表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/71

その後の話

 その日、シシリアはセルジュに激しく怒られた。

 いつものように、魔導院の研究室を爆破したまではよかったのだが、下の階の実技研修室にまで被害が及んだのだ。

 半分泣きながら研修室を復元していると、ニナが慰めてくれた。

 ジリジリと暑い季節になったので、せっかく復元するのだから、と、いつでも適温になるようにしておく。

 いつも着ている特級ローブに、温度調節の機能がついているので、それを応用したのだ。

 実技研修室の復元を終わらせると、もう夕方だった。

 セルジュに報告をして、帰ろうと荷物をまとめていると、カディルが顔を出した。

「シシリア嬢、今日も派手にやったんだって?」

 軽い調子なのはいつものことだ。

「今日もって、いつものように言わないで」

 シシリアの抗議は、笑顔で無視された。

「さっき、ルーファス殿に会ったよ。用があって、来ているみたいだね」

「そうなの? お兄様、何も言っていなかったけれど」

「会ったついでに伝言を頼まれた。一緒に帰ろうってさ。相変わらず、仲がいいね」

 その言葉に、シシリアは「兄妹だもの」と笑顔で答えた。

 そうしたところで、カディルが「そうだ」と話を変えてきた。

「ルーファス殿もそうなんだけど、もっとやばいのが――」

 言い終わらないうちに、もう一人、ノックもせずに研究室に入って来た。

「シシリア、今日も来たぞ」

 金の瞳を煌めかせたアシュレインだった。

「あ、来ちゃった」

 カディルが、ため息をついた。

 シシリアは、呆れた顔でアシュレインを見た。

 帝国との技術協力を結んでから、当初はシシリアも帝国に派遣される予定だった。

 しかし、詳細が決定する前に長い休養に入り、他の魔法職が派遣されることになった。帝国の治水問題は、滞りなく解決に向かっているようで、シシリアの派遣も見送られ続けていた。

 そこで問題行動を起こしたのが、アシュレインだ。

 王国への出禁が解除された後、職権を濫用し始めたのである。

 ――転移門でシシリアに会いにくるのだ。予告もなく。

 ここまでくると、シシリアでも呆れてしまう。

「……陛下。また、ヴァルディス様に怒られますよ?」

「知らんな。俺は、仕事を終わらせてから来ているからな。怒られる筋合いはない」

「そういう問題じゃ、ないと思う……」

 ついに、カディルも指摘しだした。

 それを無視して、アシュレインはシシリアに近づき、両手を取る。

「さっさと俺の元に来い。俺の妻になれば、研究だってできるし、お前を危険には晒さない」

 熱く煌めく金の瞳をスルーして、シシリアは笑顔で答える。

「いつも言っていますが、行きません。私は、ここにいます」

「俺は、お前がいいのだ」

「私は、魔導院がいいです」

 いつもの平行線に、楽しそうに笑っていたカディルだが、開きっぱなしのドアの外を見て、顔を引き攣らせた。

「――陛下、そこまでにしていただきましょうか」

 そこには、黒い笑みを浮かべるルーファスがいた。

「なんだ、ルーファス。お前も、そろそろ帝国に来い。一家で移住してこればいい」

「何を仰っているのか、わかりませんね」

 シシリアの手を強引に取り戻して、ルーファスはニコリと笑った。

「では、そう言うことで」

 シシリアを連れて、風のように去っていった、その後には、帝国宰相ヴァルディスが立っていた。

 アシュレインの口元が、ヒクリと引き攣る。

「陛下、そろそろ、レガリア王国の妃殿下へご報告申し上げた方が、よろしいですか?」

「…………また来ると、シシリアに伝えておけ」

 カディルにそう言い残して、アシュレインはヴァルディスに伴われて帰って行った。


 帰りの馬車の中で、シシリアは兄に尋ねた。

「――お兄様。エルは、最近いかがですか?」

 アーシェルの魔導院修了とすれ違いで復帰したので、シシリアは彼と数ヶ月会っていない。彼は、ルーファスの下で働いているという。

 兄から話を聞くことだけが、彼との接点だった。

「ああ、とてもよくやっているよ。先日も、他の者が気づかなかった点を指摘していた。彼は、優秀だな」

 友人が褒められて、シシリアは嬉しくなった。

「はい、エルはとても優秀です。私も、いつも助けてもらっていました」

 彼が魔力暴走を起こした原因が自分であると、シシリアは兄から聞いた。だから、会えなくなったのだとも。

 アーシェルと、とても仲が良かった自覚が、シシリアにはあった。大切な友人だと思っていたが、その関係に甘えていたのはシシリアだ。アーシェルの気持ちを見ようともせず、踏みにじっていた。その結果が、彼を追い詰めてしまったと、シシリアは考えている。

 だから、彼からのアクションがない限りは、自分からも近づかないと決めた。

 アーシェルの優しい笑顔を思い浮かべて、少し淋しくなったシシリアの頭に、ルーファスが手を置いた。

「――そのうち、手紙を書いてやってくれないか?」

 シシリアは、「えっ?」と顔を上げた。

「……いいの、ですか?」

 ルーファスは、微笑んで彼女の頭を撫でた。

「彼も、喜ぶ」

 それに、と続ける。

「彼は、シシィの初めての友人だ。大切にしなさい」

 優しい声に、シシリアは「あ……」と声が漏れた。

 そうだ。彼は、シシリアに初めてできた、同年代の友人だ。かけがえのない、親友なのだ。彼を、失いたくはない。

 シシリアは、顔を上げて言った。

「――お兄様。手紙を書いたら、エルに渡してください。必ず、お兄様が渡してくださいね」

 ルーファスは、嬉しそうに「必ず、渡そう」と頷いた。

 穏やかな雰囲気になったところで、シシリアは「そういえば」と切り出した。

「私が刺された時、お兄様とユリアス様は、転移していらっしゃったと聞きました。いつの間に魔具を使わない転移ができるようになったのですか?」

 シシリアはそれを成功させているが、行ったことのない場所や、おおよその距離がわからない場所には、転移することはできない。

 あの時、ルーファスとユリアスは、シシリアたちがどこにいるのか、知らなかったはずだ。シシリアの知る方法では、条件が合わない。

「ああ、それはね――」

 ルーファスは、何でもないようにシシリアの左耳に触れた。

「これが、転移門なんだ」

 そこにあるのは、兄からもらった深い青の石がついたピアス。

「世界最小の転移門。気に入っただろう?」

 ルーファスが満足そうに笑い、シシリアは驚いて声を上げた。

「ええ! では、お兄様は私の元に転移し放題ではないですか! しかも一方的にっ! どれだけ私のことが好きなんですか?」

「それだけ、お前のことが大事なんだよ。――まあ、それだけではなくてね」

 楽しそうな兄の顔を、シシリアはじっと見つめた。

「お前が命の危険に晒された時、これが、私に教えてくれるんだ」

 そう言って、自身の右人差し指を示す。

 そこには、繊細な細工をした指輪に填まった、深い青――シシリアのピアスと同じ石が、二つあった。

「ああ、それで……」

「うん。お前の危険がわかったから、そこにいた殿下を連れて転移したんだ。私が兄で、良かっただろう?」

「いつも、そう思っているわ。けれど……」

 シシリアは、不満そうな顔をした。

「それは、お兄様への一方通行ですか? 私が、お兄様の危険を察知できるようには、できませんか?」

 ルーファスは、驚いた顔をして、目を瞬いた。それは一瞬のことで、すぐに幸せそうな顔に変わった。

「私の妹は、どれだけ私のことが好きなんだろうね」

「とっても好きですよ。ですから、どうすれば双方向になるのか、教えてください」

 さらりと流されたルーファスは、苦笑しながら言った。

「この石は、二つでセットなんだよ。私に何かあれば、シシィに知らせる。お互いが転移先だ。――これで、満足かな?」

「大満足です!」

 シシリアは、にっこり笑って頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ