【短編】召喚シュラン
召喚シュラン視察記 担当:佐藤(偽名・サラリーマン風)
またか。今日で今月三件目の異世界召喚視察だ。
神々のサーバーから「緊急召喚フラグ」が立った通知が来た。急いでいつものように地球人でサラリーマンっぽいアバターに変身。30代後半、眼鏡、少し薄くなった頭髪、ヨレヨレのスーツ。完璧な「ハズレ枠」だ。
ポータル経由でまだ消えていない召喚陣に飛び込む。
転移先はいつもの中世ファンタジー系王国。エルドラ王国という国だ。
玉座の間にポンと出現すると、すでに高校生っぽい四人が並んでいた。金髪美少女、剣道部っぽい熱血、眼鏡っ子賢者候補、オタク陰キャの定番セット。みんなキラキラした目で「ステータスオープン!」とか叫んでる。かわいいね。
一足遅れて到着した私に気がついて、玉座の隣に立っていた魔導師風の男が「あれ?」って顔をしたぞ。
こんなのいたっけ?って様子で、隣の騎士とボソボソ話して、何か指差したりしてる。指差すのは失礼ですよ。
まあ、召喚自体、人を勝手に連れてきてる行為なので指差しのマナーとかの次元ではないんだが。
魔導師が王様に進言してる。
王様は、高校生っぽい四人の召喚に成功して満足げだったのに、魔導師の言葉を聞いてから、私を見て、一度確認するように魔導師を見てから、もう一度私を見た。定時退勤直前に残業頼まれた人みたいな顔になった。
たまにはよいじゃないですか。私は残業なんてしょっちゅうですよ。
騎士が私を手招きする。王様は、どっこいしょって感じにやる気なさげに立ち上がって、玉座の手前に設置された水晶玉のある台座の前に立った。私は、台座の向かい側に立たされる。
で、私の番。王様が水晶玉を覗き込んで、やっぱりな、という顔をした。
「ふむ……スキルなし、ステータス平均以下、職業『会社員』……これはハズレじゃ!」
はい、いつものパターン。学生たちは、王様の声を聞いて、やっと自分達以外に誰か召喚された事に気がついたらしい。
「誰?」「知らないおじさん」とか言っている。
彼らは「勇者」「聖女」「賢者」「盗賊(なぜかSSR)」とか派手な称号もらったらしくて大歓迎されている。一方私は「用済み」扱いで、衛兵に腕をつかまれて城門まで引きずられていった。
「ちょっと待てよ、生活費くらい……」
「黙れ! 能無しが文句言うな!」
暴力はなかった。まあ、そこは評価ポイントだ。
城門の外にポイッと捨てられたのが午後二時。着の身着のまま。完璧な「巻き込まれサラリーマン」演出だ。
衛兵に引きずられていく時、陰キャ君だけ、私に同情的な目を向けていた。
城から追い出された私は、昼下がりの城下の街を見回した。
まずは情報収集と資金確保だ。近くの露店街で羽振りが良さそうな商人のおじさんに話しかける。
「すみません、このペン、買ってくれませんか? 珍品で……。インクをいちいち付けなくても、文字が書けるんですよ」
「ほほう、これは便利な魔法の筆じゃな! そうだな、金貨一枚、いや、金貨五枚でどうじゃ?」
おお、金貨五枚ゲット。見立て通り、羽振りが良いね。今回の活動資金としては十分かな。
古着屋でマントを買って、とりあえず服装が目立たないようにしてから、街をぶらついて情報収集。
夕方、路地裏の居酒屋「ドラゴンズ・ブレス」に入店。木のカウンター、エールは泡が粗いけど香りは悪くない。茹で肉(多分オークか何か)は塩加減が絶妙だ。
カウンターに座って、まず手帳を開く。いつもの黒いモレスキン。表紙には「召喚シュラン視察ノート」と金文字で刻印してある(神界支給品)。
エールを一口飲む前に、ペンを走らせる。
『国名:エルドラ王国
召喚日:現地暦1024年11月10日
評価:★★☆☆☆(星二つ)
コメント:
・勝手に召喚したくせに、巻き込まれた者にスキル一つ与えない。
・生活費すら保証せず、即日追い出し。
・かろうじて物理的暴力はなし。星一つは免れた。
・学生組への特別扱いが露骨すぎる。差別召喚ここに極まれり。
・総合評価:再訪不可。神界ペナルティ対象。』
ふう。書き終えてからエールを飲む。苦味の後に、ほのかなハチミツ風味。悪くない。
実は私、「召喚シュラン」公認視察員だ。
神々が異世界召喚しまくるようになったのはここ500年くらい。最初は「勇者召喚!」でカッコよかったけど、最近は「ステータス見ないで召喚→ハズレはポイ捨て」が横行しすぎて、神界クレーム殺到。で、うちの部署ができたわけ。
役割は三つ。
1. 酷い召喚をした神にペナルティ(召喚権剥奪、最低100年など)
2. 被害者の召喚者達を見守る
3. 適切なタイミングで全員を地球に帰す
今夜、王様の夢に「神のお告げ」が降るはずだ。
『お前の召喚は星二つ。100年間、召喚禁止な! あと、ハズレ扱いしたサラリーマンに土下座してこい!(by 神界管理部)』
学生たちには、私が「謎の協力者」として接触する予定。陰キャ君は、私に同情的な目を向けてくれていたし。他の三人と仲が良いわけでも無さそうで浮いていた。かろうじて「ハズレ」枠でなかったって感じだった。まずは彼から「実は帰れますよ」と囁いてあげよう。
エール二杯目。茹で肉をお代わりして、窓の外を見る。夕焼けが綺麗だ。
異世界って、こんな何気ない瞬間が一番好きなんだよな。
……さて、次はどの神の星を視察に行こうか。
視察、継続中。




