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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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おじさんじゃねぇぞ

 

「さて、今後の方針だけどよ」

 ジュリオが再び本題に戻す。


 トレーニングルームの中にある休憩コーナーに、全員が腰を下ろしている。


「最初にジュリオが言ったけどさ、砂漠へ降りる前に、入念な調査が必要だと思う」


 コリンはこのまま下手に動くと取り返しのつかないことになりそうで、怖かった。

「ここは、本当に僕たちの知っているエランドなのかな?」


「それは、どういう意味だ?」

 ジュリオが怪訝な顔で隣にいるコリンを振り返る。


「どこか細部の違う別世界、という可能性もあるよね」

「並行世界、というやつか」


「それに、僕らのいた世界で知っていたことがすべて真実とは限らない」

 エギム襲撃の真相はハロルドから聞いていたが、その裏付けはない。


 自分たちが介入することで、本当に街を救えるのか。

 そして、そんな行為が本当に許されるのか。

 もう少し時間をかけて、エランドの現状を詳しく調べておきたい。


(ここは本当に、自分たちの暮らしていたあの惑星なのだろうか?)


「もしここが私たちの暮らしていたエランドなら、エギムには私たち自身がいるはずよ。どう考えても、そこへ私たちが行っていいとは思えないの」


「ああ、確かにな」

「オレもそう思う」


「シル、ジュリオが言うように、今日はアイオスと協力して調査を進めてくれる?」


「僕らはもう少し詳しくエレーナに船の中を案内して、色々教えることがあるから」


「わかった。じゃ、お昼まで解散ね」

「おお、そういうことで、頼む」



 ケンは一人でラボに残り、ブレスレットの研究を続けている。


 エレーナはジュリオに連れられて船内を見学中だが、コリンとニアもその後ろにぴったりと付いている。


「二人は、このおじさんがエレーナに悪さをしないように見張っているのか?」

「うん」

「このおじさん、危険だからね」


「危険じゃないし、俺はおじさんじゃねえっ」


「エレーナ、可愛そうだからジュリオと呼んであげて」


「で、ジュリオは私をどこへ連れて行くのだ?」

「機関室だ」


「おお、エレーナは船の機関室へ入るのは生まれて初めてなのだ!」

 急に足取りが軽くなったエレーナが、ジュリオにぶつかりそうな勢いで歩いている。


「よし、ここだ」

 狭い廊下の突き当りにある、機関室の扉が開く。


「こいつが魔導エンジンだ」

「小さいのだ」

「だろ」


「これでも、人類最強の戦艦に負けない出力があるらしいよ」


「それなら転移しないで、通常航行でも逃げられたのではないか?」

 そう言われると、コリンは返す言葉もない。無理して転移魔法を使ったおかげで、こんな目に会っている。


「でも、楽しかったよー」

「ニアはいつも気楽で羨ましいのだ」


 そんなことを言い合いながら、コリンは久しぶりに入った機関室の中を何気なく眺めている。


 機関室の中で、魔導エンジンと反対側に設置されているのが、船の転移装置だとコリンは聞いている。


 特にゲート状の何かがあるのではなく、船を結界ごと転移させるために、結界と転移の主装置はここへ集約されているらしい。


 漫然と眺めていると、壁面に埋め込まれた機器の中に、コリンは気になる箇所を見つけた。


 だがよく考える前に、ジュリオがエレーナを促して部屋を出て行こうとする。


「さて、次はランチを見に行くぞ」

「さっき朝御飯を食べたばかりなのだ」


「そのランチじゃねぇ。近距離移動用の搭載艇だ」

「ランチと聞いたらそうボケるようにと、姉さんの遺言なのだ」


「メアリー先生を殺すんじゃねぇ!」

 ジュリオは苦笑しながら、格納庫へ移動する。


「エレーナにもしっかり訓練させないとな」

「うん、そうだね」

「何の訓練なのだ?」


「ランチの操縦とか船外活動とか、お客様の避難誘導とか色々ある」

「結構面倒なのだ」


 眉間にしわを寄せるエレーナを見て、ニアが喜んでいる。


「それに、お店の手伝いも覚えてもらわないとね」

「ワオ、色々大変ではないか」


「大丈夫、エレーナならすぐに覚えるよ」

「私の味方はコリンだけなのだ」

 そう言ってまたエレーナがコリンの腕にぶら下がる。


「こら、そういうことをするから、あんたの味方がいなくなるの!」


「じゃ、ジュリオで我慢するのだ」

 ニアに引きはがされたエレーナは、ジュリオの左腕に抱き着く。


「おじさんっていうより、こりゃ親子だね」

「エレーナのパパはいないのだ」


「じゃ、丁度いいじゃない」

「俺は別によかねえぞ」


「ママは美人なのだ」

「うーん……」


「ジュリオが本気で悩んでる!」

「もしかして、エレーナはパパ似なのか?」


「そんなことは知らないのだ!」

「そりゃ悪かったな」


 次に向かったのは、医務室だった。


「ちょっと他所には見せられないような医療器具も揃ってるから、ここはあくまで乗組員専用だ」


 外部に公開できる部屋はこれから別に作る予定だった。

「そういうのも、エレーナには手伝ってもらわないとな」


「任せるのだ。他にも広域結界やテラリウムの世話は得意な分野なのだ」


 エレーナは教会育ちなので、そういった方面の偽装には強い味方になりそうだった。



 


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