お茶会の後に
お茶会が終わり、王妃様が先に戻られたあと。
シシリアは、庭園の小径を歩いていた。
すぐ横に、ユリアスがいる。
(……気まずい……)
並んで歩いているだけなのに、落ち着かない。
さっきから、何を話せばいいのかわからず、足元の芝ばかり見ている。
先に口を開いたのは、ユリアスだった。
「無理に付き合わせて悪かったな」
「え?」
あまりに普通の謝罪で、シシリアは拍子抜けした。
「シシリアの“元婚約者ごっこ”が、やけに可愛らしくてな」
そう言って、口元を押さえて笑いを堪えるユリアスに、シシリアはポカンとしてしまった。
「驚いた意趣返しと――」
ユリアスは、一度言葉を切って呼吸を整えた。
「もう少し、あなたを見ていたかった」
まっすぐシシリアを見つめて、ふんわりと微笑んだ。
シシリアは、何を言われたのか理解するのに苦労した。
ユリアスの柔らかいアクアブルーの瞳が、シシリアの思考を阻害する。
一生懸命状況を把握しようと思うのだが、ぐるぐるぐるぐると、一向にまとまらない。
気づいた時には、ユリアスに手を取られ、二人でベンチに腰掛けていた。
「――気を、悪くしたか?」
顔を覗き込まれて、シシリアはハッとした。
(ちょっと待って。この人、こんな表情する人だったの? あんなことを言う人だったの!?)
婚約期間は十年。会話をした記憶は、ほとんどない。個人的に交流することもなかったし、貴族院ではすれ違う程度だった。そういえば、前にハスの庭でもおかしかったけれど、ここにきて急な方向転換とは、シシリアの頭がついていかない。
とりあえず、何か言わないと、と声を絞り出した。
「――あ、あの……それは、大丈夫……です、殿下……あの……」
なんとか発した言葉に、ユリアスの笑顔が一瞬で消えた。
あまりの表情の変わりように、シシリアは、もう混乱するしかない。
「――ねえ、シシリア。前に言ったよね? 俺の名前は?」
「……え?え?」
「何て呼ぶの?」
「……え?……でん――ユリアス……様?」
「それで? 敬語は?」
「……ごめんなさい」
いったい、何を謝っているのだろう、と疑問に思ったシシリアだが、ユリアスの表情が戻ったのでよしとした。
「他の人がいるときは、俺も我慢するけどね。二人の時は、普段通りでいて欲しい」
何を我慢するのかしら、と思ったシシリアだが、今は余計なことを言わないのが正解だろうと考え違うことを口にした。
「……わかったわ。でも、本当に、他の人の目がある時には、許してね?」
シシリアが下からユリアスをちょっと見上げると、ユリアスは一瞬瞬きをしてから、シシリアの両手を取って少し近づいた。
真正面に、間近に、ユリアスの顔がある。
シシリアは、仰け反りそうになったが、それは王太子に失礼だと思って耐えた。
「――本当だから」
真剣な瞳に、シシリアは目が逸らせなかった。
「“きれいだ”と言ったこと」
落ち着いた声の中に、わずかに熱を感じた。
「もう一度、ちゃんとあなたを知りたい」
風が、木々を揺らした。
「お互いに、一人の人として」
間近にあるアクアブルーの瞳に、吸い込まれそうだと思った。
「俺のことも、知ってもらいたい」
瞳にかかる金の髪が、キラキラと輝いている。
「急がないから」
目の前のアクアブルーの瞳が、ほんの少しだけ笑った。
「会った時には話をしよう」
冷たいと思っていた色に、今は安心を覚える。
「……はい」
胸の奥があたたかかった。




