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零域の第三王子 〜命の使い道をひとつしか知らなかった俺へ〜  作者: 雲雲く
第一部:幼少期編

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第0話 世界の終わりで君は何を願う

初投稿です。


読みたい作品がなくなってしまったので、自分の好みを全て盛り込んだ作品を作ってしまいました。

でも途中で気づいちゃったんです。

あれ、これ、もしかしてセルフネタバレ食らってね?と。

でもそんな些細な事は忘れることにしました。なぜならトンカツ・ハンバーグ・カレー・オムライスは何度食べても美味しいから。


前置きが長くなりましたが、何卒よろしくお願いします。

 蛍光灯の光が白い壁を無機質に照らしている。


 時刻は午前三時。東京都内某所にある量子物理学研究所の地下実験室にはたった一人の男がいた。


 私――名前など、もうどうでもいい。三十二歳。独身。友人はいない。家族とは十年以上連絡を取っていない。恋人など一度もできたことがない。


 それでも、私には研究があった。


「……もう少しだ」


 呟きながらコンピュータのモニターを見つめる。画面には複雑な数式が並んでいる。量子力学の最先端、いやその先にある理論。


 ゼロポイント・フィールド理論。


 真空――何もない「ゼロ」の空間に実は無限のエネルギーが潜んでいる。量子揺らぎ。仮想粒子。そして世界の根源。


 私はこの理論を十年以上研究してきた。誰も信じなかった。「非科学的だ」「時間の無駄だ」。そう言われ続けた。


 それでも諦めなかった。


 なぜなら、真実がそこにあると――


「……いや」


 ふと手が止まる。


 真実? 本当にそうだろうか。


 自分が求めているのは本当に真実なのか。それとも、ただの――逃避?


 孤独から。無意味な人生から。誰にも必要とされない自分から。


 ――違う。そんなはずはない。


 頭を振って雑念を払う。


 研究に戻る。数式に没頭する。それだけが自分の存在意義だから。




 それは三週間前から始まっていた。


 奇妙な夢を見るようになった。


 暗闇の中を漂う夢。何もない、ただ黒いだけの空間。


 そこで何かが――誰かが自分を呼んでいる気がした。


『――来い』


 声ではない。だが確かに何かが語りかけてくる。


『――ゼロへ――』


 目が覚めると全身が汗でびっしょりになっていた。心臓が異常に速く打っている。


 ――何だ、今のは。


 ただの夢。そう思おうとした。だが妙にリアルだった。あの感覚は夢とは思えなかった。


 それから毎晩同じ夢を見た。


 そして徐々に――自分の中で何かが変わっていった。


 研究への執着が異常なほど強くなった。まるで何かに突き動かされているように。


「おい、大丈夫か?」


 二週間前、同僚の山田が心配そうに声をかけてきた。


「最近様子がおかしいぞ。顔色も悪いし」


「……平気だ」


「平気じゃないだろ。いつから寝てない? 三日? 四日?」


「研究が佳境なんだ。今は止められない」


 山田は困った顔をした。


「……お前、何かに取り憑かれてないか?」


 その言葉が妙に心に引っかかった。


 取り憑かれている?


 ――まさか。




 一週間前。


 指導教員の田中教授が実験室に来た。


「君の研究計画書を見た」


 教授の顔は厳しかった。


「この実験は危険だ」


「……何がですか」


「ゼロポイント・エネルギーを実際に観測しようというのだろう? 理論上は可能かもしれない。だが――」


 教授は私の目をじっと見た。


「もし本当に観測できたとして、それがどうなるか分かっているのか?」


「……世界の真理が明らかになります」


「違う」


 教授は首を振った。


「人間が見てはいけないものを見ることになる」


 その言葉に背筋が凍る思いがした。


「この研究は中止しろ。命令だ」


「……できません」


「何?」


「今更止められません。もうここまで来たんです」


 教授は悲しそうな顔をした。


「……そうか。ならば私からは何も言えない」


 そう言い残して教授は去っていった。


 ――見てはいけないもの?


 何を言っているんだ。科学者が真実から目を背けてどうする。


 だが心の奥底で小さな声が囁いた。


 ――本当にこれでいいのか?




 そして今夜。


 実験の日。


 装置の最終調整を終えた。部屋の中央には巨大な球体が設置されており、その内部には超高真空状態が作られている。


 文字通りの「無」の空間。


 そこに特殊な電磁場を発生させ、ゼロポイント・エネルギーを観測する。


 コンソールのスイッチに手をかける。


 ――やるのか?


 ――本当に?


 心臓が激しく打つ。


 手が震えている。


 それは興奮なのか。それとも――恐怖?


「……やる」


 呟く。


 もう後戻りはできない。


 ここまで来て引き返せるはずがない。


 スイッチを入れる。


 瞬間、装置が唸りを上げた。電磁場が展開され、真空状態の内部で何かが起こる。


 計測機器が異常な数値を示し始める。


「……来た」


 モニターに表示されるデータ。


 ゼロポイント・エネルギーは実在した。


 そしてその量は――私の想像を遥かに超えていた。


「まさかこんなにも……」


 今この瞬間、目の前の真空には無限に近いエネルギーが存在しているのだろう。


 それは宇宙全体を何度でも作り直せるほどの――


 その時、異変が起きた。


 装置が振動し始めた。


 警告音。赤いランプ。


 ――まずい。


 慌ててスイッチに手を伸ばす。だが――


 遅かった。


 球体の内部で何かが起こっている。


 真空が歪んでいる。


 いや歪んでいるだけではない。


 ――裂けている。


 亀裂。


 空間に走る黒い亀裂。


「……何だこれ」


 恐怖が全身を駆け抜ける。


 あれはこの世界のものではない。


 何か別の、存在してはいけない()()へ繋がる――


 穴。


 その瞬間爆発した。


 意識が遠のいていく。


 全身が焼けるように熱い。いやもう感覚がない。


 ――ああ、これが死か。


 前世――いやこの人生の終わり。


 三十二年。短かったとは思わない。だが――


 ――何も残せなかった。


 誰にも愛されず、誰も愛さず、ただ研究に逃げていただけ。


 本当は分かっていた。


 自分は孤独が怖かっただけだという事も。人と関わるのが怖くて、研究という殻に閉じこもっていただけだという事も。


 ――もしもう一度人生をやり直せるなら。


 今度は違う生き方をしたい。


 誰かを愛したい。


 誰かに必要とされたい。


 ――でももう遅い。


 意識が途切れる。


 全てが闇に――




 その時。


 何かが見えた気がした。


 いや見えたのではない。感じた、というべきか。


 暗闇の中に何かがいる。


 それは形を持たない。声もない。


 だが確かに「在る」。


 ――何だ、お前は。


 問いかける。声にならない声で。


 答えはない。


 だが何かが伝わってくる。


 それは言葉ではなく、もっと根源的な――概念。


 ――ゼロ。


 ――虚無。


 ――終わり。


 そして――


 ――始まり。


 その瞬間、全身が引っ張られる感覚。


 ()へ。()へ。それとも――


 分からない。


 ただ確かなことが一つだけある。


 自分は何かを――選んだ。


 いや選ばされた?


 それともただの偶然?


 ――分からない。


 もう何も分からない。


 意識が完全に途切れる。


 そして――




 どれくらい時間が経ったのだろう。


 ふと気がつく。


 まだ意識がある。


 ――生きている?


 いや違う。これは生ではない。死でもない。


 何かその中間のような――


 温かい。


 何かが自分を包んでいる。


 優しく柔らかく。


 それは前世では決して感じたことのない感覚。


 ――これは何だ?


 答えはまだ分からない。


 だが一つだけ確かなことがある。


 これは――


 終わりではない。


 新しい何かの――


 ()()()

ここから始まる「トンカツ・ハンバーグ・カレー・オムライス丼」生活

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