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18 エイラの居場所

 そのあとの帰り道は、なんとなくいつもよりもみんなの声のトーンが数段明るかった。


 エイラの表情も晴れやかだったし、エルさんもずっとニコニコしていた。カイルは途中から「エイラが帰ってきたパーティーをしよう!」と張り切り始め、宿に戻るなり、厨房に飛び込んでいった。


 とはいえ、夜も遅い時間だ。さすがに盛大な宴はできない。


「じゃーん、スープ温めた! パンはちょっと焦げたけど、見た目より気持ちが大事なんだって、エイラが言ってた!」


「そんなこと言ったかしら、ふふ」


 エイラが笑うから、思わずみんな笑顔になる。


 食堂に並んだのは、スープとパンと、エルさんが魔法でふわっと温めたミルクティー。質素だけど、ほっとする香りがして、なんとなく心が緩む。


「いただきます!」


 エイラが小さく「いただきます」と言ったその瞬間、俺の中で何かがストンと落ち着いた気がした。


 ああ、これだ。


 この空気。


 エイラがいて、エルさんがいて、カイルがいて、俺がいて。なんてことない夜ご飯を、一緒に囲んで笑ってる。そんな普通の時間の尊さに、あらためて気付かされた。


「そういえばエルさん。そのTシャツ、まだ着てたんですね……」


「いやぁ、意外と着心地がよくてね」


「毛が突き破ってるんですよ。腕とかムキムキのファンタジーの戦士みたいになってますよ」


「よし、マッチョ店主として名前を売ってみようか」


 なんで満更でもなさそうなんだよ。


 全員で顔を見合わせて吹き出した。

 エイラも笑っていた。くしゃっと、屈託のない笑顔で。


 ***


「エイラが作ったパン、うまっ……!」


 翌週。

 朝食用のパンをつまみ食いしたカイルが目を丸くしていた。


「店長に教えてもらったの。私もやればできるのよ」


 エイラの鼻の下が伸びているのが見える。


「うおー、エイラすごい!」


 カイルの無邪気な声に、エイラは少し照れくさそうに微笑んだ。


 朝食がひと段落したあと、エイラはエプロン姿のまま、厨房の棚を整理していた。

 かつてのような忙しない動きではなく、ひとつひとつを確かめるように、丁寧に確認している。


 俺が覗き込むと、エイラが小さくつぶやいた。


「……この宿って、食材のストックがちょっとずつずれてるわよね」


「え……そう? たぶん俺とカイルがよく間違えて使っちゃってるから……」


「どうせそんなところだろうと思ったわ。大丈夫、誰でも管理できるように一覧にしてあげる」


「おお、それは助かる……!」


「それに、ここでなら、いつか自分の料理をもっといろんな人に食べてもらう練習もできるかもしれないって思って」


「ん?」


 思わず手が止まる。


 エイラが、少し恥ずかしそうに笑った。


「わたくし、最初は『逃げてきた』と思っていたけど、今は『ここから始めたい』って思えるようになったの。だから料理のこと、もっと学びたくて」


 料理、か。


 確かに街のカフェでも厨房だったし、たまにおっちょこちょいだけど、もともと手先は器用だったし。

 今朝のパンだって、宿泊客から大好評だった。


「エイラが作った料理で、宿に来た人たちがまた来たいって思ってくれたら、すげえ素敵だな」


「……そうなったら嬉しいわね」


 エイラは少しだけ頬を赤らめた。


 彼女は自分で人生を切り開き、新たな一歩を踏み出した。次は俺だな……

 

 もう元の世界に未練はなかった。


 だけど、なんで俺が異世界転生をすることになったのかは、知らないといけない気がしていた。

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