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第17話:門下生に稽古をつける(かかと落としの……)

「え、え~っと、じゃあ右足を上げていただいて……」

「「はい!」」


 翌日から、門下生たちの稽古が始まった。

 クエストへ行く前にしている。

 正直に言うと、私の<かかと落とし>はスキルなので彼らには習得できない。

 何十回も説明したが、それでも良い! と押し切られてしまった。

 門下生たちは武術の腕を磨くことには余念がない。

 彼らを説得することは不可能だった。


「「キスククアお嬢様! もう一度、お手本を見せてくださいませ!」」

「ま、またですか……」


 もう何回目かわからない見本をする。

 右足を真っ直ぐ上げて垂直になる。

 陽の光を受けて、例の靴がギラリと光った。


「かかと落としの基本動作は、まずこうやって足を上げるところから始まります。中途半端に上げても威力が落ちるので、なるべく真っ直ぐ上げ切ってください」

「「おおお~!」」


 これもまた何度目かわからない、おおお~! の声が響き渡る。


「そして、敵の脳天めがけて勢いよくかかとを落としてください。ポイントは一撃で相手を沈めるという強い意志を持って振り下ろすことです」

「「おおお~!」」


 そのまま、ストンとかかとを落とす。

 モンスターと戦っているわけではないので、力は全然込めていない。

 たったそれだけの動作なのに、辺りは万雷の拍手喝采で包まれた。


「やっぱり、キスククアお嬢様のかかと落としは格別だな! いくら見ても飽きねえや!」

「俺感動しちゃったよ……涙まで出てきた。死ぬまでにこんな素晴らしい技が見られるなんて……俺はどこまで幸せなんだ」

「こういうのを選ばれし者の、選ばれしスキルって言うんだろうな!」


 私がかかとを落とすたび、門下生たちは泣き崩れる。

 こんな技よりもっとすごい武術は世の中にたくさんあると思うけど……。

 そんなことをしていたら、ちょうどいい時間になった。


「じゃ、じゃあ、私はそろそろクエストに行くから……」

「「行ってらっしゃいませ、キスククアお嬢様!」」


 ガッツさんを筆頭に、屈強な男たちにいっせいにお辞儀をされた。

 なぜか申し訳ない気持ちになりつつ、ロビーへ行く。

  

「さて……今日はどんなクエストにしましょう」

「キスククア君のどんな活躍が見られんだろう!? 今からワクワクするなぁ!」


 ジャナリーはいつも通りハイテンションだけど、私は色々あって疲れ気味だった。

 ぼんやりとクエストボードを眺める。

 高ランクだったらどれでも良かった。


〔Bランククエスト ~……〕


「よし、これにしましょう。Bランクだし」

「いえーい! またキスククア君の活躍が見られるね!」


 プランプさんのところに持って行き、手続きを進めてもらう。


「はい、じゃあさっそく依頼主のところへ行っておいで」

「え、今から依頼主ですか? いつもはクエストが終わったときに行っていますが」


 依頼主とはクエストが達成してから会うことが多い。

 クエスト前から会うことは初めてだ。


「何言ってるんだい、キスククアちゃん。護衛クエストなんだから、依頼主に会うのが当たり前でしょうよ」

「護衛クエスト?」


 改めて依頼表を見る。


〔Bランククエスト ~ビスカウント子爵家ご令嬢、ノイン様の護衛。手練れの冒険者を乞う~〕


 た、確かに護衛と書いてある。

 稽古で疲れていてよく見ていなかった。


「どうしたんだい、キスククアちゃん? 特別にキャンセルしてあげようかい?」


 一度依頼を受けると、基本的にはキャンセルできないらしい。

 ギルドの信用に関わるからだ。

 もちろん、冒険者の力量的に命の危険がある場合とかは別だけど。


「あ、いや、そうではなくて……」


 この靴で行って怒られないだろうか?

 思いっきり相手を威嚇するデザインだ。

 かと言って、<かかと落とし>に耐えられない靴では意味がないし。


「なに、心配することはないよ! キスククアちゃんならどんなクエストも達成しちゃうんだからね!」

「そうさ! キスククア君を見るだけで依頼人は安心できるって!」


 ジャナリーとプランプさんは、納得したようにウンウンとうなずいている。

 

「依頼人の家はここから少し離れた丘の上にあるよ。歩いて行ける距離さね」


 流れるように、プランプさんがギルドの斜め向こう側を指す。

 丘の上に大きな屋敷が立っていた。


「じゃあ行こうか、キスククア君」

「う、うん、そうね」


 そして、私たちは依頼人の元へと向かって行った。

 さりげなく靴屋を探しながら。

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