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転生ヤマネコ、愛猫から愛妻にジョブチェンジ③




「おいマリウス。帰還した翌日……しかもこんな朝っぱらから使者を寄越して、俺を呼び出すな」


 なんで!? どうしてっ!?

 王様の顔、レリウスさまと瓜二つなんですけどっ!?

 いやね、その体形は膨らます前の風船と、膨らませた後の風船かってほどの差だが、顔の各所のパーツと配色がふたりはピッタリ同じなのだ。

 わたしは目玉が落っこちそうなくらい目を見開いて、レリウスさまと王様を交互に見た。

 ……うん。何度見ても、ソックリ同じ!!


「そんなのは、お前が昨日のうちに顔を出さんのが悪い。こっちは祝杯のシャンパンを用意して、首を長くして待っていたんだぞ」

「もろもろの処理やなんやで、色々と忙しかったんだ。それに帰還した直後くらい、ゆっくり休ませてくれ」

「ここはお前の実家だ。休みたいのなら、ここでゆっくり疲れを癒していけばいいだろうに」

「詭弁だ。俺は王位継承権を放棄し、臣に下っているんだ。ここはもう、実家ではない」


 え? 今、レリウスさまはなんて言った?


「やれやれ。案内もなしにここまで我が物顔でやって来ておいて、どの口が言うのやら。たとえお前が王籍離脱しようが、そんなのは紙っぺら一枚に記された事実にすぎん。お前は永遠に俺の弟であり、俺たち兄弟の絆までは断ち切れん」


 ひぇええっ! レリウスさまが王弟殿下って、うそでしょう!?

 衝撃の事実に、わたしはポッカーンと大口開けて固まった。

 ……っていうかさ、わたしとしてはぜひとも昨夜のうちに教えておいてほしかったよ。わたしのつまらない身の上なんかより、こっちの方がよっぽど重要だよぉ。

 やはりレリウスさまは、どこかがちょっぴりズレている。


「ハッ! お前との腐れ縁など、こちらからスパッと一刀両断にしてやりたいぞ。毎回毎回、議会の承認をすっ飛ばして都合よく動かされたのでは、堪ったものではない。承認なき出陣なら、本来はお前のお抱え私兵団の領分だ」

「まぁそう言うな。私兵らは、残念ながらお前ほど有能にできてはおらんのだ。なにより今回は、ワーグナー筆頭大臣との結託が疑われるグレス書記官という癌を身内に抱えていた。奴の目がある中で正式に議会の承認を得て騎士団を動かすのはリスクだった。お前とて、それをわかっていたから出陣に応じたんだろうに」

「フンッ」


 ここで、ずっとレリウスさまの目を見て会話していた王様が視線を下げる。

 王様とレリウスさまの胸に抱っこされたわたしの目線がぶつかった。

 ……あ。レリウスさまとおんなじブルーの瞳だ。


「ところでレリウス。そのモップはなんだ?」


 んっ!? モップですって!?

 聞き捨てならない単語を耳にして、ポッカーンから一転、わたしは激おこでブワワッと全身の毛を膨らませた。


「妻だ」

「ほぅ、そうか妻か……って、そんなわけがなかろう」

「いいや、事実だ。マリウス、お前にだからすべて打ち明けるが、ルーナは天女なんだ。今はヤマネコの姿だが、月明かりの下ではそれはそれは麗しい女性になる。そして一昨日の征伐では、ルーナの援助によって俺の部隊は九死に一生を得た。ルーナの助けがなくば、部隊は全滅すらあり得る状況だった」


 だからね、レリウスさま。わたしは天女じゃなくて魔物ですってば。


「ほぅ。兄の俺を差し置いて天女を手にしたか」


 え? ちょっと待って。王様は今の言葉で納得しちゃったの?

 それって、逆にビックリだよ。


「やらんぞ。ルーナは俺の妻だ」

「ハッ、いらんいらん。俺には愛する王妃とかわいい王子がいるからな。そのモップはお前が持っておけばいい」


 ……あのですね。ふたりとも、当たり前のように口にしてるけど、「天女」も「モップ」もどっちも間違ってる!


「それはなにより。あとは正式に結婚するためにルーナの戸籍が欲しい。今回の征伐成功の褒賞はそれで頼むぞ」

「いいだろう。お前と家格が釣り合いそうな侯爵家か伯爵家あたりを適当に見繕い、姓を取って作成しよう。もし希望の生年月日や年齢、出生地などがあれば伝えてこい」


 明日の天気でも話すみたいな軽いノリで繰り広げられるふたりの会話に、わたしは目を白黒させた。なにせ、その内容はこれ以上驚きようなんてないと思う、さらにその上をいっているのだ。

 ひぇええ。国家権力、最強か……。


「希望は後で書面に記して知らせる。それから、別件でもう一件頼みたい。すでに報告がいっていると思うが、コリンの件だ。事情が事情ゆえ、騎士団としては今回の彼の行動を不問に付したい」


 あ。この話題……! わたしとしても、コリンの救済はぜひともお願いしたい。ちなみに、人質に取られていた妹さんは、既に見つかって無事に保護されている。王都に到着してすぐ、捜索にあたっていた騎士が早馬で伝えてきたのだ。

 妹さんのことがひと安心となれば、残る憂慮はコリンの処遇だけだ。わたしは、顎に手をあてて少し考え込むような仕草をする王様をジッと見つめ、その答えを待った。


「ふむ。騎士団側が問題にしないとなると、王宮側だけが責任を追及するわけにもいかんな。……まぁ、いいだろう。少々骨が折れるが、不問の方向で他の大臣連中にも掛け合ってみよう」

「恩に着る」

《ふみゃあっ(やったーっ! 王様、ありがとう!)》


 わたしが歓喜の声をあげたら――。


「……ほぅ。なかなかかわいい声で鳴くのだな」


 王様が再びわたしに目線を合わせ、興味を引かれた様子でつぶやいた。


「やらんぞ。それ以上見るな、ルーナが減る」


 言うが早いか、レリウスさまは王様に背中を向けてわたしの姿をその巨体に隠した。


「そんなふうに独占欲を剥き出しにするお前を見る日が来ようとは思ってもみなかった。レリウス、今度夜に茶会の席を設ける。その時は、人間の姿のルーナ嬢を連れてこい」

「もし、気が向いたらな。それじゃあな、マリウス」

「はははっ、まったくお前らしい。……レリウス、実にご苦労だった。おかげで長きに渡り国家に蔓延っていた膿が一掃できた。騎士団の方にはコリンの一件も含め、俺の方から報せをやっておく。この後は休暇でも取って、数日ゆっくり休むといい」


 レリウスさまはヒョイと肩をそびやかし、首だけで後ろを振り返った。わたしは向かい合わせの抱っこの体勢から、前足をレリウスさまの肩に置き、伸び上がって王様をチラ見した。


「俺のおかげではない。今回の征伐成功はすべてはルーナのおかげだ」

「そうだったな。……ルーナ嬢、カインザー王国を代表し、心より感謝申し上げる」


 王様がレリウスさまとよく似たブルーの瞳で優しげにわたしを見つめ、優雅に腰を折る。


《みゃあっ(わぁあっ! 王様、感謝の気持ちは十分伝わったから頭を上げて!)》


 あわあわするわたしに、王様は白い歯をこぼした。

 わわわ、素敵な笑顔……! レリウスさまそっくりの美男子に微笑んで見つめられ、思わず照れる。


「はははっ。また会おう、ルーナ嬢……いや、義妹よ」

《みゅー(うん。バイバイお義兄さん、またね)》


 へへへっ。

 レリウスさまはやたらと大股で扉に向かい、あっという間にキラキラの笑顔が遠くなる。

 はわぁ~っ、まるで王子様みたいだったな……って、実際王様なんだっけか。

 こんなふうに、細マッチョ版のレリウスさまが見せた微笑みと淑女にするみたいな最上級の礼に、ちょっぴり胸がときめいてしまったのは内緒だ。


 ――カツカツカツ。

 ――ギィイイ。


 レリウスさまは入った時と同じように自分の手で扉を開け、廊下に出た。


 ――バタンッ。


 扉が閉まるや、ブリザードの中にいるみたいな寒気に襲われる。

 え? なんで一気に寒くなっちゃった!?


「他の男に頬を染めるとは悪い奥さんだ。なぁ、ルーナ?」


 ギクッ! さらに、レリウスさまが氷点下の声音で口にした「ルーナ?」に、思わず震え上がる。

 もしかして、ちょっとドキドキしちゃってたのが、内緒にできてなかった!? ……でもさ、もふもふの毛の下で頬っぺたが染まってるのなんて、どうしてわかったの? やっぱりレリウスさまは、わたしのこと魔法で透かし見てるのかなぁ。


「マリウスが『この後は休暇でも取って、数日ゆっくり休むといい』と言ってくれたことだし、有り難く受け入れようじゃないか。ルーナとふたりきりの休暇か、実に楽しみだ」


 レリウスさまが満面の笑みで告げる。

 だけどその笑顔に、獲物を追い詰める捕食者の余裕みたいなのを感じちゃうのはどうしてだろう。


《みゅぁあ(あ、あのね、レリウスさま? 無理にお仕事をお休みしなくてもいいんじゃないかな。ほら、さっき色々忙しいって言ってたわけだし、ね?)》

「よしよし、かわいいなルーナ。お前も俺と過ごす休暇が待ち遠しか、そうだろうそうだろう。はやく屋敷に帰ろうな。そして帰ったら、もう二度と離さない」

《ふみゃっっ(なんで!? わたしの心が透かし見れちゃうはずなのに、どうしてここぞって時だけわたしの声を明後日に解釈しちゃうの―っ!?)》

「さぁ、奥さん。帰りは少し馬を飛ばすぞ。しっかり掴まっておいで」


 レリウスさまはニコニコ顔でわたしを抱っこしてソッコー屋敷に帰り、使用人たちを前に蜜月休暇を高らかに宣言し、そのまま寝室に直行した。そこからわたしは、なんと丸三日、寝室に缶詰にされてしまったのだ。ヒィッ。






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