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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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お土産は大好評だったのに

 

 翌日の朝食後、トレーニングルームへ全員が集合した。


「この部屋にも、マナを全く感じないのだ!」

 エレーナは、少し落胆した声を上げた。


「いや、宇宙じゃそれが普通だからね」

 ニアが軽く突っ込む。


 エレーナはマナに満ち溢れたヴィクトリアに四年も暮らしていたので、一般の魔術師とは感覚がまるで違う。


「そういえば、お土産も渡してなかったよね」


 コリンはそう言うが、とても土産を期待できるような帰還ではなかった。


 考えてみればエレーナはともかく、コリンもニアも出掛ける時に持って行った荷物すらなく、体一つで船に戻って来た。


「何がいいかな?」

「私は何か可愛いアクセサリーとかがいいな」


「じゃ、シルにはこれ!」

 コリンが言い終わらぬうちに部屋の中央に体長三メートルを超えるクロカイマンが現れた。


 悲鳴を上げて飛び退かないのは、コリンとニアだけである。


「大丈夫、生きてないよ。クロカイマンは、アリゲーターの仲間で最大のワニなんだぞ!」


「そんな知識いらないわよ!」


「こんなのはサプライズじゃなくて、ヒドイ嫌がらせなのだ!」

 慣れているはずのエレーナですら、怯えて涙目になっている。


 ジュリオとケンはただただ言葉を失っている。


「いや、これでワニ革のバッグでも作れないかと……」

「それに、お肉も美味しいよっ」

 コリンとニアは、全く動じる気配もない。


「そもそも、どこから出した!?」

 やっとジュリオの脳が活動を始めた。


「あれ、言ってなかったかな。僕の自動収納庫だけど……」

「そんなのは、聞いたことがないのだ!」

「だとよ。俺たちが知るわけがねーだろ!」


「あんたたち、まだ何か隠してるの?」

 シルビアがワニから隠れるようにコリンの背後に回り、コリンとニアの肩を叩く。


「わたしたちの魔法に関しても、一々説明する必要がある?」

「そりゃ構わないが、オレたちの心臓に悪い!」


「あ、ケンにはこっちがいいかな?」

 コリンは続けて新しい獲物を床に出現させた。


 それは半分凍った太いニシキヘビの近縁種、十メートルはあろうかという水生の凶暴なヘビ、オオアナコンダだった。


「「「「!!!!」」」」

 四人は再び悲鳴を上げて、壁際まで後退する。


「いや、蛇革の方が好きなのかなって……」

「うん、このヘビもなかなか美味なの!」


「いいから、早く収納庫とやらへ戻せ、バカヤロウ!」


「こんなのと一緒に収納されてるお土産なんて、絶対にいらないからね!」

 シルビアの怒りが爆発している。


「でもこれ、今夜のおかずだよ」

 軽くニアが言うと、シルビアは黙ってその首を掴んで、締め上げた。


 ニアは猫の姿に変化して逃げ出す。


「コリン、お願いだからやめてねっ」

 シルビアが潤んだ瞳でコリンを見つめた。


「う、うん。じゃ、今夜もイグアナにしておくよ」


「……今夜も?」


「昨日の唐揚げは、みんなすごく喜んで、何度もお代わりしてくれたからね……」


「……えぇぇぇぇっ?」


「シルも大絶賛していっぱい食べたでしょ。今夜も楽しみだね!」


「イ、イグアナって…………いや待て、コリン。間違っても今その本体を出すんじゃねぇぞ!」


「でも、残さず食べるのがジャングルの掟なのだ」


「も、もう私たちはいいから、残りはあんたたちがしっかり食べなさいよね!」


「「は、はい……」」



 気を取り直して、ジュリオが口火を切る。

「アイオスとシルビアには、エランドの情報収集と分析を頼みたい。これから俺たちに何ができるのか、考える材料が必要だ」


「その前に、ちょっと昨日の続きをやりたいんだけど……」

 ケンが部屋の隅へ歩いて行く。


 その一角には作業台や収納庫が置かれて、ちょっとした研究施設のようなコーナーとなっている。


「ここは、オレがラボとしてアイオスに借りてる場所」


「ああ、ブレスレットを改造してたのは、ここなんだね」


「そう。ここなら作業と実験が同じ場所でできるから、都合がいい」

 この広い部屋には、様々な機器や仕掛けが用意されている。


「さて、では実験Ⅱといこうか」

 ケンは壁際の収納棚からブレスレットを一つ取り出す。


「昨日はコリンに遠隔でマナチャージを試してもらって、成功した。今日はまずエレーナにも同じことをやってもらいたい」


「では、コリンと手を繋ぐのだ」

 エレーナが出した手をコリンが握り、マナを送る。


「来たのだ」


「では、この台の上のブレスレットへ触れずにマナをチャージしてみてくれ」

「わかったのだ」


「チャージに成功いたしました」

 アイオスが答える。


「よし、では次。今度はコリンが手を放して、逆にブレスレットからエレーナへマナを送る実験だ」


「ん、それは昨日ちらっと聞いたような……」


「そう。元々別のブレスレットへ遠隔でマナを送る機能があるのだから、エレーナが上手くそれを引き出せれば、魔法が使えるようになるかと思ったんだけど」


 エレーナの目が輝く。

「すぐにやってみるのだ!」


 エレーナがじっとブレスレットを見つめて、集中する。

「ダメなのだ。このブレスレットからはマナを感じないのだ」


「待てよ。船から、またはブレスレット同士でのマナチャージは、自動でやっているんだよね」


「はいその通りです」

 アイオスが返事をした。


「そのトリガーは、何か受け側からのリクエスト信号があるのかい?」


「いいえ、船体とブレスレット相互のマナ通信により、常時状態を監視しています」


「ほとんど見えないような、微弱なマナで結ばれているよ」

 アイオスの返事をニアが補足した。


「状態監視プログラムにより適宜マナ補充プロトコルが働くのね。この台にあるブレスレットは、ケンの指示で特別にマナの補充を止めているんでしょ?」


 シルビアの質問に、アイオスがその通りですと返す。

「じゃあ、エレーナのブレスレットにも特別な指示をすればいいんじゃない?」


「あ、そうか。じゃ例えば、エレーナが『HEY、アイオス』って言ったら、ブレスレットからエレーナの腕にマナを流すっていうのはどうだ?」


「承知しました。やってみましょう」


「じゃ、言うのだ。『HEY、アイオス』なのだ」

 すると、エレーナのブレスレットがぶるっと震えて了解を伝えた。


「ん、来たのだ!」

 そしてエレーナは、水の少ないアフリカ大陸の旅で必死に覚えたばかりの、洗浄魔法を使ってみた。


 エレーナの周囲を風が包み、穏やかな結界内部で洗浄魔法が発動した。


「おお、これってニアの風呂嫌い魔法か!」

 結界が消えると、爽やかな香りを振りまくエレーナが笑っている。


「できるのだ!」

 魔法の行使が一区切りすると、マナの供給は止まった。


「お、オレにもその魔法やってみて!」


「やってみるのだ。『HEY、アイオス』なのだ」

 すぐに、ケンの体を旋風が包む。


「おお、これがニアの横着風呂ギライ魔法か。一度やってみたかったんだ!」

「ただの洗浄魔法なのだ」


 風が消えた後には、妙に爽やかなイケメンが笑顔でポーズを決めていた。

 だが、周囲のリアクションはない。


「ただ、このウェイクワードは変えてほしいのだ」

「そこはアイオスとよく話し合って決めてくれ」


 何はともあれ、実験Ⅱも大成功だった。


「さて、これで砂漠へ降りる準備が一つ終わったぞ」


「確かに、それは一歩前進、なのかな?」

 コリンには、昨日来たばかりのエレーナが当然のように馴染んでいることが、不思議でならなかった。



 


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