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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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手詰まり

 

「お、早かったな」

 ブリッジへ戻るとすぐ、ジュリオが振り向いた。


「お帰りなのだ」

 やや機嫌が斜めのままのエレーナが、二人を出迎える。


「小さなエレーナに会ってしまったのだ」

「ということは、やはり私は大きなエレーナだったのだな」


「いや、普通のエレーナ(Sサイズ)なのだ」

「そう言うおまえもニア(Sサイズ)なのだ」


「おい、帰還早々に頭が痛くなるような会話は止めてくれ!」

 ケンが間に入る。


「無事に帰ってよかったわ」

 先ずは着替えて来れば、とシルビアに言われて、二人はバイザーを閉じた宇宙服姿のままだと気付いた。


「コリンも船に戻って来るのは、すっかり慣れたな」


「本当は出発したエアロックの更衣室へ戻りたかったんだけどね」

 そういう細かい指定と制御は、まだ難易度が高い。


 二人はもう一度エアロックに付随する更衣室まで行き、着替えてからブリッジへ戻って来た。


 シルビアが、冷たい飲み物を用意していた。

 二人は、密林で起きた事件を説明する。



「エレーナを助けたことは、過去の改変にならなかったってこと?」

 シルビアの眼に、新たな光が宿る。


「うん。ガーディアンの妨害もなかったし……」

 ニアの言葉には、少しだけ残念そうな響きがあった。


「その時のことは、私も覚えているのだ。確かにジャガーは何もしないで去って行ったのだ」


「不思議に思わなかったのか?」


「幸運は、そこいら中に転がっているものなのだ」


「うーむ、若いのに、何という勝ち組人生だ。だが、ちびっ子はこれから俺たちと一緒に坂を転げ落ちるように不幸になって行くから、覚悟しておけ……」


「こらジュリオ、自分の不幸にオレたちまで巻き込むな」


「そうだよ。いい歳のおっさんが子供に嫉妬しないでよね、みっともない」


「でも、この船に乗った時点で、もう覚悟はできているのだ……」


「その覚悟、いらないからね!」



「二人がエレーナを助けることは、歴史に組み込まれていたということよね……」

 シルビアが念を押す。


「それは違うと思うよ。僕らが何かしてもしなくても、エレーナが生き延びたっていう事実だけがある。というか、それしかないんだ」


「どういうこと?」


「そりゃあ、エレーナが生き延びて今この船に乗っているということは、あの場でエレーナが命を落とすような事態にはなりっこないということさ」


「つまり、ニアが助けなくても大事には至らなかった、と言いたいのね」

「うん。今から考えれば、そうだったんだと思う」


「実際はどうだったの?」


「だから、私が腰を抜かしている間にジャガーは勝手にどこかへ行ってしまっただけなのだ」


「うーん、確かに過去の改変にはなっていないわね」


「だけど、コリンとニアが積極的に介入して過去の改変を防いだ、という可能性も捨てきれないぞ」

 ケンが話を戻す。


「コリンとニアがガーディアンのように、ジャガー親子の前に立ちはだかったという見方もできるじゃないか」


「あ、確かにその方がカッコいいじゃない」


「ゴーレムも、そういう存在かも知れないってことなのね」


「俺たちのように、時空を超えて出現しているのかは不明だがな」


「時空を超えるのはゴーレム本体じゃなくてもいいんだ。ゴーレムへの指令だけが時空を越えればいい」


「何だかよくわかんないってことだけは、わかったよ……」

 ニアが両手を上げて降参する。だが、わからないのは誰も同じだ。


「でも、危ないからもう下へ行くのはよせ」


「わかってる。今回は運が良かったけど、わざわざゴーレムを呼び寄せに行くようなものだから」


「困ったわね……」

 シルビアの毒気を抜く効果だけは、あったようだ。



「私たちに残された時間は少ない」

 シルビアが言う。


 エギム滅亡へのカウントダウンは、残り10日となっていた。


「俺たちは、手詰まり状態だな」


「おお、神は我々に一体何をさせようというのか!?」

 ケンが大袈裟に天を仰ぐ。


「とりあえず、今日はこの場を動かない。夕食後にもう一度話し合おう」

 コリンの宣言で、一同解散となった。



 ケンはトレーニングルームのラボへ直行し、他の面々は自分の個室へ消えた。

 いや、ニアだけはそのままコリンの部屋へ入っている。


 コリンの部屋は、同時にニアの部屋のようなものだ。


 どちらの部屋にも、私物と呼べるようなものはほとんど何も置いていない。


 一人になりたいときには、どちらかがもう一つの空いている部屋へ移動するか、厨房や倉庫など別の場所で何か仕事をしている。


 その辺りの阿吽あうんの呼吸は、長年暮らすパートナーならではのものだった。


 多くの時間は、二人で一緒に過ごす。これはエランドにいた時もヴィクトリアにいた時も変わらない。



 シルビアの部屋には、来客があった。

 エレーナである。


 少し話がしたい、と事前に連絡があった。


 エレーナは、三人でアフリカとアジアの旅をした時にも、コリンとニアの間に自分が入れないことは、存分に知った。


 それでもエレーナは、二人と一緒にいたかった。


 しかし今、エレーナはいきなりこの船に飛ばされて来て、とても心細い思いをしている。


 そんな時には、隣にいてくれる人が欲しい。

 幾らなんでも、ジュリオの部屋の扉を叩くわけにもいかない。


 シルビアたちの身に何が起きたのかは、聞いたばかりでまだ実感が湧かない。


 けれど、今のシルビアのやり場のない焦燥感は、見ていることすら辛い。

 だから、エレーナはシルビアと話がしたかった。


 そして少しでも、何かの役に立ちたいと願った。


「来たばかりで厄介なことに巻き込んでしまって、ごめんなさいね」


「元々自分で望んでいたことだから、気にすることはないのだ」

「ありがとう、エレーナ」


「私にも、何かできることはないのか?」

「えっ、どうして?」


「このままお客様扱いは、嫌なのだ」

「そうよね……」



 


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