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ブーゲンビリアの花は砂漠には咲かない  作者: 六人部彰彦


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34 そして、二人で

 王都に戻って来て、私達の馬車は直接王宮へ向かう。

 コーネリアは王宮治療院へ入り、暫くの間検査と治療を行うからだ。


 王宮治療院に入った日、コーネリアにはまずは眠って旅の疲れを癒してもらう事になった。

 彼女は治療院のベッドに横たえられ、すぐに気分の落ち着く香りのするハーブティーが出される。

 彼女は一口だけ飲んだが、すぐに目がトロンとし出し、やがて眠ってしまった。


 リョナともう一人、村から随行したハンナと言う女性に付き添ってもらう。

 私はヘリンと共に陛下の執務室へ報告に向かった。



 人払いをして貰い、私とヘリンで陛下へ報告する。

 カダイフ氏族のオアシス近くの岩山、そしてオアシスでの出来事には、陛下も悲痛な表情を見せた。


「あの秘技は元々、姉の仇を討つために妹が編み出したという逸話があり、一族の女性達を守る象徴であったようです。それが、五十年前の帰属の際に、元々の意義を拡大解釈して振るわれました。今度は……氏族長は妹リューラを人質に取ってコーネリアを脅し、一度曲げた意義をもう一度曲げて振るえ、と迫ったそうです」


 私の報告に、陛下は溜息を吐いた。


「曲げられた意義を、本来に戻す為……ルピア殿は、秘技を氏族長に振るい、刺し違えたと」

「はい、それと……秘技の伝承を終わらせ、これ以上政治的に秘技を利用されなくして……コーネリアを、氏族への義務から解放する為、というのもあると思います」


 そう言って、私は陛下の問いに答えた。


「それで、和解案にはどのくらいの者が乗ってきそうだ」


 陛下が問う。


「およそ二千人の氏族のうち、かなりの人数が入植を希望すると思います」


 ヘリンが答えた。


「氏族と王国民、お互いに歩み合える者だけを入植者として求める、と……要約すればそんな物ですが、ファルネウス様の演説で、向こうの氏族達には涙する者が多かったのです。ファルネウス様は、なかなかの名演説を披露してくれたと思いますよ」

「止してくれ。あれは氏族長を他の者達から分断しようと必死だったのだ」


 ヘリンのべた褒めに恥ずかしくなって、言い訳をした。


「入植地で入りきらない場合を、考えなければならんか」

「必ずしも、開墾作業に絞らなくても良いでしょう。商人や職人への適性を示す者、外科技術に長けた者など、色々な職種適性があるでしょう。近隣の、ハーウェルやジャッタンと言った街で働きたい者もいるかも知れません。既に人が住んでいる地域でも、人が足らなければ彼等に手を貸して貰っても良いでしょう。その辺は、周辺住民との話し合いも必要かと思います」


 陛下の呟きに、私が思った事を答える。


「いずれにせよ、地道な話し合いが必要か。以前の入植には、欠けていた部分だな」


 私は陛下に頷いた。


「それと、陛下にお願いが一つ……彼等が大麻を栽培する事に対する、条件付きの許可を」

「……どういう、事だ?」


 私のお願いに、陛下が疑問を呈する。


「大麻だから一律禁止、と言う措置では……カダイフ氏族が持っていた文化を、否定する事になりかねません。彼等には、大麻草から繊維を抽出して衣服などを作るヘンプ織という技術があります。ヘンプ織では、危険な薬効成分が含まれる花弁などの部位は使用しません」


 陛下は私の説明に聞き入っている。


「ヘンプ織で作られた衣服は風通しが良く、暑い気候でも比較的過ごしやすいという特徴があります。砂漠で暮らす氏族達の知恵ですが、旧フラーベル子爵領もこちらと比べるとかなり暑く、ヘンプ織の衣服は重宝される事でしょう」

「なるほど……こちらに染まれと迫るのではなく……相手の良い部分を認め、互いに歩み寄れ、と」


 陛下は頷いた。


「彼らなりの良い点を積極的に取り入れ、王国の文化と取捨選択され、混ざり、より良いものへと生まれ変わる……そんな地にする為には、自分達と違う文化を否定しない事が大事だと思います。勿論、危険な物は排除すべきです。例えば大麻草も、薬効成分が取れる部位は、王国が買い取って廃棄処分にする前提で認めるとか」


 しばし、陛下は考え込む。


「分かった……王太子や大臣達とも相談してみよう。氏族の入植については、お主やコーネリア嬢にも、今後とも意見を頂きたい」

「了解しました」


 私は陛下に頭を下げた。


「ともあれ、長きにわたる巡検使の任務、カダイフ氏族との予備交渉、ご苦労だった。報告書も受け取った。これにて、ファルネウス・ルハーンの巡検使の任、予備交渉団の団長の任を解く。この功は、どのように報いるかは考えさせてくれ」


 漸く巡検使の任を解いて頂けた。

 重い肩の荷が、やっと下りた気がする。


「……家への褒賞は、今のところお止め頂けますか」

「わかっておる。オラトリオには、まだまだ罰が足らんからな」


 私のお願いに、陛下はにやりと笑った。



 王宮治療院へ入院中のコーネリアには、多くの見舞いの者が訪れた。


 最初は、陛下と王太子殿下だった。

 陛下達は、ルピア様への御悔やみとコーネリア自身に対する謝意、そして……コーネリアが入院中の為に略式ではあったが、今までのカダイフ家としての貢献と、秘技の使い手だった彼女への敬意を含め、コーネリアを『アリシェ一代法衣伯爵』に任じた。

 法衣伯爵とは、領地を持たない爵位。それに彼女一代限りと言う制限を付けての授与だ。名前は、王国民と氏族の融和というアーリシア様の願いを受け継ぐ意味で、彼女の祖母より拝借した。

 これで、彼女は王国貴族としての爵位を持つ。

 つまり、私と結婚できる立場を、陛下達は用意してくれたのだ。


 またこの爵位によって、彼女には毎月俸給が支払われる。亡くなったルピア様や、辞退したリューラ嬢の分も含めた3人分の俸給額だそうだ。

 この俸給を使って、入植した氏族達の援助がしたいとコーネリアは喜んだ。


 コーネリアが爵位を得た同日、私達は婚約届を提出した。

 私が断りも入れず提出したことに父は後で怒り狂ったそうだが、後ろ盾になって頂いた陛下から一喝され黙り込んだ。



 次に訪れたのは、チェンとフェイファの兄妹だ。

 彼等は既に学院を卒業していたが、この国で研究を続ける為、五年を限度という許可を母国から貰って王立研究院へ就職したのだ。

 特にフェイファは、コーネリアの事をとても心配していて、治療院で彼女の姿を見た時には泣き崩れる前に私を怒鳴り倒した。


『何で、ファルネウスが付いていながら、コーネリアがこんな事になってるのよ!』


 私は黙って彼女に怒られ、コーネリアはフェイファを宥める役に回った。


 そんな二人の存在が、コーネリアの回復への大きな手助けとなった。

 チェンとフェイファは、『アンモー』と帝国語で呼ばれる、体の歪みを矯正したりする母国アジェン帝国の民間技術に詳しかったのだ。

 二人はコーネリアを触診して体の歪みを見つけ出し、マッサージによって徐々にその歪みを矯正していく事で……半年が経つ頃には、随分と回復を見せるようになった。


 まず、帰って来た直後に比べて、幾分流暢に話せるようになった。

 次に、腕が、脚が……徐々に自分の意思で動かせるようになった。

 それによって、歩行のリハビリも、始められるようになった。

 ただ、手の指の矯正にはまだまだ痛みが多く、指を動かすのは時間が掛かるらしい。



 次に、医学薬学課程で共に学んだ、チェンとフェイファ以外の留学生達。

 一部は国に帰っていたが、チェン達と同じように期限付きで滞在延長している者達が見舞いに来てくれた。

 彼等も、彼等なりの独自視点でコーネリアの症状を確認し、推論した。チェン達程の直接的影響は少なかったが、彼等の視点は王宮治療院の医師達を刺激したようで、新たに得た観点を他の患者に生かすなど、更に王宮治療院のレベルを上げる事に貢献したようだ。



 領地経営課程からは、ハルトが頻繁に見舞いに来てくれた。

 ハルトの領地から攫われた者は、やはりダーウェンまで拉致されていた。

 彼は麻薬こそ投与されていなかったものの、両足の腱を切られ逃げられなくされていたらしい。

 彼の領地では今、その彼の両足の腱を復活させる研究が行われているそうだ。


 今のところ有力なのは、別の動物の腱を移植する方法。

 まだ小動物での実験段階で、先は長いとハルトは言う。

 血生臭い話題にリョナもハンナも顔を顰めていたが、そこは私もコーネリアも医学薬学課程で学んだ者。二人を他所に、三人でこんな話題でも談笑していた。

 普通にこんな話題を話せるハルトは、医学薬学課程に入っていても高成績を出していたに違いない。


 ちなみに、ハルト以外の領地経営課程の同級生は、コーネリアを蔑んでいた手前、今更顔を出せない様だとハルトは言っていた。



 忙しい中、御祖父様も彼女の見舞いに来てくれた。

 御祖父様は、お見舞いとルピア様の御悔やみ、そして私との婚約に対する感謝を述べていた。

 コーネリアには、私の出生の秘密をまだ話していないが、結婚する前のどこかのタイミングで話そうと思っている。


 一方、婚約を父に手紙で報告はしたが、父は一向に彼女の見舞いに来ない。

 父がコーネリアに会うのは結婚式だろうか、と思ったが、御祖父様は『あいつは、お前の結婚式にも来なかったりしてな』と溜息を吐いた。

 流石にそんな事は無いと思うが……そう、思いたい。



 コーネリアを連れて、王都へ帰って来てから。

 半年経ってから歩行のリハビリを始め。

 そこから半年で、補助具があれば一人で歩けるようにまで彼女は回復した。


 そしてコーネリアの治療は入院から通院へと切り替わった。

 私達は王都邸には滞在せず、別に邸を借りた。

 コーネリアの見舞いに来ない父に会いたくなかったのと、王都邸は治療院への通院に少し不便だったからだ。


 通院を続けながら、私達はようやく学院への復学を果たし……半年で、学院の卒業資格を得た。

 ここまで来て漸く私は、御祖父様にお願いしていた交易の仕事を、再び徐々に引継ぎを受けていける様になってきた。


 今まで一度も見舞いにも来なかった父。

 だが、卒業資格を得た途端にコーネリアの見舞いに訪れたのには呆れた。

 早く爵位を継げと私に喚き……陛下の配下に、耳を引っ張られながら去っていった。



 コーネリアの治療と私の交易の仕事のため、氏族の入植には、私達は直接関わる事は無かった。

 だが、王家の遣いによって報告は受けていた。


 話し合いが終わって、氏族の者達が砂漠の端に姿を現したのは、あのオアシスでの演説から三カ月経ってからだった。

 二千人居た氏族の、実に七割近くが入植を希望したそうだ。

 元々あのオアシスは、二千人の人間が永く住めるほど水量が豊かではなかったそう。適正な人数は千人以下で、最低でも半分は入植しなければ、いずれ水量が足らなくなっていたらしい。

 五十年前の入植希望は、正にそれによる水量枯渇が原因だったという。


 そして……入植者の代表者は、コーネリアの妹リューラだった。

 リューラのサポートとして、あの隠れ里を束ねていたガンド達が名乗りを上げた。


 王家側で対応したのは、麻薬中毒から立ち直った第二王子殿下。

 彼には、私と共にオアシスに赴いたヘリンやハンス、ジョゼ達が付いているそうだ。


 第二王子殿下とリューラの話し合いは、優秀なサポート達の助けもあり、大きな諍い無く入植が進んでいるらしい。私が提案した条件付きの大麻草の栽培許可、そして薔薇の育ちにくい現地でのブーゲンビリアの生垣の提案など、氏族文化や気候に合わせた入植計画が進行していると聞いている。


 入植が開始してから、リューラからコーネリアへ、月に一度は手紙が届く。

 コーネリアが聞かせてくれるリューラの近況は、小さな失敗の連続らしい。

 でも、それが次の改善につながるのだとガンド達に励まされて、成果を挙げ始め、彼女は充実した日々を過ごしているようだ。

 そして、男性とのお付き合いを始めたとも報告があった様だ。


 コーネリアは自分へ支給されている俸給を使って、現地での幼年学校の設立を計画している。

 子供はまだ重要な労働力ではあるのだが、昼食を無償提供して親が子供を通わせ易いものにしたいと彼女は夢を語ってくれる。

 彼女の夢を実現できるよう、私も現地で色々教えてくれる教師の手配等で手伝いたい。


 ちなみに離縁が危ぶまれた殿下だったが、話し合いの結果、婚姻関係は継続する事になった。この危機で、マナーを離れて本音でぶつかり合える夫婦関係になったそうだ。



 そして、オアシスから王都へ帰ってきて、二年が経った頃。

 今日は、私とコーネリアの結婚式だ。

 最初は元公爵領……伯爵領で行う予定だったが、陛下……先の王太子殿下のたっての願いで、王都で行う事になった。

 そう。結婚式の三カ月前。陛下は、王太子殿下への譲位を行ったのだ。

「公爵領で行われれば、私が行けないでは無いか」

 そう言われてしまえば、王都で式を行わざるを得ないだろう。



 教会の扉の奥、赤絨毯が延びた先の、神父が待つ壇上の少し手前。

 白いタキシードを身に纏ってコーネリアが来るのを待つ。


 教会の扉が開かれ、コーネリアと、彼女をエスコートするガンドが現れる。


 オアシスで、彼女の妹の見届ける前で、コーネリアにプロポーズした。

 そこから王都に帰って、結婚まで更に二年も掛かったのは……。


 この絨毯に敷かれた道を、ウエディングドレスを着て、自分で歩いて私の許まで歩きたい。そんな彼女の願いを叶えたかったからだ。


 彼女は、まだ杖なしでは一人で歩けない。

 でも、この結婚式の絨毯道は。


 半分は、亡くなった父親に代わって、小さい頃から彼女の面倒を見て来たガンドが支える。

 小さい頃の自分の支えになってくれた、そして今も妹リューラの支えになってくれている彼に、コーネリアは精一杯の感謝の念を込める。


 そして残り半分は、これからの彼女の人生を共に歩む、私が支える。

 コーネリアは、今まで一杯の希望を見せてくれて、これからもっと素敵な人生を見せてほしいと、期待を込めて私の腕を握ってくれる。


 二人で……神の前で、死が二人を分かつまで続く、お互いへの愛を誓う。


 そして、指輪の交換。

 本番に向けて懸命に練習を重ねた彼女が、ぎこちない手で私の指に指輪を()()()()()()くれる。


 実は、彼女はまだ、指が上手く動かせない。

 だがそれでも、出来るだけ自分の力で指輪交換がしたいとコーネリアは願った。

 そこで色んな方法を試した結果……私が指を上に向けて、そこに向かって彼女が指輪を落とすという方法に落ち着いた。


 最後に、神と、参列してくれた皆の前での、二人の愛の誓い。

 私は、彼女の顔を覆い隠すヴェールを、ゆっくりと上げる。

 そこに現れたのは……あの初めて出会った頃の面影を残しつつ、大人の女性へと羽化し、目一杯輝いて見える私の最愛。


『愛している、ネリ』

『私も、愛しています。ルネ様』


 学院で二人の仲睦まじさを周りに見せる為に決めた愛称で呼び合う。


 初めて呼んだ愛称は、お互い物凄く恥ずかしかった。

 何度となく呼び合ったこの愛称は……もう、二人にはかけがえのないものとなった。


 私が彼女に歩み寄ったのだ、と示す為、あえて氏族の言葉で愛を伝え合う。

 そして、私は彼女に顔を近づけ、彼女は期待する様に、目を伏せ……。


 今までに無く、深く、甘い、二人の口づけ。


 歓声が会場を大きく包む中……私は、いつまでも、こうして居たいと思った。

 口づけを離さない彼女も、同じ気持ちだと……。




―――――


 結婚式の半年後、私は陛下に、爵位継承をしても良いと伝えた。

 そして、ルハーン伯爵家の爵位は私に引き継がれた。



 私に当主が移った後。

 ジョルド侯爵の犯罪の摘発、およびカダイフ氏族の再帰属の功績を以て、陛下は私を侯爵に任じた。


 そしてルハーン家の分家として、父オラトリオをウラカーン伯爵に任じ、バラントの長女ジョエルを養子に迎える事を命じた。


 バラントが収監された後、ロッペン侯爵家から嫁いだ妻は修道院に入った。

 オラトリオは当主実務に忙しく、ジョエルの事まで手がまわらず。

 御祖父様や私、コーネリアが面倒を見ていた。

 

 父は五十歳。

 今まで義務を果たさなかった分、楽隠居させるつもりは無い。

 だが、当主実務の量は減らしてやる分、ちゃんと家族と向き合え。

 そんな、陛下と先王陛下の意思表示だった。


 ところが、ちゃんと時間を掛けて家族と向き合った、オラトリオは。

 父にとって孫娘にあたるジョエルは可愛かったらしい。

 孫娘の為ならと、張り切って当主業務に励み、彼女を立派な嫡女へ育てると息巻いた。

 陛下も先王陛下も呆れたが……まあいいか、ちゃんとしてくれれば。そう言った。

 

 

 チェンとフェイファは、王国の滞在期限が来ると、帝国へ帰って行った。

 だが、手紙のやり取りは続いているし、何年かに一回は帝国との技術交換の使者として王国にやってくるようになった。

 チェンもフェイファも、帝国人とそれぞれ結婚し、家庭を持っている。


 ハルトも、クラーブ侯爵家当主となり、結婚し、順調に領主として活動している。

 彼とはいつも社交シーズンで夫婦同士で会い、近況を報告し合う。


 リューラ達氏族の入植者は、王国の暮らしに馴染んでいる。

 リューラはやがて結婚し、取り纏め役を退任した。今では二人の子供の母親だ。

 そして王国側に入植した氏族は、実務者達の合議制という、かつての運営の形を取り戻している。

 そして、コーネリアの念願だった幼年学校も設立され、氏族の子供たちは、氏族の言葉と王国語、そして両方の良い所を取り入れた教育を受けているそうだ。


 氏族との交渉に当たっていた第二王子殿下は臣籍降下してルピリア公爵となった。

 その名前は勿論、コーネリアとリューラの母ルピア様から採られたもの。

 アーリシア様と同じく、ルピア様が願った、氏族と王国民との歩み寄り、融和。

 それが実現する事を願って付けられた。

 公爵は、名目上は氏族の住まう地の領主となったのだが、氏族の自治を認めている。

 実際の所、王国法と氏族の自治の妥協点を探る相談役的な立場らしい。



 ジョルド侯爵に捕らえられていた四人。

 王宮で治療を受けていた三人は、一年後に退院する事が出来た。

 そして、彼女達を支え続けてくれた人と、結婚したり、子供が出来たり。

 何かあった時の為に、定期的に治療院から相談員を派遣したり、彼女達家族がすぐに助けを得られるよう病院の近くの住居を提供したりしている。

 禁断症状との戦いはずっと続く。

 だが、王家の責任で手厚い体制が敷かれており、彼女達家族は感謝していた。


 ただ、シャヒーン嬢は……。

 施設に入所してから症状が変わるどころか、徐々に悪化していった。

 三年が経ち、彼女は重い意識障害を起こし……。

 そのまま、遂に意識が戻らなくなり、亡くなってしまった。


 バダウェイ氏等三人は、拘束されて直ぐ、シャヒーン嬢の預けられた施設に連れて行かれた。

 そこで、彼女に何が起きたか見せつけられた。

 自分達が何をしたのか、罪を自覚した三人は……憑き物が落ちたようになり、シャヒーン嬢が亡くなるまでの間、真摯に彼女の治療を手伝ったらしい。

 シャヒーン嬢が亡くなった後、彼等は王家の監視のもと、医療の行き届かない地方を回り、そこで医療奉仕を続けているという。



 そして私達は。

 二人の間にダナン、ケンプと言う二人の息子と、娘ライラが生まれた。

 

 コーネリアは遂に、秘技の行使以前の、流暢な言葉を取り戻せなかった。

 だが、少し拙く話すことも、逆に相手が真剣に聞いてくれるようになったと、彼女は笑う。


 歩くことも、腕を使う事も、指使いも、完全には戻らなかった。

 だがこれも、代わりの方法をどうするか、創意工夫のし甲斐があると彼女は言った。


 そんな、いつだって現状を受け入れ、前向きに取り組む彼女は。

 あの王命で出会った、幼い日のコーネリアのままだった。


 息子たち、そして娘が結婚し。

 長男ダナンに、孫が生まれた、一年後。


『ルネ、様。ずっと、希望、を。見せて、くれて。ありが、とう。愛、してる』


 それが、最期の言葉だった。


『こちらこそ。ネリがいて、幸せだ。有難う。ネリ、愛してる』


 その私の言葉を、しっかり聞いて……

 コーネリアは、五十歳で、息を引き取った。

 

―― Fin ――

『アンモー』=「按摩」

ですが、この作中ではただのマッサージではなく

ロルフィングの様な物をイメージしています。

ロルフィングって何?って思われた方は、ググってみてください。


お読み頂きありがとうございました。

ここで完了とさせて頂きます。


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よろしくお願いいたします。

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