その時に
王都郊外、馬車道から一本外れた林道。
夕暮れの紅い光が、木々の間に細くキラキラと差し込んでいた。
『配置、完了しました』
低く抑えた声が、通信魔法を通じて届く。
ルーファスは頷きもせず、ただ一度、視線を動かした。
――いた。
男が、七人。
うち二人は前方に、残りは林に散っている。
正規軍ではない。魔導庁の人間でもない。
動きが違う。隠遁することに、慣れている。
――血の、臭いがする。
ルーファスの深い海の瞳に、金冠が浮かぶ。
彼の家族だけが、それが怒りの発露であることを知っていた。
『――行くぞ』
静かな一言で、世界が切り替わった。
襲撃者と侯爵家の騎士を取り囲むように、瞬時に結界が張られる。
同時に騎士三人が動く。
包囲されたのは、襲撃者の方だった。
七人の男たちは、一瞬統率を乱したが、すぐに立ち直り騎士を迎え撃つ。
光の筋が飛び交い、金属が激しく打ち合う音が響く。風が音を立てて木の枝を折り、水が鋭く地面を刮ぐ。
襲撃者の一人が、最も軽装なルーファスに狙いをつけて切りかかる。
剣を振りかぶった瞬間に、一気に間合いに入り込んだルーファスの刃が、男の右腕を焼き切った。
勢いをつけて倒れ込む男を、拘束の魔法陣に叩き込み、騎士に短剣を投擲しようとしている襲撃者の足元に魔法陣を展開。地面が急激に隆起して吹っ飛んでいった襲撃者を、騎士が捕縛した。
突然、襲撃者の一人が炎槍を放ってきたが、ルーファスに届く前――どころか、放たれた瞬間に炎はかき消え、周囲に飛び火すらしなかった。
「――なん……だと!?」
男が驚きの声を漏らす。
なおも火球を連続で無秩序に放つが、どれもが無意味に消えていった。
男は気づいた。
仲間の攻撃魔法が見えないことに。
地面に灯る、ごく淡い金の糸に。
それは、瞬きすれば見失うほどの、ごく僅かな――
「――魔封じ……っ!」
ルーファスの瞳が煌めいた。
男の足元から闇色のロープが何本も飛び出して、男の体に巻き付く。
男はたまらず膝をついた。
見渡せば、他の六人は既に捕縛されている。
相手は四人、自分たちは七人。
騎士たちが現れた時は多少驚いたが、すぐに片付けて仕事に取り掛かれると思っていた。仕事の前の準備運動だ。
それが――惨敗。
騎士たちは、強かった。それ以上に、目の前のこの男。白金の髪の貴族を思わせる男は、戦いに赴く雰囲気にはとても思えなかった。それなのに。
初めは攻撃魔法も問題なく使うことができていた。使えなくなったのは、終盤。
戦いの最中、白金髪の男は複数の攻撃魔法や捕縛魔法を使っていた。それと同時に、足元の巨大な魔封じを構築したということか。対象を選別するという機能付きの魔封じを。
意識していてもわからないほど、瞬きすれば見失うほど、薄く、かつ緻密で巨大な魔法陣を、剣を振るい攻撃魔法を使いながらも構築できる人物を、襲撃者の男は知らない。
「――化け物……っ!」
目の前に立った白金髪の男――ルーファスが、冷たい眼差しで男を見下げる。
「――雇い主は誰だ」
男は、ルーファスの瞳に金冠を見た。
その瞬間、海底にいるような圧迫感を感じた。
顔面から血の気が引き、歯の根が合わない。
耳鳴りがして、息が吸えない。
目の前の色が失われた――
地に伏した男を見て、ルーファスは呆れた。
この程度の者たちを、襲撃に使うとは。リュミエラ侯爵家も、舐められたものだ。
ルーファスは、踵を返す。
「全員、地下牢へ。魔導庁より先に、こちらで処理する」
「了解」
騎士たちは魔力による捕縛を頑丈なロープに変え、転移門を準備する。
魔具を設置して扉の鈴を鳴らすと、半円の扉が開けられる。
向こう側にも侯爵家の騎士が控え、襲撃者たちを次々に運び入れた。
扉を閉めて転移門を片付ける。
ルーファスたちは、来た時と同じように馬に乗り、林道を侯爵邸へ戻って行った。
戻る途中で、口論をする魔導庁職員がいたのに気付いたが、わざとらしく無視しておいた。




