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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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エレーナの役割

 

 その夜レストランの三階で行われた歓迎会の中でも、幾らか実務的な話が出ている。


「銀河ネットに、タイマーで送信するメッセージを残すっていうのはどう?」

 シルビアの提案に一同が納得する。


「とりあえず、窓口は教会でいいの?」


「それでいいのだ。私は教会の特別顧問という自由な立場を貰っているので、そこを経由すれば足取りは絶対に追えないのだ」


 取り急ぎ、というか急ぐ必要があるのかどうかもかわからないが、忘れないうちにやるべきことがある。


 行方不明になっているエレーナの無事を知らせるメッセージを、最低でもドネルとメアリーに送っておかねばならない。


 ついでに、エレーナと一緒に姿を消したコリンとニアの安否確認にもなる。


 ただし、そのメッセージが届くのは、今から一年十か月後になる。

 この世界では、まだ三人は失踪どころか出会ってさえいないのだから。


「ではエレーナには幾つかメッセージを書いてもらって、教会に持っているエレーナのアドレスから、LM1523年1月12日以降にメッセージが送付されるように予約する、と」



 次に、これを見てくれ。

 ジュリオが取り出したのは、お馴染みのブレスレットだった。


「あ、そうか。エレーナにもブレスレットを渡さないとね」

 コリンは簡単に言った。


「そうじゃない。いや、そうなんだけど、これは今までの物と少しだけ違うんだ」


 ジュリオはそれをエレーナに見せ、手渡す。そして同じ物を、コリンとニアの前にも置いた。


 コリンとニアがヴィクトリアへ行っている間、ケンとシルビアはブレスレットの解析を進めていた。


 LL-5で銀河ネットワークとの接続に利用したブレスレットの使い方は、あまりスマートではなかった。


 今はコリンとニアは指輪を使っていて、ブレスレットは予備品としてそれぞれの収納に保管されているだけだ。


 ジュリオを含めた三人の非魔法使いにとってそれは単なる通信端末で、しかも船から三百メートル以上離れればマナの供給が断たれて稼働時間が限られ、彼らには他にマナの補給方法もない。


「どういう仕様なのか、ブレスレットへのマナ供給は船から行うだけで、コリンやニアが同行していても、他の人物が使うブレスレットへは遠隔でマナの供給は行えない」


 確かに、コリンかニアがブレスレットに手を触れて、直接マナを補充してやる必要があった。元々、そういう需要のない機器だったのだろう。


「精霊の森やテラリウムなど自然界のマナをブレスレットが直接吸収することができれば、稼働時間が伸びるだろうに」


「それに、MT技術の応用で、ブレスレットを利用した簡単な魔法が使える可能性だってあるのよ。転移ゲート装置や結界で使う触媒技術の応用としてね」


 シルビアは、とてつもない話を始めた。


「で、そこへ突然、精霊魔術師のエレーナが加わったわけだ」


 天の枷の精霊魔術師は、彼らから奪ったブレスレットを調べるために、テラリウムから集めたマナを流していた。


 同じ魔術師のエレーナならば、船から離れても精霊の森からブレスレットへ、マナの補給が可能かもしれない。


 だが、その機能は正式にアイオスからアナウンスされてはいない。


 元々魔導師船には、自然界のマナを取り込む仕組みは全く考慮されていない。


 そもそもその時代に、現代の精霊魔術師に相当する存在があったのかも不明だ。魔導師の持つ圧倒的なマナを利用する方が、遥かに効率が良かったので当然だろう。


 これからは今の時代に合わせて、偽装用のテラリウムから本気でマナを取り出すことも検討する必要があった。


「だがよ、逆に考えると、船から三百メートルまでの範囲ならば、ブレスレットからのマナ供給で、エレーナにも魔法が使える可能性だってあるんだぞ」


「それは、エレーナが船の中で魔法が使えるようになるってこと?」


「それだけじゃない。コリンやニアのマナをブレスレット経由でエレーナに送って、外でも魔法を使うことができるかもね!」


「いや、それはもうブレスレット無しでやってるんだけど……」


「マジか?」


「そうなのだ。今日カウンターウェイトの宇宙空間へ飛ばされたときに、それで私は命が助かったのだ」


「じゃあ、これからブレスレットの実験もできるよね!」

 エレーナは貴重な実験材料として、三人に確保された。


「そういうわけで、先ずは改造したこのブレスレットの機能試験から始めたいんだよ」

 ケンが、期待を抑えきれないような上ずった声を上げた。



 どこまでできるかわからないが、これらの機能がブレスレットに加われば、かなりの戦力アップになる。既に実証済みの機能もあって、期待は大きい。


「私はニアから、ネコになる魔法を教えてもらうのだ!」

 エレーナはそう言ってニアに抱き着いた。


「エレーナはそうやってコリンに近付く気だなっ!」


「違う。ニアと違ってそんな邪悪なことは考えないのだ」


「いいなー、私もネコになりたい」

 シルビアが二人を見て羨ましそうに言う。


「エレーナ、騙されてはいけないのだ。この女はメアリー先生の次に邪悪な女なのだ」


「だから、どうしてそこで姉さんが出て来るのだ?」


「うーん、何となく?」


「姉さんは、そんなに邪悪ではないのだ」


「私だって違うわよ!」


「そうかなぁ?」

 エレーナとシルビア以外の全員が首を傾げる。


「姉さんと何があったのだ?」


「それが言えないから、苦労させられてるんだよ!」

「そう。メアリー先生に嵌められて、僕らは強制労働させられたんだ……」


「だけど、二人は姉さんの紹介でヴィクトリアへ来たのだろ?」

「それはそうだけど……」


「やっぱりハニートラップ?」


「だから、それは違うけど……でもトラップだったよなぁ、あれは」


「姉さんは私と違い、教会で世のため人のために働いているのだぞ」


「うん。そのために働いて来たから、よくわかってるよ」

「そうなのか」


「で、このデバイスはどこが変わったの?」


「よし。では実験Ⅰ、エレーナ、それを腕に着けてみてくれ」

 ケンが実験を主導するらしい。


「何なのだ、これは?」

「話を聞いてなかったのか?」


「聞いていたけど、何が何だかわからないのだ」


「そのブレスレットは、マナで動く通信端末だ。今は、マナがほんの少ししかチャージされていない。さて、コリンはエレーナにマナを送ってみて」


 コリンは、そっとエレーナの手に触れる。

「来た。これなのだ。これなら魔法を使えるのだ」


「じゃ、アイオス。エレーナのマナを使ってブレスレットへマナチャージできるかい?」


「承知しました。実行中です……成功しました。フルチャージしますか?」

「いや、途中で止めてくれ」


「じゃ次に、エレーナはコリンと離れてこっちへ来て」

 ケンがエレーナを連れて、階下へ降りる。


 そして、入口のゲート近くにある擬装用テラリウムの前へ行った。


「偽装用だけど、本物のマナが少しは生まれているだろ。エレーナは、それを使えるかい?」


「やってみるのだ」

 エレーナは目を閉じる。


「うん、確かにマナを感じる。少しだけど、魔力に使えそうなのだ」


「じゃ、アイオス。エレーナのマナでブレスレットをチャージしてみて」


「チャージに成功しました。フルチャージしますか?」

「それはもうちょっと待ってくれ」

「承知しました」


「最後にもう一つ」


「コリン、手を触れずに、エレーナのブレスレットへ直接マナのチャージができないかな?」


「今までは無理だったよね?」

「ああ。アイオスと検討して、これも追加した機能だ」


「やってみるよ。アイオス、他のマナのない部屋へ行った方がいい?」

「いいえ、私がマナの流れを観測していますので、コリン様はこのまま実行してください」


 そうしてコリンはエレーナから少し離れた場所に立ち、集中した。


「あ、いい感じ」


 ニアには、コリンからエレーナのブレスレットへとマナの輝きが流れるのが見えた。

「わたしもやる!」


 ニアも真似をして、マナを動かす。

「コリン様とニア様のマナが、どちらもブレスレットへチャージされました。実験は成功です」


「よし、実験Ⅰは大成功だな!」



 


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