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誤植を駆除(物理)する話

作者: 星見守灯也
掲載日:2023/12/03

「誤植だ! 誤植がでたぞ!」

「手持ちの原稿を避難させろ! 急げ!」

「なに、誤植だと!? 消誤植剤はあるか? 校正さんは?」

「それが大量発生していて……手に負えません!」




 ということがあったのだそうだ。なるほど、いつもどおりの仕事だった。

「どうも、誤植駆除者のファーネです。こっちはリード」

「おまかせください」

 我々は誤字脱字、いわゆる誤植を駆除する業者だ。

 活版がほぼ消えた今でも五色と呼ばれている。

 ん? ……やっぱり誤植が発生しているようだ。


 誤植は文字から生まれる。

 手で書いたり打ち込んでから印刷されるまで……その情報(データ)から生まれる。

 人の目の届かない瞬間にそれらは生まれ、増えていく。

 客にとっては頭の痛い話だろう。増えると校正でも手がつけられなくなる。


「では消誤植をしてから外に出てください。誤植を広げないように」

 リードが消誤植剤をふりかけている間、ファーネは誤植の山と化した部屋を見回した。

「とりあえずパソコンのネット回線は切ってもらった」

「発生原因は……パソコンですか? 誤植のある書籍から移ったものですかね?」

 ふむ、とファーネは置いてある本の束を見た。あれから原稿に飛んだか?

「さてな。とりあえず防誤植剤をまこう。これ以上、増えられると面倒だ」

 部屋の隅から隅までに防誤植剤を噴射していく。

 これは誤植を消すことは出来ないが、被害を抑えることができる。

 残った原稿にもふきかけ、これ以上の誤植がでないようにする。


「『忠犬死ね』? ……ああ、『忠犬死ぬ』の誤植か」

 原稿に防誤植剤を散布する間、どうしても誤植が目についてしまう。

「『イカに座って本を読んでいた』……イカ? ああ、イスか」

 ファーネはパソコン上のデータにも防誤植ワクチンを入れていった。

「『もろちんだ』。……そんな堂々と言われても」

「リード、誤植を読むな」

「はい」

 こっちは「いじめ推進条例」。推進するな。

 「いじめ防止対策推進条例」の「防止対策」が落ちたらしい。

 文字がある限り、絶対に誤植は生まれる。

 けれど、増えすぎると何が本当かわからなくなる。

 数字や固有名詞の誤植は致命的にもなるのだ。

「寄生虫の事故……帰省中だろうな、これ」

「わかりやすい誤植なら助かるさ」

 パソコンの原稿を見ながらファーネが答えた。


「おそらく、このデータの誤植が増えたんだろう。印刷されて紙にも移った」

「紙からデジタルデータには移りにくいですものね」

「私はパソコン全てに消誤植ワクチンをいれる。おまえは吸って減らしておけ」

「はいはい」

 ファーネが作業している間、リードはハンディ掃除機ようなものを誤植に向けた。

 これで多くを吸い取る。ずぞぞぞぞぞ……。

 原稿から黒いインク染みみたいなのが出てくる。これが誤植だ。

 吸った後の原稿を見れば、あちこちに抜けができていた。

 この空白、全部誤植だったのか。


「パソコンはおわり。消誤植剤をたいたら全部おしまい」

 部屋を締め切ってもくもくと消誤植剤をたく。

「ああ、ありがとうございます。助かります」

 部屋の外に出たファーネとリードに声をかけてきたのは依頼主だ。

「ニ階のこの部屋だけでいいですかね?」

「……失礼、誤植が」

「なにを……」

「それはカタカナの『ニ』だ!」

 ファーネが叩くなり、セリフから『ニ』が飛び出してきた。

「逃げた!」

「リード走るな! 誤植が舞いあがる!」

「え!? どうすれば……」

 リードが立ち止まると、誤植も止まった。そのまま床に張りついている。

「ああ……廊下には、ねばねばのシートが敷いてあったんですね」

「そう、誤植ホイホイだ。他の部屋に飛ばないうちに駆除するぞ!」



「はい、今日のお仕事終わりー」

 ファーネが大きく伸びをした。

「結局、外部のライターさんがデータとして持ち込んだみたいですね」

「んーまあ、どこでも出るからね、あれ。仕事がなくならないようでなにより」

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