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魔法薬学科は騒がしい

今日はもう一つあげます

 魔法薬学科、講義室の一室では、今日も男女問わず院生が集合している。

 

「先生、今日の入眠剤調合なのですが――」

「この魔法式は、こちらの方が簡便になるのではないですか。」

「魔法と魔術の関連について――」


 シシリアが午後の講義を終え後は、院生が入れ替わり立ち替わりシシリアと話をしていく。中にはシシリアの講座をとっていない者、魔法薬学とは関係のない質問もあるが、シシリアの知識は薬術学だけではないので、院生たちも幅広い質疑応答ができると人気だ。

 シシリア自身も、院生との会話で思ってもいないひらめきや、違う角度からの考え方ができるものだから、院生との意見交換、くらいの気持ちでいつも真面目に対応していた。

 なので、時に話題が白熱して長時間に及ぶこともあるが、そんな時は決まって、

「リュミエラ先生。そろそろ終わらないと、明日の講義の準備ができなくなりますよ」

 必ずアーシェルが登場し、院生は震えて帰っていくのだった。

 どうして長くなっているのがわかるのかしら、と不思議に思うシシリアだったが、エルは意外に面倒見がいいものね、と勝手に納得していた。

 そして、魔導院の講師や院生がいる時は、彼も「院生」として振る舞うのだから、器用なものだわと感心してばかりだ。

 質問に来ていた院生が、こちらを振り返りながら(なぜか青い顔で)小走りで帰っていくのを見届けてから、シシリアはアーシェルに向き直った。

「エル、教えてくれてありがとう。ところで、素材採集は明日よね。私は何を準備しておけばいい?」

「いつも通り、怪我をした時の薬と、緊急時の魔獣避けをお願いするよ」

「わかったわ。……あ、でもその前に、明日の朝の講義準備をしなくちゃいけないのよね」

 シシリアは、明日はどの範囲だったかしら、と形の良い顎に人差し指を当ててちょっと考え込んだ。なので、アーシェルの次の言葉に、少しだけびっくりしてしまった。

「一緒に行ってもいい?」

「――えっ!? ああ、それはいいけれど……エルの時間は大丈夫?」

 アーシェルは一瞬だけめをふせ、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

 その表情は柔らかいのに、どこか譲らない雰囲気が漂っている。

「大丈夫だよ。シシィに合わせる時間なら、いくらだって作れるから」

「――? そうなの? ありがとう」

「うん、じゃあ、行こうか」

 そう言って、アーシェルはシシリアの手をとって歩き始めた。

 こうして今日もまた、シシリアはアーシェルと一緒にいる。

 本人が全く気付かぬまま、距離は少しずつ、確実に近づけられるのだった。


 *


 同じ頃。


「少し……覗くだけだ」

 ユリアスは自分に言い訳しながら、魔法薬学科の講義棟を訪れていた。

 シシリアは、黒の特級ローブをまとい、学生たちと真正面から向き合っていた。

 白金の髪とライラックの瞳。真剣な顔をしていたと思ったら驚き、和み、好奇心に瞳が輝く。


(あんな顔、俺は知らない……)


 昔の面影がなくて、息が止まるほどだった。

 今までの彼女は何だったのか。

 なぜ、あれほどまでに感情がなく、何もかもに諦めてしまっていたのか。

 彼女に一体、何があったと言うのか。


(俺は、あの子の何を見ていたんだ――)

 

 ユリアスは、衝撃のあまりしばらくそこから動くことができなかった。

 


「シシリア!」

 シシリアが一人で本塔の廊下を歩いていると、明るい声が響く。

 駆け寄ってきたのは、紺色のローブを羽織った茶髪の青年。紺色は、一級魔法薬術師の色だ。

「――え、ライル!?」

 辺境の村で一緒に薬屋を経営していたライルが、小走りにシシリアに近寄ってきた。

 シシリアの兄と同じ歳だが、身長は彼女と同じくらいなので、近づいても見上げなくてもよくて、首が楽だ。

「元気そうだね。顔色もいいみたいで、安心したよ」

 変わらない優しさに、シシリアの表情が和らいだ。

「ライルもね。会えて嬉しいわ。でも、どうして魔導院にいるの?」

「ちょっと寂しくなっちゃってさ。シシィに会いにきた」

 なによそれ、と笑いながら、シシリアは彼が珍しく魔法薬術師のローブを着ているのに気づいた。

「ああ、もしかして、図書館に来たの?」

 ライルは茶色の髪を掻きながら、バレたか、と笑った。

 ここは魔法薬術科がある魔導院。その図書館の蔵書は、もちろん王国一だ。魔法薬術師は本館の図書館を無条件に使用できるので、調べ物がある時はここに来る者が多い。魔法薬術師のローブにはそれ自体に呪がかけられており、許可された本人しか着ることができない。よって、これがそのまま入館証になるのだ。もちろん、左手の甲の魔法紋を見せても良いのだが、正門で二回、本館入り口と図書館入り口の計四回見せるのは面倒なのだ。それで、素通りできるローブを着てくるのが主流になっている。

「まあ、会いに来たのもあるんだけどね」

 ライルは、ふふっと笑った。

「それ、採集の準備? もしかして、これから行くの?」

「そうなの。行ってみたいところがあって、エルが一緒に行ってくれるって」

「ふうん……それ、僕も行っていい?」

「え? それはいいけど、今回行くのは、“魔物の住処”だって言っていたわ。大丈夫かしら……」

 それを聞いたライルは、呆れた顔をした。

「……それ、君の口から聞くとは思わなかったよ。あれだけS級の魔物の巣窟を二つ三つと潰してきたのに、今更“住処”の何に気をつけるの?」

 シシリアは、「え、何?」と不思議顔だ。

 どうせ、アーシェルが一緒に行きたいがために言ったのだろう、とため息をついて、ライルは遠い目をした。

 

 こうして正門前の第二騎獣舎でアーシェルと合流した。突然現れたライルに、アーシェルは少し不機嫌になったが、シシリアは何も気付かないまま楽しげに出発した。

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