表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブーゲンビリアの花は砂漠には咲かない  作者: 六人部彰彦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/35

20 建国式典での断罪(前)

 記念叙勲式の会場は、参加者それぞれの立ち位置が決められている。


 公爵家と、家格の高い侯爵家は最前列だ。

 私達ルハーン家、バーネル家、チャスル家の三公爵家。

 それにジョルド侯爵家、長兄の妻の生家ロッペン侯爵家も最前列だ。


 ハルトの生家クラーブ侯爵家は、私達よりは一段下がる。


 侯爵家の後ろに、伯爵家、子爵家、男爵家と並びが続く。

 私達は、決められた立ち位置のまま、他の家の入場と整列を待つ。


 待っている間、端に並ぶ私は、最前列に並ぶ面々を見ていて……。

 まさかと思って、二度見してしまった。だがここで、一番の目当ての物が見つかった。


 その時、後ろから、トントンと肩を叩かれる。


「こっちを向かないでください」


 後ろから掛けられた声は、ヘリンのものだ。


「目的の物は見つかりましたか」

「バジット伯爵次女アリエル嬢の緑のペンダント、ルエット伯爵三女カルロッタの右腕の腕輪。そして……」


 私は、唇をなるべく動かさず、前を向きながら低い声でヘリンに答えた。


「成程、有難うございます」


 そう言って、ヘリンが去っていく気配がした。



 整列が終わったのか、会場が静かになっていく。

 そこに、王太子、第二王子以外の王族が会場横から姿を見せる。彼等は壇上の左奥に並んで控える。

 何故か第二王子だけは姿を現さない。


「国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、入場!」


 儀典長が声を張り上げると、王族達が控える横の扉が開く。

 そこに、王太子殿下、王妃殿下、国王陛下の順で入場する。

 陛下は重要な式典の際に持つ王笏を持っている。


 壇上中央の玉座に陛下が座り、その横の座に王妃殿下が座る。

 国王陛下の左前に王太子殿下が立つ。


「傾聴!」


 儀典長が、次の声を上げる。

 国王陛下は、王笏を振り上げて、そこから降ろそうとする。



 その瞬間……不意に上の方から、ヒュヒュッ、と何かが空を切り裂く様な音がした。


 私は咄嗟に横に飛び退いた。

 壇上からはキンキンと甲高い金属音が。

 私の飛び退いた付近からは、ダン、と衝撃音がした。


「ぐあああっ!」


 会場の後ろの方からは叫び声がした。


 見ると、壇上の国王陛下は王笏で何かを薙ぎ払っていた。

 そして王太子殿下は抜剣して何かを叩き落としていた。


 私のいた所の近くの通路には、金属性の太い針の様な物が刺さっていた。

 位置的に、私は飛び退かなくても良かったかも知れないが、当たらなくて良かった。


 ヘリンが身振り手振りで伝えたのは、これだったのだ。

 意味は、『遠くから、何かが放たれる。それによって私の命が狙われている』というものだった。


 会場は騒がしくなった。


「静まれ!」


 剣を納めた王太子殿下が一喝し、会場は静けさを取り戻していく。


「これは装飾が落ちただけの、()()である。怪我をした者を早急に医務室へ運べ!」


 先程の叫び声の主を運ぶのであろう、バタバタとした音が後ろの方から聞こえる。

 その周辺はざわざわとしていたが、運び出されたであろう後は、静かになっていった。


「傾聴!」


 儀典長が、再度声を上げる。


 国王陛下は、王笏を振り上げて、そこから床に振り下ろす。

 ダアン! ダアン!

 二回降ろすのは王権を振るう合図だ。

 つまりこれから、陛下から重要な宣言があるのだ。


「……建国百五十年のこの節目の年。王国を支える臣達の献身を称えるべくこの式典を準備していた。だがそれに先立って、やらねばならぬ事がある」


 陛下はここで一旦言葉を切って、少し置いてから続けた。


「この国を陥れ、貶め、転覆せしめんとする策謀が明らかになった。枝葉まではまだ見えぬが、策謀はその姿を現した。よって、この先五十年、百年とこの国を強くするため、まずはその策謀の根と幹を断つ」


 その陛下の言葉に、式典会場は静まり返る。

 俄かに緊張感が高まっていく。


「フラーベル子爵アルカーン、前へ出よ」


 陛下の言葉に後ろの方が騒がしくなり、騎士達がそちらへ走る。


 やがて、拘束され縄を掛けられ、猿轡を噛まされた壮年の男が騎士達に連れられ最前列の前に引き出されて来た。その男は、左腕に包帯を巻いていて手当てされている。先程の事故による怪我だろうか。

 騎士達はその男の膝を後ろから蹴り、男を壇上の陛下の下に跪かせる。


「王家は前回の建国大祭で王領をカダイフ伯爵家へ下賜したが、この者はその領地から兵をもってカダイフ家を追い出し、二十年もの長年にわたりカダイフ領を不当に占拠した。それだけではなく、その領地で大量の麻薬を製造し、横流しをしていたことも分かっておる」


 陛下の述べるその罪状に、会場は俄かに騒がしくなる。


「次、ザッカリーア伯爵クラーク、前へ出よ」


 また、後ろの方が騒がしくなる。

 今度は肩口を包帯で巻かれた男が、担架に横たわったまま騎士達によって前へ運ばれてくる。先ほどの事故で肩を怪我したようだ。

 包帯は赤く染まっている所から、失血が多かったようだ。

 起き上がれないのか、フラーベル子爵の横に担架が置かれる。


「フラーベル子爵の所で製造された麻薬が、ザッカリーア領主が管理する倉庫の中から大量に見つかった。フラーベル子爵はお主の寄り子であり、麻薬の製造流通にこの者が加担していることは明白である」


 陛下の述べる罪状に、また会場が騒がしくなる。


 ダアン! ダアン!


 王笏を振り下ろす音に、会場は静けさを取り戻す。

 また二回振るったのは、まだ王権を行使すべき相手がいるという事だ。


「こ奴等の罪は明白だが、まだ末端に過ぎぬ。こ奴等を操り、麻薬を流通させ財貨を貪る者、カダイフ家や王家を貶め国家転覆させんと策動する者、それらをここへ引き出さねばならぬ。その者共を捕えよ」


 騎士達が最前列へ駆け集まってきた。

 彼等が捕えんと群がったのは、ジョルド侯爵夫妻とロッペン侯爵夫妻。


「な、何ゆえ我等を!」

「は、放せ!」


 叫び声を上げるが、彼等は騎士達に縄に掛けられ、その場で跪かされる。


 どちらも国の重鎮、しかもジョルド侯爵は建国以来の重臣であり、彼等が捕えられたことに会場内に動揺が走る。


「まず、ロッペン侯爵ガイナード。そちには、ハーグ大帝国より引渡し要請が来ている」

「な、……」


 ロッペン侯爵は驚きのあまり、言葉が出ないようだ。


「ハーグ大帝国の下級貴族や裕福な商人達の間で、近年退廃的な風潮が広がっていた。ハーグ帝室が秘密裡に調査した所……ごく弱い効果の興奮剤がそれらの層に蔓延していた。中毒性が低く、望ましくは無いが違法とも明確には言えない程度の物で、帝国側は泳がせながら、長年出所を探っていた」


 淡々と話す陛下の言葉を、会場の皆が静かに聞いている。

 ロッペン侯爵だけは呻いているが、陛下を妨げる程の騒がしさはない。


「近年になり、効果を高め、幻覚作用と中毒性のある物が帝国内に流通し始めた。それが、その薬が……ロッペン侯爵の手の者が外交特権で帝国に持ち込んだ荷物の中に見つかった。他でもない、フラーベル子爵によって製造された麻薬だ」


 陛下はロッペン侯爵を睨みつけた。


「帝国内で、外交使節団全員を調査した所、ロッペン侯爵家から派遣された人員の荷物に隠して、件の薬が持ち込まれた。我々王家の許可のもと、帝国内で彼等を尋問した所、ロッペン侯爵の命により帝国内でこの薬を流す活動をしていたのを認めた」


 陛下はロッペン侯爵に反論の有無を問うた。


「そ、それはハーグ大帝国による、言いがかりではありませぬか」

「そなたの領地と帝国の間に広がるダーナ大森林に、帝国で見つかったこれらの薬と同じものが保管された倉庫が見つかっている。そこを警備し、物を持ち込んでいたお前の手の者も、全て捕縛済だ。使節団への受け渡し手口も既に判明している」


 ロッペン侯爵は頭垂れた。もう言葉は無いようだ。



 ここで、私は後ろから肩を叩かれる。


「これをお持ち下さい」


 ヘリンが小声で私に声をかけ、そして降ろしている私の手に、何やら書状を握らせる。

 その書状をちらりと確認して、内心驚いた。


「この後、御声掛けがありましたら、それを存分にお使いください」


 そう言って、ヘリンが去っていく。私は、急いで書状を懐にしまい込んだ。



「そして、ジョルド侯爵ヒョードル。お主はこれら策謀を主導した。カダイフ家を騙してフラーベル子爵による占拠を既成事実とし、王家へ上申させることを防ぎ事実を隠蔽した。また、フラーベル子爵領からザッカリーア伯爵領を経由しダーナ大森林へ麻薬を運搬する経路で、お主がカダイフ伯爵家に貸し出していた人員と馬車が使われていた事も判明している」


 私はそれを聞いて唖然とした。

 今までの私の推測が、まだ足りなかった、甘かったことに思い至った。


「お待ちください。それは納得が行きませぬ」


 ジョルド侯爵は跪きながらも、毅然として陛下へ反論する。


「そもそもカダイフ家に対して王家は爵位と未開の土地、王都の邸を下賜しただけで、この国で生きていくための助力を何もしていないではありませんか。それではカダイフ家は立ち行きません。なので、我々は人員を貸し出し、その上、子女の教育の為の家庭教師、馬車、身装品……何から何まで我々が支援していたのです」


 ジョルド侯爵は陛下の目を見ながらそう言い切る。


「貸し出した人員はカダイフ伯爵家の指揮下にあり、私の関知する所ではありません。カダイフ領でフラーベル子爵が麻薬を製造していた事も、貸し出した人員と馬車が麻薬の運搬に使われていた事も知りませんでした」


 今のところ、このジョルド侯爵の証言を崩すだけの証拠はない。


「そもそも、ザッカリーア伯爵やフラーベル子爵は私の派閥でもありませんし、接点がありません」


 言い切るからには、ジョルド侯爵を罪に問えるだけの明確な証拠が無いという自信があるのだろう。


「宰相として、カダイフ伯爵領まで十分に目が行き届かなかったことは御詫び致します。ですが、このように麻薬の製造流通の黒幕であるかのように扱われるのは、納得が出来ません」


 ジョルド侯爵は、陛下を見据えながら言い切った。


いつもお読み頂きありがとうございます。


ブクマや評価、感想、いいねなどを頂けると執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ