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9 目玉焼きなら作れます!

 翌朝。


 俺はキッチンに立ち、朝食の準備をし始めた。


 エイラとカイルが加わり、ここ数日でミレナは一気に賑やかになった。

 宿屋で働き始めて数ヶ月。2人の後輩もできて、そろそろ自分も何か得意分野を作って主戦力にならねばと思っていた。


 それに、元の世界に帰る方法も探さないとな。


 当初はここで働きながら帰る手段を探すはずだったのに、ミレナでの暮らしが平和で幸せすぎて、元の世界のこと思い出すこともなくなっていた。


 ミレナを訪れた宿泊客が笑顔になって帰っていくのを見るのが、今の1番の生きがいになっている。


 元々俺の両親は早くに亡くなっていて、兄弟もおらず、結婚もしていない。元の世界に戻る理由もないかもしれないとは思いつつ、自分がこの世界に来ることになった理由はわからないままだった。


 ……まずは情報収集からだな。


 そのためにも、宿の仕事を完璧にこなすことは欠かせない。俺はキッチンで気合いを入れ直す。


「ふふ、頑張ってくださいね」


 エルさんが声をかけてくる。今日もふわふわの毛並みを揺らして、ご機嫌そうに紅茶を淹れている。


「じゃあ今日の朝ごはんは、目玉焼きにトースト、それから…あ、サラダもつけたいな」


「ねえ、それくらいなら僕でもできるよ!」


 キッチンの下からひょっこり顔をあらわしたのは、カイルだった。目をキラキラさせている。


「本当に……?」


「おうちで何回か作ったことあるもん!」


 自信満々である。

 というか、未成年の素人に宿泊客に出す料理をさせてもいいのか?

 かくいう俺も素人なんだけどさ。


「大丈夫ですよ、この世界では資格だとかは不要なので。味さえ美味しければ問題ありません」


 俺の思考を読んだかのように、エルさんが口を挟んでくる。


「じゃあ、目玉焼き任せていい?」


「やったー! 任せてよ!」


 カイルがフライパンを握り、勢いよく卵を割――


「うわっ! 黄身が、消えた!?」


 卵を割る瞬間、なぜか中身が天井へ跳ねた。

 一向に落ちてこない。


「……天井に張り付いてますね」


「こ、この卵、魔力に反応したとか!?」


 エルさんはくすくす笑いながら、水魔法と風魔法であっという間に天井を綺麗にした。


「そういえば、魔法があるのにどうしていつも箒とかモップを使って掃除してるんですか?」


 ふと気になったことを聞いてみる。


「魔法は、使いたくても使えない人がたくさんいるんです。お客様を不快にさせてしまうことのないように、ふだんから自分の手で掃除することに慣れさせているんですよ」


 そんなことまで考えていたのか。

 今は誰もいないし朝食まで時間もないからやむなし、というわけか。


 身支度を整えたエイラも合流する。


「……もう一回! 今度は大丈夫だから!」


 カイルは汚名返上に燃えている。なんか失敗しにくいのあるかなぁ。


「……よし、じゃあトースターでパンを焼いてもらってもいい?」


「うん! 任せて!」


 カイルが手をかざすと、トースターがぶるぶる震え出す。


「ん? ちょ、まっ――」


 バチッ!


 トースターが、消えた……?


 棚の中や部屋中を何度確認しても、どこにもトースターが見当たらない。闇魔法か……?

 まさかカイルまで魔法を使えたとは……


 エイラは呆れて何も言えなくなったのか、呆然とトースターのあった場所を見つめていた。


「ご、ごめんなさい!!」


 カイルが申し訳なさそうに目に涙を溜める。

 そして、フライパンの上には、黄身を失った白身が鎮座し、煙をあげている。トースターは、なぜか俺の部屋のベッドの下から見つかった。カオスである。


「ふふ、楽しいですね」


 結局、エルさんがササッと朝食をつくりなおしてくれた。手際のよさと香ばしい匂いに、全員がうっとりする。


「……やっぱり、プロは違うわね」


「ボクもあんな風にできるようになりたいなぁ」


「では、明日から一緒に作ってみましょう」


 エルさんの提案に、俺たちは顔を見合わせた。エルさん、心広すぎだろ……


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