11 ピンクの洗濯地獄
「ふふん、洗濯くらい、わたくしに任せてちょうだい」
ある晴れた朝、エイラは腕まくりしながら洗濯籠を抱えていた。洗濯場に並ぶシーツやタオルを見て、気合十分である。
「……エイラって洗濯できたっけ?」
俺が遠慮がちに聞くと、エイラはぴしゃりと手を振った。
「できるかできないかじゃなくて、やるのよ!」
「いや、それできない人の言い分なんよ……」
「うるさい!」
カイルの目玉焼き事件が頭をよぎり、嫌な予感がした。
エルさんは後ろで、毛繕いをしながら優雅に見守っている。
「まぁまぁ、経験も大切ですからね」
エイラは洗剤らしき小瓶を取り出し、勢いよくドボドボッと投入。
その瞬間、洗濯槽がぶるぶる震え出し、バチン!と軽い音が鳴った。
「なんか…光った?」
「魔法を使ったときみたいな感じだったけど……いや、でもただの洗剤――」
ズゴォォォン!!
謎の蒸気とともに、洗濯機から吹き上がる泡。
それとともに、干し場にかけられていたタオルとシーツが――
「「ピ、ピンクになってるーっ!?」」
まるでどこかの夢カワショップみたいに、宿の洗濯物が見事にピンク一色に。
洗濯機の目の前にいたエイラの服も、例外ではなかった。白のエプロンは淡いピンク色になり、水色のワンピースと真っ白の靴下は、蛍光ピンクになっている。まるで原宿にでもいそうな感じだな……
「ど、どうしてこんなことに……」
「これ、ただの洗剤じゃなくて『魔法色素付き芳香洗剤(乙女の香り)』って書いてるけど」
小瓶を手に、ラベルを読み上げる。
効果は1週間らしい。
「お洗濯が楽しくなる、乙女のための可愛いカラーに変身!だってさ……」
「こんなの誰が買ったのよ!」
「僕じゃないよ!? 街に行ったことないもん!」
確かにそうだ。街へ買い物に行くのは、ただ1人。
3人の視線が、エルさんの方を向いた。
「新作魔法、と書いてあったのでつい……」
エルさんが気まずそうに目を逸らす。
「うう……わたくし、やっちゃったかも……」
エイラは涙目でピンクのシーツを握りしめた。
だが、その日の午後。
「わあ、このタオル可愛い!」
「お花の香りもするわ」
「まるで夢の国に来たみたい!」
この日、宿に泊まりに来たのは、3人組の獣人の少女たち。猫の耳と尻尾が生えている。
年頃の彼女たちに、ピンクのシーツは、まさかの大好評だった。
「宿があるって噂を聞いてからずっと来てみたかったのだけど、片道2日かけて頑張って来たかいがあったわ!」
片道2日!?
おいおい、1番近くの街、そんなに遠いのかよ。
彼女たちが獣人だから、一般人の倍の速さでミレナに辿り着いていることを俺が知るのは、まだ先のことだった。
「いいでしょう、わたくしのセンスよ。もちろん偶然じゃなくて、計算だけどね?」
「めちゃくちゃ動揺してたくせに…」
エルさんはクスクス笑いながら、今日も紅茶をふるまっていた。
こうして、ミレナの洗濯場はしばらくふんわりピンク仕様になるのであった。




