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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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一年十か月前のヴィクトリア

 

「うう、とんでもない船に乗ってしまったのだ……」

 涙目のエレーナの肩を、ニアが抱き寄せる。


「エレーナは、わたしたちと一緒に来たいって泣いてたじゃない!」


「誤解なのだ。エレーナはコリンと一緒にいたかっただけなのだ……」

「わたしは?」


「そんなの、ただの邪魔者なのだ」

「……!」


「うわぁ、女の友情ははかないわねぇ。いいこと、妥協しないで思う存分争うのよ。私が最後まで見届けてあげるから!」

 シルビアが、楽しそうにエレーナの頭をポンポンと叩く。


「それは、あんまり嬉しくないのだ。やっぱりシルビアは邪悪な存在なのだ。わたしは、ちょっとしたジョークを言っただけで、本当はニアとは仲良しなのだ」


「ちょっと待ってよエレーナ。邪悪な存在って、それはないでしょ!」

 思わずシルビアの声が裏返る。


 会ったばかりのシルビアを翻弄するエレーナに、コリンは深く感心する。



 ゴーレムの出現は全くの想定外で、六人の意見は錯綜し、混乱している。


 しかしゴーレムが出現するということは、ヴィクトリアの遺跡と関連した事件であることは間違いない。


「つまり、お前ら三人が連れて来たんだよ」


 しかもタイムリープによりおよそ二年間遡った時間を超えて、ゴーレムは出現したことになる。これは、相当に特異で厄介な事態だ。


 ヴィクトリアでの異常な出来事と合わせて検討すると、その秘密がヴィクトリアの遺跡にあると推定できる。


 ただし、そう簡単に遺跡の調査はできない。すぐにまたカウンターウェイトへ飛ばされるか、その前にゴーレムの襲撃を受けるだろう。


 遺跡がダメなら、カウンターウェイトである。


 問題は、前回のように警報が出されて軍が出動する事態にならないように接近し、侵入することだ。


 当然、遺跡から強制転移されるのではなく、直接カウンターウェイトへ乗り込むしかない。


「そうと決まれば、すぐに行くわよ」


 一刻も無駄にできないというシルビアの焦燥が、コリンには何故かとても痛々しく感じて、目を逸らした。


 隣でケンが何か言いたそうに、シルビアを見つめている。



 慎重に結界で身を隠しながら、アイオスのフリージャンプ機能により惑星ヴィクトリア近隣宙域へ戻る。


 この時期、もう一隻の『オンタリオ』もまだ再起動前の状況で、空白の宙域を漂っている。


 この行動が、船団全体にどんな影響を及ぼすことになるのか。

 コリンは不安を感じているが、かといって一年十か月の間何もせずに隠れているわけにもいかないだろう。


 例えば、ヴォルトを経由して砂丘の底へ瞬時に戻れてしまうのではないか?

 そんな疑問が、頭の片隅に浮かぶ。


 コリンは怖くて、アイオスに尋ねることもできない。


 だが、この船のヴォルトは砂丘の底とは別の時空にある別の船団の、もう一つのヴォルトなのかもしれない。そう考えないと、平静ではいられない。


 そうこうしているうちに、『オンタリオ』は通常航行でゆっくりとカウンターウェイトへ接近している。



 ヴィクトリアの惑星上では、まだコリンとニアに出会う前のエレーナが、ドネル師と共に修業をしているはずだ。


 コリンは、スクリーン上で大きくなるヴィクトリアから目を離せないエレーナの背中に、声をかける。


「今ごろ、あそこにいるエレーナはどうしてた?」

「師匠やアランたちと、楽しい修行の毎日だったのだ」


「本当に?」

「うう、でも最初の二年くらいは、何度もジャングルで死にそうな目に会ったのだ」


(その頃のエレーナは、まだ十二歳か……そりゃ仕方がないよな)



 コリンとニアはブリッジを出て、魔導師専用の宇宙服を着るために、エアロック近くにある展望デッキまで来た。


 宇宙服を着用しないと、船との音声通話が難しい。


 しかしランチは使用せずに、このままコリンが窓から目的地が目視できる場所まで来たら、短距離転移で移動する予定だ。


「またヴィクトリアへ戻って来たよ、早かったなぁ」


 短い間だったが、コリンにとってヴィクトリアで暮らした日々は、思っていたよりもずっと濃厚な思い出となっていた。


「何だか、エランドとヴィクトリアを行ったり来たりだね」

「うん、カウンターウェイトもこれで三度目だし」


 ウェイトでの二度の滞在はほんのわずかな時間だったが、今度はじっくり調査するのが目的だ。



「何なら、この後メアリー先生に会いに、テカポにも行ってみる?」

 こんな時でも、ニアは緊張感のない声を上げる。


「もしかして、先生はまだテカポに来ていないかも」


「あ、そうか。なら慌てないで済むように岩をたくさん造って、置いておこうか」


「そんなことしたら、ガーディアンが来るぞ!」


「なるほどね。過去の改変を防ぐためにガーディアンがいる、とか……」

「あ、それだっ!」



 カウンターウェイトは今でも地表からケーブルで繋がっているが、その距離は十万キロも離れている。ゲートステーションは地表から四万キロ弱の位置なので、そこから先は、他に人工物はない。


 カウンターウェイトを目視できる距離まで接近した船は、それ以上近付かぬようにして、極秘裏に調査を始める。


 エレーナも二人と一緒に行きたがったが、全力で止められた。


 あの遺跡で三人一緒にカウンターウェイトへ飛ばされたからよかったけれど、間違ってエレーナだけ一人で転移していたら、完全にアウトだった。


 そのカウンターウェイトの中にも、他にどんな罠が隠されているかわからない。


 コリンとニアは薄い宇宙服に身を包み、展望窓から望むカウンターウェイトの内部へ転移した。



 


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