第15話
「おーい、ルカ? だいじょぶ? 寒かった?」
固まって動けない私に、正面に来たリョウちゃんはびっくりするくらいいつもどおりに、額をコンコンしてくる。
「どんだけ待ったの? うわ、冷たっ」
そのまま頬に手の甲を当てられて、びっくりして仰け反る。
「っ!」
「あ、ごめん」
過剰に反応した私に、リョウちゃんは逆にびっくりしてる。
本当に、いつもどおりのリョウちゃんだ。
何だか安心してしまって、体の力が一気に抜ける。
拒否されるかもしれない、という私の不安は、もしかすると全くの的外れだったのかもしれない、と思えてきて、何だか笑えてきた。
へへへっと突然笑い出す私に、リョウちゃんはどうしたの? と首を傾げる。
ぶ厚めの冬物ロンTにマフラー、バギージーンズ姿のリョウちゃんは、相変わらずカッコイイ。
「寒いからさ。どっか入ろうよ」
リョウちゃんは自然に私の手を取って、歩き出す。
ここでも過剰反応しそうになって、いやいや、いつもどおり、いつもどおり、と無理矢理平静を装って、手を引かれるままに歩く。
(なんか、カップルみたい)
駅の構内を出て、寒い外を歩きながら、手で繋がれている一歩前のリョウちゃんの背中をボーっと見つめる。
周囲には仕事帰りのサラリーマン、学校帰りの学生、年配の夫婦など、普通の外見の人たちが、普通の表情で歩いている。
私たちも、普通の学生のカップルにしか見られていないんだろう。
きっと、私の顔はこれ以上ないほどに紅潮してるだろうけど。
リョウちゃんが振り向く前に、元に戻しておかないと。
そんなことを考えながらも、高揚する気持ちを抑えられない。
リョウちゃんのことが好き。
好きすぎてたまらない。
その言葉を、簡単に言うことが出来たら――――。
「ここでい?」
少し歩いて、リョウちゃんが立ち止まる。
見ると、目の前にファミレスのチェーン店があった。
すぐ近くに駅が見えるから、そんなに距離は歩いていないはずだけど、緊張からかすごく遠く感じた。
私は赤い顔を見られていないか気にしながら、コクリと頷く。
店内は暖かかった。
いらっしゃいませーっという店員さんの元気な声が響く。
少し混んでいたけど、すぐに二人用の席に案内された。
二人でドリンクバーと料理を注文しようと、スマホを出す。
そこでハッと気付いた。
お金がかかるけど、お店に入って良かったのか、と。
さっきは手を繋いだ衝撃でボーっとしていたから、気が回っていなかった。
リョウちゃんは機嫌良さそうに、メニューを見ている。
「気にしなくていーよ。俺が出すから」
心を読まれたのかと思うほどにタイミング良く、リョウちゃんは私の方をチラリと見ながら言った。
「え? ……う、ううん。自分の分はちゃんと出すよ」
「いいって」
「そんなわけにはいかないよ。私もお金は持ってるし」
「いやいや俺にカッコつけさせて? 年下の女のコにファミレスで奢ることも出来ないってカッコわりぃから」
眉を傾けて笑うリョウちゃんの言葉に、不謹慎にも思ってしまった。
それは、どこからのお金なんだろう?
――――と。
(最低だ、私)
せっかくリョウちゃんが奢ってくれると言ってるのに、そんなことを真っ先に考えてしまうなんて。
意思に反して、リョウちゃんの部屋のテーブルの上に、無造作に置かれた茶色い封筒が頭に思い浮かんでしまう。
それでも「ありがとう」と言って、何とか平静を装ってスマホを操作して、小さめのグラタンを注文した。
注文が終わると、リョウちゃんはいきなり切り出してくる。
「『話』ってなんなの?」
飲み物を口にしていたら、漫画のワンシーンのようにぶっと吹き出してしまっていたかもしれないほどに、その一言で私は激しく動揺した。
告 白
の二文字が、頭に刻印されたように急激に浮かび上がった。
「えっ!? ……あ、あ、ああ! た、大したことじゃないの! ご、ごめんね、こんな遠いところに呼び出したりして」
待ち合わせの時の精神状態に逆戻りしたように、しどろもどろになって、無意識に髪を耳にかけては、目線をリョウちゃんの目を見ないように別のところへ逸らす。
もう。挙動不審すぎる。
普通にしなくちゃいけないのに。
「この前のこと?」
私の方をじっと見ているのだろう、リョウちゃんの視線を感じる。
でも気まずくて、目を合わせることはどうしても出来ない。
「警察に言わなかったんだね。俺たちのこと」
――――“俺たち”。
やけに、そのワードが引っかかった。
思わず、脳裏にサヤカさんの顔が思い浮かんでしまった。あの綺麗な造形の顔。
また急激に気持ちが沈んでいく感覚が止められない。
なんで、リョウちゃんの一言一言に、こんなにも心を揺さぶられるんだろう。
大して意味を持たない言葉かもしれないのに――――。
もう、本当に疲れる。
「うん……言わない方が、いいかなと思って」
少し沈んだ声で言ってしまった。
「あの時は本当にごめん。怖かったよね? あれから、何ともない?」
私はコクリと頷きながらも、内心は何でリョウちゃんが謝るんだろうと思っていた。
それは、サヤカさんのしたことは、自分にも責任があると思ってのことなのか、なんて邪推してしまう。
内心モヤモヤしながらも、あれからお母さんに送迎をしてもらうようになったから、大丈夫だということを伝えた。
リョウちゃんは、『話』の内容はあの倉庫でのことだと思っているんだろう。
(やっぱり告白なんて、夢のまた夢だ)
そう思った時、唐突に綾音の言葉が泉のように湧き上がってきた。
『じゃあサヤカさんにとられて終わり、だね』
とられて、終わり……?
それも、嫌だ。
同時に頭の中に、リョウちゃんとサヤカさんが寄り添い合う画が現れる。
サヤカさんは、リョウちゃんの首筋に手を回しながら、こちらを見て不敵に笑っている。
私はテーブルの下で、ギュッと拳を握りしめる。
握った拳が震えて、何だか自分のものじゃないみたい。
それから、何かに突き動かされるように、口が動いた。
「リョウちゃんの別れた彼女って……サヤカさん?」




