていた。
「んな……っ」
「ん? どうかしたのかい?」
「い、いいいいえ、なんでもありませんっ!」
『そういうことだから! これからは怖がらないで、定期的にお顔を見せに来て頂戴ね~。あ、あと恋の進捗もちゃんと報告してね♪ それじゃ、両想いになるの待ってるからぁ~!』
(えぇぇええっ、め、女神様っ!?)
『ああそうそう、追伸っ♡ あの婚約者と浮気相手さんには三日後階段から転げ落ちちゃいます。伝えてあげてね♪』
最後に『新たな神託』を残していった女神様。
それを最後に彼女の声は聞こえなくなる。
「その様子だと、神託は授かったようだね」
「え、ええ、まあ」
「女神さまは何と?」
「三日後に、メイナードとペネロピ様は階段から転がり落ちると……」
「なるほど。まあ、神託を受ける人というのは女神様から気に入られている人ばかりだから……そんな相手に敵意を持ったのならばそのような神託を受けるのも仕方がない話か。では早速、その話を伝えに行こうか」
「は、はい」
クリフトン殿下はそう言うと私と共に教会前に停めてある馬車へ向かおうとする。
しかしその時、彼はふと不思議そうに私の顔を見て
「……他には何か言われた?」
と、突然聞いてきた。
「えっ!? ど、どうしてですか……!?」
「君の顔が赤いから」
そう言いながらクリフトン殿下は私の頬を撫でる。
心臓が飛び出そうな感覚を覚えた。
「いいいいいえっ、別に、何も……っ」
「そう? まあ、いいか。それじゃあ行こう」
クリフトン殿下はそう言うと私に手を差し出す。
「君は気付いていないかもしれないけれど、私は少し前から君の事が気になっていたんだよ。他の令嬢とは明らかに変わった人だったからね」
「は、はぁ」
私はその手を受け、殿下にエスコートされる。
隣に並んで歩く殿下の眩い微笑みを上手く直視できず、視線を落としていると、彼の穏やかな声が聞こえた。
「君は常に急いでいたから声を掛ける暇もなかったのだけれど……これを機に、仲良くなってくれるかい」
想像もしていなかった言葉に驚く。
顔を上げると、期待するようなまなざしが私に向けられていた。
そんな顔で見られてしまえば……断るわけにもいかない。
寿命の問題が消えた今、ただでさえ、断る理由なんてないのに。
「も、勿論です……」
「よかった。それじゃあ、これからよろしくね、レイラ」
「は、はい。クリフトン殿下」
メイナードと一緒にいる時は一切感じなかったような胸の高鳴りを私は抱えていた。
この先、私とクリフトン殿下を待つ未来がどれだけ温かくて幸せなものであるか……この時の私達に走る由もなかった。
なおこの三日後、メイナードとペネロピ様はちゃっかり階段を転げ落ちて大騒ぎになったらしい。
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