第一話 万引き
20XX年、7月7日、七夕。昼頃のことである。
今日も俺 ―慎也、16歳― はいつものように住宅街を目的もなく歩いている。
変わり映えもないコンクリートジャングル、昼間だが人通りは少なく、夕飯の為の買い物に行くであろう見知らぬおばちゃんがたまに通るくらいだ。
え、学校?
そう、大半の高校一年生は平日の昼間、学校に行くであろう。俺も本来は行くべきだが……サボった。
まぁ、深い理由はない。
深刻ないじめでも勉強についていけないわけでもない。
ただなんとなくサボっただけだ。
目的なく彷徨っているのは家にいると親が口うるさいからである。
「喉乾いたな…コンビニでジュースでも買うか…」
俺は住宅街を離れ、5分ほど歩いたらあるコンビニに足を伸ばす。
おそらく皆が見覚えのあるであろう緑と青の色をしたコンビニに着く。
「いらっしゃいませ〜」
入店とともに店員さんの作業的な挨拶が聞こえる。
俺はドアから右側にある飲み物が売っているところまで歩いていき、ブリソーダを手に取る。寒ブリの脂の乗った満足感と大海原を感じさせる風味を爽快感ある強炭酸のソーダに閉じ込めた一品。税込み132円。俺の大好物だ。
今にも乾ききったのどを潤そうとブリソーダをレジに持っていく途中、鞄の中をあさった俺は財布を家に忘れたことに気が付いた。
(取りに行くのも面倒だな……)
現金派な俺は電子マネーなど持ち歩いてはいない。
ブリソーダを購入するには家に帰って財布を取りに行かなければならないが家には口うるさい親もいるしなによりかなりのどが渇いている。基本クズな俺の脳内にはこの思考がよぎった。
(鞄に隠して出れば、ばれないだろう)
そう、万引きである。店員さんはちょうど新商品の惣菜パンの陳列中でこちらは見ていない。いまならいける。
俺は壁側を向きながら、こっそり手に持っていたブリソーダを鞄に入れる。
チラチラと横目で店員さんの動きを確認する。
大丈夫。見つからない。
俺は心臓バクバクで全身に力がこもっているが息を殺す。
こっそりと、さりげなくコンビニを出る。
退店の音はなるが何も買わずに出る客も多くいるため店員さんは特に不審がることはないようだ。
店の自動ドアが閉まると同時に早足になって離れる。
向かう先は住宅街にある小さな公園だ。万引きに成功し、緊張から開放されると疲れがどっと来たのでとにかく座って休みたい。
俺は店員さんが追ってくるのではないかという一抹の不安を覚えながらも早足で歩き続け公園に着いた。
ベンチに座りこみ、深く息を吐く。
「プシュッ!! 」
炭酸飲料を開封したときの心地よい音がなる。
のどの乾ききっていた俺はブリソーダを流し込む。
口の中に強炭酸の刺激と魚の旨味が広がる。
半分ほど飲み干したところでのどの乾きから開放された俺は周囲を見渡す。なぜかお地蔵様がこちらを睨んでいるように見える。
悪いことをしたあとだからだろうか?
この公園はお寺に併設されているため、公園からもお地蔵様が見える。
50センチにも満たないであろうお地蔵様は赤い布を体に巻き付けている。汚れがないことを見るに管理をしている人物はマメな性格の人なのだろう。俺とは大違いだ。
(ん…?視線を感じる…)
やはりお地蔵様がこちらを睨んできている気がしてならない。なんと目つきの悪いお地蔵様だろう。
お金でも要求しているのだろうか。
残念ながら俺は今、何も入っていない鞄と飲みかけのブリソーダしかないのだ。お賽銭はできない…
(これで許してくれ…)
万引きに罪悪感を持っていた俺は、お地蔵様に許しを請うつもりでお供物代わりに飲みかけのブリソーダを前において、公園を立ち去ろうとした。
その時、お地蔵様の目が不気味に赤く光った。