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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第一章 砂漠の惑星
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世界の終わりの始まり

 

 コリンが、ケンとシルビアに出会ってから、四年が過ぎた。


 それは、ヴォルトと厨房から外の世界へ少しだけ踏み出せた、幸福な時間だった。


 コリンは新しいメニューを考えたり、既存のものにひと工夫を加えてみたりと店での仕事も楽しんでいた。


 町ではケンとシルビアが試行錯誤している作業に加わり、多くのことを教わった。


 とりわけ、ハロルド・マホニーという引退したエンジニアの老人からは、様々な技術を基礎から教わった。


 ハロルドは町の太陽光発電や地下で行われている食糧生産・廃棄物処理・エネルギープラントなど、基幹設備の総合エンジニアとしても助言を行う町の重要人物の一人だった。


 その点では、三人の出会ったジャンク屋の主人、ジュリオ・エルナンデスも重要な人物だ。


 若いころに恒星船のエンジニアをしていたジュリオは、水素やバイオ燃料プラント、それに核融合などエネルギー系の大型設備の扱いを得意とする技術者だった。


 元々ケンとシルビアはこの二人の仕事場を行ったり来たりしながら、多くの技術を吸収していた。


 そこにコリンが加わってからも、町の保守を行う自動機械の改良や、個人的な趣味で取り組んでいるAI搭載の小型クロウラーなどを造って楽しんでいた。


 コリンの機械いじりは料理人が趣味でやるレベルだが、ケンとシルビアは出会った時から既に、フルタイムで働くエンジニアだった。


 コリンとは、根本的なレベルが違う。


 四年後の今、二人の技術力はハロルドやジュリオが一目置く域に達していて、町の重要なシステムメンテナンスの依頼も受けている。


 しかし、それでも特に三人が力を入れていたのは、広大な砂漠の空中へ疑似スクリーンを作り、大規模な立体映像を投影する装置の開発だった。


 町の地下にある狭い3DシアターやVRゲームなどよりももっと巨大な映像を、砂漠の蜃気楼のように空中へ投影して、大勢で参加型の3DVRゲームを楽しむ。


 そんな壮大な夢に向かって、映像機器の開発にのめりこんでいた。


 これには、この惑星ならではの技術が使われている。空中を浮遊する大量の帯電したモスを利用して、立体スクリーンに利用するのだ。


 夢は、砂漠の空に大きく広がっていた。



「コリーン、ちょっと会計頼む!」

 ラストオーダーの時刻が過ぎて厨房の片付けをしていたコリンに、兄のフレッドから声が掛かった。


 コリンが前掛けで手を拭きながら厨房を出ると、酔いつぶれた常連客のアレンさんを抱えた兄が、店の外へ出て行くところだった。


 外で待っているサムのスカートが、強い砂交じりの風になびいていた。

 サムは兄の婚約者で、最近は毎日店を手伝いに来てくれる。


 ちょうど町から呼んだ自動クロウラーが到着したところで、二人はアレンさんをその中へ押し込むのに苦戦していた。


 コリンは今夜最後の客であるグレンフォードさんの会計を手早く済ませて、端末でコルの支払いを受けた。

 銀河共通通貨のコルは、こんな辺境の惑星でも立派に流通している。


「あのさ、コリン」

 いつのまにか隣に来ていたウエイトレスのケリーが、コリンの袖を引いている。


「どうしたの?」


「新しいケーキの店が出来たんだけどさ、今日の午後一緒に行かない?」


 町から通うケリーはコリンより一つ歳下の女の子で、新しい店ができると、コリンを誘ってくれる。


 そんなことでもなければコリンは新しい店など絶対に行かないので、喜んで一緒に行かせて貰う。コリンにとっては貴重な友人だ。


「やった、それはいいね、ありがとう。必ず行くよ!」

「うん、よかった」


 ケリーはキラキラした笑顔でコリンを見上げる。そばかす交じりの笑顔の後ろで、ポニーテールの赤い髪が嬉しそうに揺れていた。


「じゃあコリン、いつもの時間にいつものところでね」

 しかし、コリンはケリーの笑顔に見とれていて、その言葉も耳に入らない。


「こら、早く店を閉めるぞ」

 振り返ると、父親がニヤニヤ笑いながら二人を見ていた。


 足元ではニアが不満そうに、コリンの脛へ爪を立てる。

「痛い、こら。ニア、僕の足で爪を研ぐな」


「よし、本日の営業は終了だ」

 外から戻ったフレッドとサムが、店の扉を閉める。


 もう朝が近い。うっすらと東の空が色を変えようとしていた。


「さあ、あたしたちも帰るよ」

 ホール頭のリンダが客席の掃除を終えて声をかけた。


「やばい、厨房も早く片付けないと」

 コリンはケリーに手を振り、厨房へ戻る。


「あれ、ケリーちゃん、今日はコリンとデートかい?」


「違いますよ、リンダさん。十五ブロックにできたケーキ屋さんへ、試食に行くんです。これは立派な、お店のお手伝いなんですからね」


 上ずったケリーの声に、みんなが冷やかして笑う。


 コリンもそれを聞いて顔を赤くしながら、洗い終わったグラスを収納庫へ移す作業に没頭した。


「さあ、あたしらも早く帰ってひと眠りだ。コリン、寝坊してケリーを待たせるんじゃないよ!」

 リンダの声が店に響いた。


 それが、コリンがリンダやケリーと会って話をした、最後の記憶になった。

 楽しかった日々は、突然に終わりを告げる。



 それから数時間後に、エギムの町は襲撃を受けた。


 まだ昼前の時間で、コリンはニアと一緒にヴォルトで眠っていたので気付かなかったが、突然砂漠から現れた武装集団により、『砂丘の底』は銃撃された。


 巨大なクロウラーや沢山のバギーで町を襲撃した武装集団は、町の中にいた内通者が門を占拠して、そのまま門を通過して町の中へ入ってしまった。


 その際に、東門の門前にある『砂丘の底』も銃撃されたのだ。


 父と兄が応戦したが、盗賊は店には見向きもせずに通り過ぎて、町へ入って行った。


 町へなだれ込んだ盗賊団は、町の中心にある尖塔を攻撃し、町の上部を覆う結界を消失させた。


 上部の結界が消えれば町は無防備で、砂嵐に襲われれば精霊の森が砂に埋もれ、町は孤立する。


 万が一城壁の結界まで失われれば、町はやがてワームの群れに襲われて砂に飲まれるだろう。


 失われた結界を取り戻すべく、父と兄は武装して町の中へ入った。


 コリンも一緒に町へ行くと言ったが、二人に大声で怒鳴られてしまった。

「この店だって、銃撃されたばかりだ。お前が残って、ここを守るんだぞ」


 少しの風でも砂とモスが舞い上がるこの星では、レーザーやプラズマ系のエネルギー兵器の減衰が激しく射程が短くなりがちで、固体弾を発射する銃器が多く使われる。


 父と兄もケミカル推進の半固体弾を発射する、古いサブマシンガンを肩にかけていた。


「お前はこれを使え」

 父親はコリンにエネルギーパックの予備と共に、短射程の麻痺銃スタンガンを手渡した。屋内での護身用であれば、これでも十分だろう。


「すぐにニアとヴォルトへ隠れて、戦闘が終わるまで出て来るな。ネットでは、敵はあの天の枷だと言っている」


 天の枷という名の盗賊団はこの惑星最大の犯罪組織で、あらゆる犯罪の陰に天の枷ありと言われるほど広く知れ渡っている。


 しかし世に知られているのはその名だけで、実態はほとんど隠されていた。

 ただ、どこかで大きな事故や事件があると、裏には天の枷の名が噂されるのだった。


 


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