幸せの花
二ヶ月ぶりの投稿になります。
もう少したくさん書けるといいな。
青い空と海、白い雲と砂浜。
海辺で寝ころびながら本を読んでいる。
久しぶりの休日である。
ゆったりした気持ちでいたところ、急に呼び出しがかかった。
知り合いのS警部からだ。
「悪いが急用だ。すぐにこちらに来てくれ」
「どうしたんですか。こっちは休みですよ」
「すまん、色は付けるから」
なんだかわからないが困っていることだけはわかる。
私は文句を言いながら帰り支度を始めた。
町に戻って警部から話を聞いた。
最近よくわからない昏睡患者が増えだしたという。
病気でもなく麻薬の線もない。
前の日までは元気だったのに急に昏睡してしまうということだ。
患者は皆寝ているので聞き取りもできない。
患者の家や写真を見せてもらったが、そこから何かわかるということもなかった。
ただ、
「花かあ」
どの家にも花瓶に花があった。
種類はばらばらだ。
「調べましたが普通の花でした」
N刑事が説明した。
自動販売機で買った紅茶を飲みながら内心頭を抱えていた。
探偵に頼りたくなるのもわかるが、今回それで解決するとは思えなかった。
「まいったなあ」
ほとほと困っていたところ、ふと不思議なにおいとかすかに鈴の音のようなものが聞こえた気がした。
音と匂いをたどって路地裏を歩いていくと、そこは行き止まりだった。
そして赤い服の少女が立っていた。
「あなた、気分がすぐれないようね。元気になるようにこの花をあげるわ」
少女は花を差し出す。
その心地よい香りに触れたとたん、背筋に電流が流れたような感覚に襲われた。
気を取り直し、そしてなるべく匂いを吸わないようにして少女に語りかけた。
「お嬢さん、ちょっと聞きたいんだが。この花、この世界のものじゃないよね」
少女はびっくりした顔で、
「どうしてわかったの?」
と言った。
聞くと少女は異界の人間で、この世界に幸せの花を広めようとしていたらしい。
「何故私が異界の者だとわかったの?」
「ただの勘だ」
ほんとに。
この花は与えられた人を幸せにするということだが、この世界の人間にとってその効果はきつすぎたようで、その反動で寝込んでしまったということらしい。
前の日まで元気だったというのはそういうことか。
どうしよう、この子を警察に渡しても解決にならないし、だいたいそんなことをするのはかわいそうだ。
そんなことを考えながら少女と話をする。
とりあえず患者は魔法で目覚めさせて、今後は幸せの花を配らないことで話はまとまった。
私の方は成功報酬がもらえなくなるだろうが、少女は何か補償すると言ってくれた。
まあ、そんなに期待していないが。
患者の人たちに少女の魔法をかける。
朝になれば自然に目覚めるとのことだ。
幸せの花もその効力は既に消えているからそのままでも問題はないらしい。
「あなたのおかげでこの世界の事がだいぶわかったから、次は大丈夫な花を持ってくる」
「いや、無理に幸せを運ばなくてもいいんだが・・・」
「報酬の事もあるからまた来る。じゃ」
こうして少女は異界へと帰っていった。
あくる日、警部たちから患者が目覚めたことを聞いた。
その後しばらくしても新たな事件は起こらず、S警部はとりあえずほっとしたようだった。
N刑事は、
「探偵さんに相談したとたんに解決した。何かご存知なのでは?」
と突っ込んできた。
君のような勘のいいガキは嫌いだよ。
「そんなわけあるか」
と突っぱねておいた。
次の年。
今度は邪魔されずに休めるだろう。
青い空と海、白い雲と砂浜。
そのとき、かすかな鈴の音が聞こえた。
「やあ」
あの少女が立っていた。