15 届いた手紙
裕也視点に戻ります!
「お届け物でーす!」
鳩の郵便屋が、茶封筒を咥えて宿の裏口に現れたのは、ちょうど朝食の後片付けが終わった頃だった。
エルさんが「ありがとう」と封筒を受け取る。
差出人の名前も、宛名もない。
誰に宛てた手紙かわからなかったので、俺たちは3人で封を切った。
そこには、どこか見覚えのある筆跡が。
「……読んでも?」
エルさんの問いに、俺とカイルは同時にうなずいた。
***
親愛なる皆様へ
突然、何も言わずに姿を消した非礼を、どうかお許しください。どれほどご心配をかけたかと思うと、胸が痛みます。
本当は、きちんとご挨拶をして出ていくべきでした。けれど、あのままでは、きっと私は前に進めなかったと思うのです。
私には、婚約者がいました。上手くやれていると思っていたのですが、それは私だけで、婚約者にはずいぶん前から愛人がいたようです。母は、彼の浮気を肯定しました。私は何を信じていいのかわからなくなり、家を飛び出して逃げました。
そんな時、皆さまに出会いました。3人の優しさに、どれだけ救われたか分かりません。だからこそ、甘えてはいけない、逃げたままの自分ではいけないと、そう思ったのです。
今は家の領地にある、小さなカフェで働いています。はじめは失敗ばかりでしたが、少しずつ仕事にも慣れてきました。ここで働いて情報を集めながら、これからのこと、家族のことにも向き合っていきたいと思っています。
あの宿で過ごした日々は、わたくしにとって宝物です。皆さまに出会えて、本当によかった。
どうか、どうか、お元気で。
心からの感謝を込めて。
エイラ
***
静かに、手紙がテーブルに置かれた。
言葉にできない思いが込み上げる。
「……とりあえず、無事でよかったよね」
カイルの小さな声に、俺もふぅと息を吐いた。
「本当に、あいつらしいな。何も言わずに出て行って、でもちゃんと筋は通してくる」
「……でもさ」
カイルが、まっすぐ前を見て言った。
「エイラが逃げなきゃいけないなんて、おかしいよ。僕、やっぱり許せない」
同じ気持ちだった。
俺が声をかけようとするのと同時に、エルさんがぽつりと呟いた。
「ライラック侯爵家、ですね」
「え、今なんて……?」
「ライラック家。かつての勇者の血筋を継ぐ名家で、エイラのご実家です」
エルさん、知ってたのかよ。
「魔力の気配でなんとなくわかりますよ」
「やっぱり! あそこの人たち、なんか胡散臭いんだよ!」
俺の反応に反して、カイルの声が弾けるように響く。
「僕、行く! エイラの家に行って、ちゃんと言ってやるんだ! 逃げる必要なんてなかったって!」
「お、おい、待てカイル! 場所も知らないだろ!?」
「知ってるよ、僕、去年一度だけ行ったことある」
カイルが家の場所を知っているとは思わず、エルさんと俺は目を合わせた。
「とにかく、行く!!」
小さな体がものすごい勢いで立ち上がり、さっそく宿を出ようとする。
エルさんが小さくため息をついて、にこりと笑った。
「放ってはおけませんね。準備をしましょうか」
「マジで行くのかよ……いや、行くしかないか」
俺も覚悟を決める。
こうして、エイラを迎えに行くため、俺たち小さな旅が始まった。




