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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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カウンターウェイトの謎

 

「ここは遺跡みたいに、ガーディアンが出ないんだよね」

 コリンが第一声を発して、内部を観察する。


 確かに、地表の遺跡とは一味違う。

 内部に光は無く、冷え切っている。


 ドーナツ状の外周が全て窓になっていて、初めて気付いたが、そのうち幾つかの窓が完全に破壊されていて、そこから容易に出入りができる。


 年に何度か無人のAI船がメンテナンスに来ていると聞いたが、その時に出入りしているのだろう。思ったより内部に浮遊する塵もなく、床もきれいなままだ。


 空気が無いので、錆びもない。ただ金属製以外の装飾品などは水分や油分が揮発して、スカスカになっている物が多かった。


 コリンは、地上の遺跡から強制転移された魔術師の亡骸や遺品などが散乱し宙を漂っているかと怯えたが、その痕跡すら見当たらない。

 考えてみれば、以前来た時もそうだった。



「密林にある遺跡は内部までマナが豊富だったけど、ここは完全にマナが無いなぁ……でも、軌道ステーションはしっかりマナに満ちていた」


(もしかしたら、軌道エレベーターのケーブルには少しくらいのマナを伝える機能があるのかもしれないな。それを伝って、遺跡からここまで転送されるのかも)



「ゴーレムを動かすほどのマナは、ここにはないということだろうね」

「でも、エランドの砂漠にもゴーレムは出たよ」

「そうだよね」


「でも、ここはずいぶん前に捨てられた感じの荒れ具合ねぇ」

 ニアの言う通り、よく見れば壁面や天井を覆うパネルの塗装が剝がれ、一部は歪んで外れかけている。


 重力があれば、そのうちの幾つかは間違いなく床に落下しているに違いない。

 内部の機器も同様に、損傷しているのだろう。


「うん、途中のゲートステーションは地表から蔦を伸ばして保護しているけど、ここは最初から遺棄された感じだ」


「だけど、ここに何も残っていないとは思えないよねぇ」


「うん。繰り返し遺跡から転移されるのには、何か理由があるんだろうな」


「それに、まだここの機能は完全に死んではいないんでしょ、きっと……」



 そして、内部の詳細な調査が始まる。



 カウンターウェイトの窓は全周が惑星側に傾いており、足元遠くのゲートステーションとヴィクトリアが見えた。


「あの地上には、ドネル師やエレーナがいるんだよな……」

 コリンは、複雑な思いで眼下に望む青い星を見る。


 何故、遺跡からここへ強制転移されるのか?


 ヴィクトリアのガーディアンは文字通り、遺跡を守って人を遠ざけている。

 それは、その遺跡がまだ生きているからだ。


 では、何のために遺跡はあるのか。


 コリンとニアが入った二つの遺跡の内部には、特に見るべきものがなかった。


 ガーディアンの防御を潜り抜け、遺跡の内部に侵入できるほどの能力を持つ者を、カウンターウェイトへ送るため、と考えれば納得がいく。


 遺跡から侵入者を追い払うだけなら、遺跡の外へ放り出すだけでよい。


 例えば入口近くの場所にゲートを作り、ループさせればよいだけだ。

 それでもう、遺跡の奥へは行かれない。


 では、何故カウンターウェイトへ人を送るのか。

 単に、殺すためだけの罠なのか?

 その答えを探す。


 そして、一つの重要なヒントに当たる。


 最初に来た時に発見した、転移装置らしきサークルがあった近くの壁面だった。


 確かに、「Transference Area」と文字が刻まれている。


「このサークル内が転送エリアだって意味だよね」


「でも、この装置は機能していない。僕らが下から強制転移させられたのはここじゃない。同じフロアの別の場所だった……」


「これは、ゲート装置が開発される前に、古代文明が使っていた機械なの?……ヴィクトリアで最初に入った古代遺跡にも、南アメリカ大陸って文字があったよね」

 ニアが思い出す。


「古代遺跡も軌道エレベーターも、造ったのは銀河文明と同じオールドアースの人間だということか……」

 コリンは既に知っていたことなのに、妙な違和感がある。


「もしかして、あの氷の石と同じで、記憶に作用する認識疎外系の魔法がかかってる?」

 ニアの言う通りだ。


「それに加えて、ゴーレムは過去の改変を防ぐために出現する!」



 調査の結果、ある仮説が浮かぶ。


 これが、有能な魔術師を始末するための罠だという可能性だ。

 或いは、残っている魔導師を発見するため、か。


 何故なら、魔法による時間転移の能力を封じるため。過去の改変を、防ぐため。


 だから今、全ての転移魔法は封じられ、時間転移機能を制限された転移ゲート装置だけが生き残っている。


 千五百年前の魔導師の失踪には、この時間転移が関わっている可能性が高い。


 ガーディアンは遺跡を守っているのではなく、時間転移による事象の改変を防いでいるのではなかろうか。


 そしてそのガーディアンが機能不全に陥るか、その防御をかいくぐり遺跡の内部へ侵入すれば、その侵入者を排除する、つまり抹殺するために脱出不能な宇宙空間へ転送している。


 そこまで考えて、コリンは結論を修正する。

「魔術師の抹殺が目的でなければ、僕やニアのような魔導師を見つけるためなのか?」


「わたしたちは遺跡の罠にはまり、ガーディアンに存在を知られた。だから、南米ステーションやエランドの砂漠まで追って来たっていうの?」


「いや、南米ステーションの場合は、惑星外へ逃がさず捕らえるためだったのかも。その後僕らが時間を跳び越えたエランドでは、罪状が過去の改変防止に変化したのかもね……」


「色々段階があるってこと?」


「かもしれない。ヴィクトリアの遺跡には、魔導師が過去の改変を行わないよう監視する役割がある。僕らの行動は、誰かに監視されているんだ、きっと」


「軍の包囲を逃げたから、メタルゴーレムが登場した、って感じ?」

「かなぁ?」


「たーいへん、これからどうなるんだろうねぇ」

「他人事みたいに言うなよぉ」



 コリンは、マナ通信を介して聞いている、オンタリオの仲間にも伝える。


 千五百年前に姿を消した魔導師は、オールドアースで魔導師が誕生する以前の過去へ転移した。今から二千年以上前だろう。


 ここの古代遺跡が、MTどころか人類の銀河系進出以前に造られたのは、間違いない。


 失踪した魔導師の、少なくとも一つのグループが過去のヴィクトリアへ移住した。

 そして、転移魔法の乱用を防ぐために、軌道エレベーターを建造した。


 その後多くの遺跡を築き、歴史の改変を防ぐための防御機構を残した。


 遺跡の警報が銀河連邦軍にすぐ伝わり緊急出動したことから、それには当時の銀河政府も深く関わっていたに違いない。

 もちろん、組合や教会の上層部も。


 精霊魔術師が完全な転移魔法を使えず、ゲートを利用しなければ転移ができないのには、理由があった。


 全ての転移ゲートは空間移動専用で、時間移動の機能がない。

 そして、魔術師は単独で転移魔法を使えない。


 これは、事象の改変を防ぐために、そう設定されているんじゃないか?



(もう一度、遺跡の内部を調査してみないと)

 コリンは決意した。



 


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