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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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遭遇戦

 

 そりに乗せた貨物コンテナを連結して、牽引する。


「よし、ちょっと連中を脅かしに行こうぜい!」


 ジュリオが気合を入れるが、無理して明るく振る舞っているようにしか見えない。

 他の面々も、珍しく無口になっている。


 宇宙へ出て目新しい経験に興奮し、楽しんでいた。だが今、改めてこの惑星に残してきたものの重大さに直面し、心が揺れている。


 いつだって心の底から笑うことを許さない、黒く淀んだ塊が胸の奥に眠っていた。

 運命がそれをあざ笑うかのように、彼らを再びこの地へ呼び戻したのだ。


 エレーナ以外の全員が、微妙に異なる種類の痛みを抱え、それを各々別の方法で、堪えている。


 気持ちは内側へ向かい、周囲への反応も動きも鈍い。



 クロウラーは大きなトレーラーを曳いているので、少しでもなだらかで走りやすい場所を選び進んでいる。


 うねる砂丘を縫うように走りながら、徐々に基地の方角へ接近していた。


 この辺りのルートは事前に上空から地形を調査してあり、自然と基地へ近付いてしまうように組まれていた。


 沈黙に耐えかねたケンが、最初に口を開いた。

「黙って通過させてくれるかな?」


「光学迷彩の能力があのドーム基地と同等とすれば、この距離なら俺たちが通り過ぎるのを待つ方が賢明だと、判断するだろう」


「見えたよ」

 窓の外を注視していたコリンが、前方を指差した。


「うん、確かにマナの揺らめきが漏れてるね」

 砂漠にはあり得ないマナの光が地上へ漏れているのが、ニアにも確認できた。


「これは、地下にかなりの規模のマナがあるということだよ」


「やはり、大規模基地か」

「間違いないね」


「さて、怖いから素通りして帰るぞ」

「うー、悔しいけど何もできないわ」


「ねえ、あの大きな丘の向こうで一旦車を止めてくれない?」

 シルビアの提案に、運転手のケンがすぐ反応する。


「やだよ」


「いいじゃない、少しくらい。一度降りて車体の点検をするふりをするから。三分経ったら車に戻って、そのまま立ち去るから」


「それで?」


「もしかしたら、基地から何かスパイアイみたいなのが様子を見に来るかも……」


「で、そいつを足掛かりにハッキングしようって魂胆か。ま、やってみるか」

 ジュリオが折れた。


「いいのかよ、ジュリオ。怪しまれるぞ」

「三分だけな!」


 ケンは言う通りに動いて、クルマを停止させた。



 しかし、残念ながらスパイカメラのような小型機器が飛んで来りはしなかった。


「仕方ねえ、気が済んだな。帰るぞ」

「くそっ!」


「こらシル、女の子がそんなお下品な言葉を使っちゃダメなのよ」


「ニアだってよく言ってるじゃない」


「でもエレーナは辺境の砂漠育ちじゃありませんから、そんなお下品な言葉はお使いになりませんのよ」


「なんか褒められた気がしないけど、その通りなのだ」


 そしてその後は二時間ほど砂漠の中を迷走して基地から十分に離れた場所で日が暮れるのを待ち、砂の中を移動した『オンタリオ』と合流する予定だった。



「ちょっと待って。クルマを止めて」

 コリンの言葉に、操縦していたケンが素早く反応する。


「何があった?」

「わからない。けど、あそこに何かがある」


「別の基地?」

 ニアも見つけたようだ。


「すぐ近くに、マナの漏出が見えた」


「さっきの基地のやつに、よく似ているの。うっかり近付きすぎたかも」


「バックして離れるか?」


「不自然に見えないように進路を変えて、やり過ごそう。前の低い丘の左側へ迂回して」


「わかった」

 緊張感がキャビンを包んだ。



 クロウラーはゆっくりと動き始めて、左へ転進しながら不自然なマナから遠ざかろうとしている。


 砂丘の谷間で視界が遮られる中、コリンとニアは左右に分かれてマナの光を見ようと警戒していた。


 今日は風が弱いので、砂漠の地形は数時間前に上空から観測したまま変化がない。


 その地図を頼りに、ケンはコリンの見つけたマナから離れるようにクロウラーを進めた。



 だが谷筋を抜け視界が開けた瞬間、前を見ていたケンがクロウラーを急停止させた。


「ガーディアンなのだ!」

 エレーナが叫ぶ。


 そこには、ヴィクトリアで遭遇した石のゴーレムではなく、銀色に光る体を持つ金属製のゴーレムが一体立っていた。


「今度のマナの正体は、ゴーレムだったのか!」

 左右の扉から、コリンとニアが砂漠へ飛び出す。


「エレーナ、全力の障壁でクロウラーを守って!」


 クロウラーの装置が付加した結界に加え、クロウラーのマナを使ったエレーナの障壁で、二重に防御してもらう。


 コリンとニアはクロウラーの前に出て、ゴーレムの前に立ち塞がった。


「すごいねコリン。キラキラしてるよ~」

「なんか、とっても強そうなんだけど!」


 二人は、ゴーレムの放つ美しい金属光沢に魅了されていた。


 ゴーレムの大きさと形状はヴィクトリアの時と同じ三メートルほどで、しかし砂の上を流れるような動きで二人に接近し、薙ぎ払うように腕を横に振った。


 ゴーレムは魔法の結界に身を包み、巨体が砂に埋まらぬように制御している。


 二人は後方へジャンプして躱し、以前エレーナが放ったのと同じようなサイズの、金属製の槍を発射した。


 固い金属を自在に作るのはかなり高度な魔法だが、二人はヴィクトリアの修業でこれを体得していた。


 だが、ゴーレムも後方へ素早く避けて、それを簡単に躱す。二本の槍は柔らかな砂に深く埋もれて見えなくなった。


「ひえー、こいつ、速いよ~」

 一撃必殺を信じて放ったカウンターの魔法が外れて、ニアはびっくりしている。


「ねえコリン。どうして砂漠でゴーレムが動けるの?」

「僕らのブレスレットと同じ仕組みかなぁ?」


 コリンは、ヴィクトリアでシムがゴーレムに襲われた原因と思われる、氷の欠片のような物体を思い浮かべる。


(あれがマナを充填するエネルギーパックのような役目を果たしているのだろうか?)


 だが、その後南米ステーションに現れたゴーレムは、湖の上を追って来られなかった。


(柔らかな砂の上を自在に走っているこいつならきっと、水の上も走るだろうな)


「このゴーレムは、かなり高性能化しているぞ!」


「待って。どうして強くなったゴーレムが、こんな場所に現れたの?」


「もしかして、エレーナから受けた攻撃を記憶して、それに耐えるよう学習した?」


「ゴーレムは、魔法攻撃を使わないのかな?」


「身体強化に特化して、それほど大量のマナを使えないのかも……」


「でも何のために、ここにいるんだろうねぇ……わたしたちの邪魔をするため?」


「わからない。でも、先制攻撃を受けたのは間違いない」


「そうだよね。やり返さないと、やられる!」



 


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