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エリスの役割

 耐えきれず、声が出た。

「――あ……あの、ユリアス殿下……」

 皆の視線が、一斉にエリスを向く。

「あの……リュミエラ様を、連れ帰るのですか?」

 エリスの問いに、ほんの一瞬、沈黙が落ちた。

 最初に視線を向けてきたのは、ユリアスだった。

 だが、その瞳にあったのは、エリスが知っている柔らかさではない。

「……そうだ」

 短い返答。

 それだけで、胸の奥が、ぎゅっと掴まれた。

「どうして……?」

「……なぜ、と問われる意味がわからないが」

 ユリアスの声が硬く聞こえる。

「だって……だって……そう、その人は、皇帝陛下がご所望なのですよね? だったら……っ!」

 エリスは言葉を続けられなかった。

 自国の王太子の瞳が、冷たく凍っていたから。

「――シシリアが帰ると言っている。私も、シシリアに帰ってきて欲しい。それで? 何か問題があるか?」

 エリスは、喉元で声が凍ってしまったかのようだった。

 問題なら、ある。

 説明しなければいけないのに、うまく声がでなかった。

 そこへ、皇帝が横から口を挟む。

「問題ならあるだろう。帝国も、シシリアが欲しい。王太子よ、そのあたりは後日文書をまとめよう」

「……承知いたしました」

「私は、何も言っていないのですが……」

「シシィ、そこは仕事だと思いなさい」

 皇帝の要求に王太子が不承不承に応え、シシリアが納得しないのを兄が諌める。

 見事な連携だが、エリスには関係がない。

「でも! その人が帰ったら、私はどうなるんですか!?」

 エリスは叫んだ。

「殿下は、さっき、私を連れて帰るって言いましたよね? それは嘘ですか? 私を選んだんじゃないですか!?」

「お前を、選ぶ?」

 ユリアスが、心底わからなそうに首を傾げた。

「こんなの……シナリオと違い過ぎます!」

 全員が首を傾げる中、アシュレインだけが、ああ、と納得した。

「お前の言っていた、未来、というやつだったか」

 困惑する皆の視線が、皇帝に集まった。

「確か、王国をあるべき姿に戻すために、それを阻害しているシシリアを排除する、というようなことだったか」

「そうです! あの人は、シナリオ――私が見た"未来"を壊しているんです。だから、王国にいてはいけないんです!」

 エリスは、必死に訴えた。

 起こるはずのない研究棟事故が起こったこと、そのせいで王国の未来がずれてしまったこと。シシリアがいるせいで、ユリアスの「逃げ場」であるべきエリスの立場が作れないこと。他にも、エリスが側にいないと、最悪王国崩壊の引き金になる人がいること。

 その全てに、シシリアが関わっていること。

「陛下も、この人がいるから、運命の人に会えなかったじゃないですか!」

「運命か何だかは知らないが、その女性には会ったが?」

「え? だったら、どうしてその人を?」

「だから。シシリアが、レガリア王国の辺境で会った女性だ。時期は違ったが、確かに“運命の人”とやらに出会ったな」

 アシュレインは、シシリアに視線を移すが、彼女の姿はユリアスが遮ったため、皇帝は舌打ちした。

 エリスは、皇帝の話を聞いて「は? 何? 今度はそっち?」と驚いている。

「まあ、聖女の話は、あながち妄想ではないようだぞ」

 それを受けて、ルーファスが確認する。

「つまり、あらかじめ決められた未来があり、その中心にあなたがいると?」

 エリスは、ルーファスの理解に飛びついた。

「そうです! それを壊してしまうと、王国が大変なことになるんです! 私は、それを止めたくて――だいたい、あなた! なんで出てきちゃったのよ!?」

「ええと……」

「何よ!?」

 困惑気味のシシリアに、エリスは喰ってかかる。

 シシリアは、眉を下げた。

「あの……なんだか……ごめんなさい?」

 その言葉に、エリスは、瞬きすら忘れて口を閉じた。

「お前……煽っているのか?」

 アシュレインが唖然とした。

「それは、凶器だよ……」

 ユリアスが呆れる。

「シシィ、言い方……」

 ルーファスが、ため息をつく。

「……えげつないですな」

 ヴァルディスまでも、頭を抱えた。

「え? え? だって、なんだかご迷惑をおかけしてしまったみたいで? 私、怒られていましたよね?」

 最近怒られ慣れているシシリアは、エリスが怒っていることを知って、単純に謝った。

 しかし、エリスにしてみれば、自分の意思が何も伝わっっていないことがわかる一言だった。

「どんなポンコツ……っ!」

 エリスの口から、言葉がこぼれ落ちた。

「何なの、この人!? 触れれば爆発、押せば暴発? 触るな危険この上ないでしょ!?」

 エリスの悲鳴に、そこにいた全員が遠い目をした。

 シシリアだけが「えー……」と不満を漏らしている

 「もう……」と、エリスが呟いた。

 肩を落とし、俯いている。

「……王国も……魔法院も……ユリアスも、アーシェルも、レオンもカディルも……私が救うはずだったのに……」

 次第に、涙声になっていく。

「どんなバグよ……私のルートは、どこに行っちゃったのよ」

 ポロポロと、翠の瞳から涙がこぼれ落ちた。

 両手で、聖女の白衣をぎゅっと掴む。

「こんなに……頑張ってきたのに……」

 泣きながら話し続けるエリスに、誰も反応できなかった。

 まともな情報は引き出せない、という判断だった。

 その中で一人だけ、エリスに声をかけたのは、シシリアだった。

「……あの……バンデール様?」

 ユリアスは、シシリアを庇うように声をかけようとするが、それはルーファスの視線に止められた。

 エリスは答えない。

 両手で顔を覆って、シクシクと泣いているだけだ。

「あの……私は、バンデール様の努力を存じ上げないのですが、上手くいかないことに怒ってしまうほど、頑張られたのですよね?」

 泣いている顔が、少しだけ上を向いた。

「……そう……よ。それを……あんたが……っ!」

 先ほどよりも、小さな声でエリスは言った。

「それについては、ちょっと、もう、謝るしか……」

 シシリアは、眉を下げて言ってから、けれども、と続ける。

「バンデール様が、そんなに頑張らなくてもいいように、私には思えるのですが……」

 その言葉に、エリスは「え?」と顔を上げた。

「だって、バンデール様は、魔導院の院生でしたのでしょう? 殿下ならともかく、王国がどうとか、人の人生がどうとか、責任を負う立場ではありませんよね?」

 エリスの涙は、気づけば引っ込んでいた。

 目を見開いてシシリアを見ている。

「あの、間違っていたら申し訳ないのですけれども……バンデール様は、無理をしていらっしゃるのではないですか?」

 エリスは、「無理?」と小さく呟いた。

「ええと、ですから……"エリス・バンデール"という方が、レガリア王国を救ったり、殿下や、エルや、多くの人の支えになるのですよね?」

 シシリアの言っていることがよくわからず、エリスは首を傾げた。

「でも、考えてみてください。殿下やエルはともかく、院生一人で王国を救うなんて、できると思いますか?」

 エリスは、言葉が出ない。

 ゲームでは、あれやこれやとイベントをこなしていくうちに大事になり、結果としてレガリア王国が救われる。

 現実にも、そうなるはず――と思っていた。

「バンデール様が、無理して"エリス・バンデール"という方を演じなくても、レガリア王国のことは王陛下と臣下の皆様が責任を負います。殿下に"逃げ場"とやらが無くなれば……まあ、その時は諦めましょう」

 横で「おい」と半目で抗議したユリアスは、多分悪くはない。

 それに、とシシリアは笑う。

「レガリア王国が滅びてしまったら、それはそれです。――滅びると言えば、先日、帝国の研究所で、起動したら帝国の国土が丸々吹っ飛んでしまう魔具を見たのです! あれ、最悪王国も巻き込まれていたかも? 起動していなくてよかったですね」

 少しずつ気持ちが上向いてきていたエリスは、最後の爆弾投下に頬を引き攣らせた。

 

 それ、王国崩壊の原因のやつ――と。

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