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仔ネコ、騎士団に潜入する②





 てくてくてく。てくてく。。。


 一時間半後。

 わたしは騎士団を目前にして、結構満身創痍になっていた。実をいうと、ここ最近あまり体調がよくなかった。いつも体が重く、怠くてしかたないのだ。

 そこにきての長距離移動は、正直なかなか堪えた。

 ……ぅうっっ、怠いし足はくたくた。ついでに喉はカラカラで、お腹だって減った。

 こんなことなら、せめて朝ご飯を食べてから来るんだった。


 ――ガタガタガタッ。


 その時、石ころを巻き上げながら、わたしの横を一台の馬車が通り過ぎていく。

 あれ? 後部座席の車窓からチラリと見えた人物に、わたしは見覚えがあった。

 思わず足を止め、コテンと首をかしげる。

 今のってたしか……あ! 森から王都に向かう部隊で一緒だったグレスって人だ!

 彼は屈強な体躯の部隊員たちの中にあって、ひとりだけひょろりとして弱そうな見た目をしており、今でもよく覚えていた。しかも彼からは、どことなくわたしを虐めていたヤマネコたちに通じるものを感じ、あまりいい印象がなかった。もっとも、これは極めて個人的な意見だが。

 ……たしか、彼は騎士じゃなくて、王宮から派遣された書記官だってレリウスさまが言ってたっけ。

 こうして騎士団に向かってるってことは、今回もレリウスさまと一緒に出陣するのかな……あれ?


《ふみゃ(でもさ、なんであっちから来るんだろう? あっちって、繁華街に繋がる道だよね)》


 屋敷に向かう道すがら、レリウスさまは初めての王都に目を丸くするわたしにいろいろ話して聞かせてくれた。その中で、都市構造や治安についても触れていたのだ。

 なので、グレス書記官が王宮や王都の居住区に繋がる道ではなく、少々ガラの悪い繫華街の方からやって来たことに、わたしは僅かな違和感を覚えていた。

 ……って、今はそんなことより早く騎士団に行かないと!

 ハッと思い直したわたしは、くたびれた足を叱咤してペースをあげた。

 そうして辿り着いた騎士団の正門では、すぐ脇の守衛所に在中する騎士たちが、ひとりひとり入場者の確認をしていた。入場許可証と突き合わせながらの厳密な入場管理を見るに、ここから中に入るのは難しそうだ。

 ……きっと、うかうか門に近付こうものなら早々に見とがめられ、首根っこを掴んでポイッとされちゃうのが関の山だ。しかたない、ここから入るのは諦めよう。

 施設の裏側に回り、どこか外壁の隙間でも探して入り込もうと足を踏み出しかけた。その直後、一台の荷馬車が入場を待つ列の最後尾につくのが見えた。

 どうやら荷馬車は顔馴染みの食料品の納入業者らしく、御者台の主人は入場の順番を待つ傍ら、立ち番の騎士と世間話をし始めた。

 これなら、いけちゃうかも!

 わたしはこれ幸いと、こっそり積み荷の中に紛れた。案の定、通り一遍の確認のみで荷馬車は正門を通過。わたしはなんなく、施設内への入場を果たした。

 騎士団施設は、高い尖塔を有する中央棟の他、屋内外の訓練施設に武器保管庫、宿舎棟など複数の建物や設備を備えて広大だ。荷馬車は真っ直ぐに宿舎棟を目指して進み、併設する騎士食堂の厨房裏手に幅を寄せて停まった。わたしは御者台から主人が降りてくるより先に、慌てて荷台から跳び下りた。

 ……いててっ。

 ポテンッと尻もちをつきつつ、なんとか着地成功。わたしはよろよろと立ち上がると、旗がたなびく尖塔を見上げた。

 よーし、こうしちゃいられない! 目指すは中央棟の最上階にある騎士団長室だ……!

 急げ、急げ~っ。わたしは短い足でダッシュしかけ――。


 ――ぐぅうう~っ。


 お腹から鳴り響く大合唱を耳にして足を止めた。

 ……そうだった。わたし、朝ご飯を食べないで出てきちゃったんだ。

 屋敷からずっと歩き通しで、疲労と空腹で目が回りそうだった。

 ちょっとの逡巡の後、わたしは行き先を変更し、くるりと体の向きを変えた。早くレリウスさまのところに行きたいのは山々だけど、ここはひとまず腹ごしらえから……!

 納品でバタつく周囲を尻目に厨房に忍び込むと、既に昼食用の総菜が何品か出来上がり、調理用バットの上に山盛りになっていた。

 うわぁあっ、おいしそうっ! どれにしよう!?

 ラッキーなことに、料理人たちは全員納品された食料品の整理に向かったようで、わたしは無人になった厨房でひとり目をキラキラさせながら惣菜の物色を始めた。

 ……あ、まずはアレ!

 喉がカラカラだったわたしは、真っ先に野菜のゼリー寄せに目をつけた。しかも、ゼリー寄せは一個ずつ小分けの容器に流して固められており、取りやすそうだった。

 やったね! わたしは後ろ足で背伸びして立ち上がると、両方の前足で一番手前の容器をわしっと掴み、落とさないようにそっと下ろした。

 よーし、取れたぁ! どれどれ……?

 コトンと床に置き、お座りの体勢になって、改めて容器の中を見下ろす。赤と黄色のパプリカにブロッコリー、プリプリのエビが透き通るゼリーで固められ、とっても彩り豊かだった。

 うわぁ~、すっごくカラフルでおいしそう! いっただっきまーす!

 本当なら平皿にパカッとあけてから食べたいところだけど、今は言いっこなしだ。わたしはさっそく容器にガボッと顔を突っ込んで食べ始めた。

 わぁ~っ! これ、めっちゃうまっ! 

 コンソメのゼリーが野菜のうま味をギュッと閉じ込めており、さっぱりしながらもコク深い。エビから出た出汁もおいしいし、噛みしめるごとに野菜のシャキシャキとゼリーのプルン、ふたつの食感が交ざり合うのも楽しかった。

 最後はツルリと滑らかな喉ごしで消えていき、また次のひと口が欲しくなる。わたしは目を丸くして食べた。

 うまうまうま~……って、あれ? もうないや。

 気づいた時には、ゼリー寄せをペロリと完食していた。

 名残惜しく容器の端っこにくっ付いたゼリーをペロンとひと舐めしてから、再びヒョイッと後ろ足で立ち上がる。

 よーし、次はあれ!

 わたしはゼリー寄せの隣のパテに狙いをつけた。こちらは特に小分けにされてはおらず、一般的なハムくらいの直径のパテが三センチほどの厚みでカットされ、山盛りに積まれていた。

 わたしはお山のてっぺんにのっかった一枚にちょいっと右の前足を伸ばし、爪の先に器用に引っかけてゲットした。

 やったぁ、取れた!

 裸んぼのパテを床に置くのは断固拒否。わたしは床にお尻をつき、後ろ足を前に投げ出して座ると、パテを両手に持ち直してさっそくパクッと噛り付く。

 んんっ!? これも、すっごくいい味だぁ~!

 豚肉のパテは粗挽き肉を使ってわざと歯ごたえを残すように作られており、噛めば噛むほどうまみが出てきた。しかも中に入った何種類ものナッツが香ばしい風味と食感の変化を加えていた。

 はわわ、おいしい~。豚肉とナッツの組み合わせって神だ~。

 もっきゅもっきゅ。カリッ、ポリッ。

 どんどんと食べ進み、最後のひと口をゴクッと飲み込む。あっという間に結構なボリュームのパテを完食した。

 ……う~ん。騎士団食堂って侮れない。

 名残惜しく両方のおててをペロペロし、満腹のお腹を抱えてよっこらしょっと立ち上がる。チラリと調理台を見上げたら、他にもおいしそうな総菜が幾つか並んでいた。

 ……もう一品、いっちゃう? いやいや! ダメダメ!

 食べようと思えばもう一品くらいはいけちゃう。でも、そうしたらお腹がいっぱいになりすぎて動けなくなっちゃう。お屋敷ならいいけど、これからレリウスさまを探そうっていう時にそれはダメだ。

 わたしはもう一品の誘惑を振り払い、厨房を出ていきかけ――。

 ……あ、これね。よいしょっ。

 床に放置されたままのゼリー寄せの空容器に気づき、パクッと銜えてシンクに置く。肉球のおててで洗うのまではちょっと無理だから、これで勘弁してね。それからおいしいお惣菜、ごちそうさまでした!

 わたしは内心で感謝を伝え、今度こそ厨房を後にした。その直後、納入品の整理を終えた料理人たちがガヤガヤと厨房に戻っていくのが見えた。

 ……わぁ、ぎりぎりセーフ!


「ふぅ~、今日は納品が多くて大変だった……んっ!? 誰だ、ゼリー寄せを摘まみ食いしやがったのは!? お前か!」

「え~? 違います、僕じゃないですよ~」

「なら、お前か!?」

「いや、俺じゃないッスから。むしろ、主任じゃないんッスか? だって納品の整理に来たの、一番最後でしたよね? 見てたッスよ」


 ……わわわ。やばいやばい。

 背中から聞こえてくる不毛な犯人捜しの会話から逃げるように、わたしは歩みの速度を上げた。


「馬鹿を言え! 俺が最後だったのは携帯食の準備をしていたからで……っと、いけね! まだ、準備の途中だったんだ!」

「ハァッ!? ちょっと主任、なにやってるんッスか! それ、たしかマル秘扱いの重要指示だったんじゃないッスか、万が一遅れたら大目玉ッスよ!?」

「っ、つべこべ言ってねえでお前たちも手伝え!」


 走るのに一生懸命だったから、料理人たちが別の話題であたふたし始めたことは気づかなかった。






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